第一章11『活躍の時』
三次試験はチーム対抗戦だ。
四対四で一人ずつ勝ち抜き形式で対戦していき、最後の一人を倒した方のチームが勝利のシンプルなルール。
この試験会場は特別な結界が張られており、死なない限りどんな重症でも治せるようになっている。
そのため日を分けるようなことはせず、今日のみで三次試験を済ませる運びだ。
「なんで全体に結界貼らないんだろうね」
控え室で準備をしていると、不意にセレネが呟いた。
確かにそうだ。ドーム全体に結界を張れば昨日のような事件があっても安全だが、結界はこの会場にしか張られていない。
「...そう簡単に張れないんだろ」
クァイスが返した言葉で、ブルーはハッとする。
「そうか、魔力制限か」
魔法は術者の魔力の量と質によって性質が変わる。
この結界の場合術者の魔力ではこの大きさが限界だったのだろう。
「ねぇ、そういえばみんなは何属性の魔法使えるの?」
セレネが身を乗り出して聞く。
魔法には大きく分けて八つの属性があり、最低一つ、多くて三,四個ほどの属性を持って生まれる。
魔法は生まれ持っているもので、自分で選ぶことは神にでも会っていない限り出来ない。
魔法属性の内訳は炎,水,電気,風,自然,光,闇,強化となっている。
「私はもうわかってると思うけど光属性だよ!回復が得意なんだ〜」
セレネはニコニコと話すと、興味津々でクァイスの方を見る。
「...俺は強化属性だけだ。肉弾戦しか出来ない」
───なるほど、道理で怪物との戦闘で遠距離攻撃を使わなかった訳だ。
身体能力が高かったのも頷ける。
強化属性は名の通り身体能力を強化するもので、当人の筋力に比例して強さを増していく。
この世界で最も術者の多い属性で、その汎用性の高さから最も希望の多い属性でもある。
「僕も電気属性だけだよ〜。雷とかのかっこいい魔法が好きなんだ!」
───反対にオルトーは遠距離攻撃主体か。
電気属性は他の属性と組み合わせると強い属性の一つだが、オルトーの場合は単体で上手く戦うんだろうな。
電気属性の魔法は無から電気を生み出すことの出来る便利な魔法だ。
戦闘では基本的に電気を発射して遠距離攻撃を仕掛けるものだが、身体に纏わり付かせて戦う人間も存在する。
「俺は水と強化属性の二つだけど、どっちも欠陥品です」
ブルーは自分の番になって話したが、不意に余計な事まで口走ってしまった。
「え、欠陥って何がダメなの?ブルー君すごく強かったけど」
すかさずセレネが聞いてくる。
「...まぁ、そんなに強くないんですよ」
ブルーはそれだけ言って、口を
─── 一通り全員の魔法属性を聞いた感じ、それなりにバランスは良さそうだ。
遠距離二人に近距離二人。そして回復役もいる。
まあ回復役は三次試験だと本人にしか意味が無いが。
三次試験の対抗戦の出場順はオーダー制になっていて、この待ち時間に順番を決めて申請する必要がある。
一通り作戦会議をして、順番が決まった。
先鋒【ブルー】
次鋒【オルトー】
中堅【セレネ】
大将【クァイス】
基本はブルーが先鋒で暴れて残った敵をオルトーとセレネが倒し、最後の砦としてクァイスが大将で構える戦法となった。
「そういえばさ、ブルー君とクァイス君はどうして勇者試験を受けたの?」
順番を申請した後、オルトーが二人に尋ねる。
ブルーはクァイスと顔を見合わせ、気を遣って先に口を開いた。
「俺は、父さんを探しに来ました」
静かに呟くブルーに、セレネがピクリと反応した。
勇者試験を受けるまでの経緯を軽く話すと、チームメイト全員が神妙な面持ちに変わった。
「ブルー君は、強くなりたいんだね」
セレネがポツリと呟く。
持ち前の笑顔をなくし、強く感情移入しているようだった。
「強くなりたい、それなら俺も同じだ」
不意にクァイスが立ち上がる。
「俺の故郷は、強者こそが全ての場所だった。
強き者が崇められ、弱い者は見捨てられる。
そんな世界を、俺は───」
ここからというところで、ノックの音が響いた。
一回戦の時間を伝えに来たようだった。
話を切り上げ、ブルー達は再び会場へと向かった。
対戦の舞台となる場所は真上から見て正方形の形をしていて、障害物のない平面でかなり余裕を持った広いスペースになっていた。
舞台に着くと、相手のチームが既に四人並んでいた。
全員セレネやクァイスと同じくらいの年齢層で、三次試験まで到達する人間の平均年齢が伺える。
強化属性の魔法が存在する以上肉体自身の強さはあまり関与せず、魔法が強力であれば年齢など関係ないのがこの世界の
全員が集まったのを確認すると、審判の男性がルール説明を始めた。
「これからチーム対抗戦を行う。トーナメント形式で各チームの受験者が一人ずつ対戦していき、大将となる最後の一人に勝利したチームが次の対戦へと進むことが出来る。
対戦の勝利条件は三つだ。
1.相手が降参する
2.相手を戦闘不能にする
3.相手を場外に出す
また、相手を死に至らしめる行為は禁止とする。
制限時間は一試合五分。
それまでに決着が着かない場合両者を負けとして次の受験者に交代してもらう。
試合開始はブザーで合図する。
また、今回の試験は持ち込んだ武器の使用を許可する。
以上だ。各自最後まで励むように」
審判は一度も噛まずにはきはきと言い切り、足早に舞台から去っていった。
激しい戦いになっても安全に審判を行うために遠くから観戦するのだろう。
そして、今回の試験は持ち込みの武器が許可されている。
───お手製の改造ナイフが活躍しそうだ。ようやく自由に戦える。
審判が舞台から離れると同時に、先鋒の選手以外は全員控え室となる観戦席へと向かった。
離れる際、チームメイトが頑張れと声をかけてくれた。
昨日出会った頃には想像も出来ない親密度の上がり様に、ブルーは少し笑ってしまった。
チームメイトを見送り、相手の先鋒の男性と顔を合わせる。
かなりガタイが良く、まともに肉弾戦でもしようものなら一瞬で吹き飛ばされてしまいそうだ。
しかし、この勝負は言わば殺す以外何をしてもいい無法地帯レベルのルールだ。
昨日の怪物戦で何も出来なかった分好きにやらせてもらおう。
試合開始のブザーと共に、敵チームの男性が話しかけてきた。
「悪いが子供にも容赦しねぇ。吹き飛べ」
掛け声と同時に風魔法を放ってきた。男の手の平から渦を巻いた風が勢いよく放たれる。
軽い攻撃だが、人一人吹き飛ばすには十分な力だ。
普通の人間なら一瞬で場外に吹き飛ばされてゲームセットだろう。
ブルーは一瞬でナイフを抜き取り、素早く回転しながら居合の要領で風魔法を切り裂いた。
回転の勢いを利用し、相手の懐まで飛び込む。
そのまま凄まじい勢いで相手を通り過ぎると、男性は静かに崩れ落ちた。
主要な関節を切り落とした上に一撃裏拳を叩き込んだのだ。意識を失って動けなくなるだろう。
数秒程同じ状態で固まると、試合終了のブザーが鳴った。
アナウンスでブルーの勝利が告げられる。
「とりあえず一勝...このままいくぞ」
敵チームの男性がスタッフに運ばれ、すかさず次の相手が登壇する。
勝ち抜き式のルールだ。休む時間などない。
開始のブザーと共に、ナイフを振り下ろした。
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