第一章4『勇者試験』
翌朝、唐突にカーラが一枚のクシャクシャな紙を渡してきた。
紙には大きく『勇者試験のお知らせ』と書かれている。
「ブルー、
ニヤリと笑うカーラを見て、ブルーはポカンと口を開けてしまった。
父親を探すために研究員になる目標は今まで誰にも話したことがなかった。
「母ちゃんはな、何でもわかるもんなんだ。隠し事がしたけりゃその試験でも合格してさっさとこの家から出ていっちまいな」
ブルーが驚いたのは、単に研究員になる目標が見透かされたことだけではなかった。
研究員になるには、最低十五歳から受けられる試験に合格する必要がある。
ブルーは現在十三歳であり、試験を受ける権利すらなかった。
しかし、勇者試験となれば話は別になる。
勇者試験は研究員になるための試験とは別に数十年に一度開催されるいわばお祭りのようなもので、この世界で最も優れた強さを誇る人間を見出すための試験だ。
狭い門を潜り抜けて合格した人間は勇者の称号を与えられ、可能な限り何でも一つ願いを叶えることが出来る権利を与えられる。
その権利を研究員になることに使えば幼いうちから研究員になれるというわけだ。
カーラはそこまで見越してブルーに勇者試験の開催を伝えたのだった。
「カーラばあさん、ありがとう!」
潤んだ瞳を誤魔化すように、ブルーは思い切りカーラに抱きついた。
「ばあさんじゃないよ、まったく…」
***
その日からブルーは森で勇者試験に向けて修行をするようになった。
森に出向いてはゴブリンと戦闘し、実戦経験を積んだ。
「はっ!」
ゴブリンを切り裂き、素早くナイフを振り払う。
倒れた亡骸に目を向け、肩を落とす。
数々のゴブリンを薙ぎ倒したブルーだったが、まだ自信を付けあぐねていた。
勇者試験に年齢制限はない。一見メリットに思えるそれは老若男女問わず過酷な試練を与えることを意味していた。
まだ十三歳と幼いブルーにとって非常に厳しい試験になるだろう。
それでもブルーは覚悟を決め、全力で修行に励んでいた。
父親を探すため。そして、家が襲われた理由を知るため。必ずブルーは勇者試験に受からなければならなかった。
例年通りであれば、勇者試験は主に3つの試験を受けることになる。
1,
一次試験となる最初の課題は、最低ランクの怪物を倒し、討伐の証拠を十匹分提出するもの。
一次試験とは言われるが、最早参加資格のようなものだ。
大抵のお遊びで参加した人間はここで弾かれる。
既にブルーはゴブリンを三十匹以上倒し、討伐証拠も提出済みだ。
2,怪物討伐[チーム]
主催者側が用意した並程度のランクの怪物を倒す試験。
一次試験を通った者の中からランダムでチームが組まれ、そのチームで討伐する。
こればかりは練習のしようがない。
3,チーム対抗戦
二次試験で組んだチームのまま、二次試験を突破した他のチームとトーナメント形式で対抗戦をする。
チームとは言ったが基本的には一人ずつ戦うルールとなっており、ほとんど個人戦のようなものだ。
本人が強ければチーム相性は関係ないだろう。
そして三次試験を突破した後は───
「もういいよ〜ブルー。説明長くて頭痛くなっちゃう」
ハナが耳を抑えて喚く。
暇だからといって森まで着いてきて勇者試験について聞いてきたから説明しているというのに、少し話しただけでバテてしまっては話の仕様がない。
「まったく、ハナは飽きるのが早いな。俺は修行に戻るからさっさと帰った帰った」
ハナはカーラ家で最年少の十二歳で、歳が近いブルーが来てからというもの妙に懐いて
安全な所までハナを見送った後、ブルーは森に戻って鞘からナイフを取り出した。
「二次試験まで後二週間。それまでにこいつを仕上げなきゃな」
切り株に胡座で座り、ナイフを目の前に置く。
ナイフに両手をかざし、目を閉じてブツブツと何かを唱える。
すると手のひらから水で出来た球体が出現し、ぐにゃぐにゃと変形して工具の形になった。
「さっさとやるぞ」
ブルーは先程の魔法で出来たドライバーのようなものを持ち、ナイフを改造し始めた。
ナイフを改造する金属音は、遅くまで森に響いた。
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