第2話 掃除と部室と破壊音
僕は春という季節はあまり好きではない。
暑すぎるわけでもなく、寒すぎるわけでもなく一般的に過ごしやすいといわれる季節がどうしてと思われるかもしれないが、別に僕は春という季節そのものが嫌いなわけではない。あと、僕が花粉症だということを差し置いても、そこそこ生活しやすい季節だとは思う。じゃあ、なんで…と思うかもしれないが、それはずばり春は様々な行事が多いからだ。
入学式を始めとして、新入生歓迎会や球技大会…こんな楽しそうな行事たちも実はあらゆる場面で僕らの心をむしばんでくる。
例えば今、準備をしている新入生歓迎会では部活動紹介があるのだが、部員の誰かが大勢の舞台の前に立ち部活動の紹介をして何なら少し面白い小ネタでも披露しないといけない。陽キャにとってはそんなこと大したことではないのかもしれないが、そんなことは僕みたいな陰キャにとっては万死に値する行為だ。なんとしてもそんな役目は避けたいのだが、それはほかの仲間とて同様なのだろう。だから、今僕らは互いに相手に何としてもこの役目を押し付けようとしているのである
「なあ港、お前、俺たちの中では1番友達が多いよな!お前、俺たちの中では一番陽キャっぽいんだから頼むよ!」
こういって、僕にこの役目を押し付けようとしているのは、1年生から同じクラスで部活も同じ僕の悪友、谷本恭介だ。
「なっ、何言ってんだよ!この部活にいる奴の友達数とかほぼ同じくらいでしょ。こんな役目なんてむりにきまってるよ!」
「じゃあさ、他に誰がやるってんだよ?」
こいつ、自分はやるつもりがないのか…。と半ばあきれながら他のメンバーを捜す。すると、いつも僕らと一緒にいる雨宮隆と目が合った。
「隆!何とかこの役目引き受けてもらえないかな(すがるような眼)」
「港…。俺が…そんなこと…すると…思うか?」
確かにこいつはやらないだろうな…。2年間同じクラスだけとこいつがみんなの前にでてる姿とか見たことないもんな。なんなら、俺たち以外の友達と話している姿を見ないまである。
「じゃあ、どうやって乗りきったらいいんだよ…。」
「べつに、人の前に出なくてもいいんじゃね?動画とか作って、紹介でもしたらいいと思うけど。」
確かに、ごもっともな意見だ。僕らは別にそんな大して部員が欲しいわけでもない。僕らはこの自由な空間を維持できればいいのだからそもそも、必要がないレベルだ。それだったらまあなんとかなるだろう。そう思いながら部室を見渡して僕はだいぶ部屋が散らかっていることに気がついた。この部室はもともと狭いのに床にはゴミなどが散乱していてなかなか狭く感じる。
「それは、それでおいておいてさ。」
「ん?どうかしたか。」
と恭介。
「いや、なんかさこの部室もいろいろ散らかってるなと思って。」
「そりゃそうだ。俺らがこの部に入部してから一度も掃除なんてしてないしな。」
「それもそうなんだけど、特に先輩たちが残した大きな作品たちが邪魔なんだよね…。特にこのホッケー台とかさ、絶対に使わないでしょこんなの。」
「まあな、ちゃんと動くかどうかも怪しいしな。よし、それじゃ思い切って掃除でもするか。」
「それがいいだろうね。もし、掃除が終わったらこの部屋にスクリーンでも置いてなんか新作のアニメでも見ようよ!今年の作品は面白いものが多いらしいよ。」
「おいおい(笑)。もう終わった後の話か仕方のない奴だな~。それじゃ、まずはこの床に散らかっているごみからかたずけていくか!」
「わかった!じゃあ、僕はごみ袋とってくるね。ほらほら、隆もスマホのゲームなんてしてないで掃除しようよ!」
「めんどくさいな…。わかったよ…やればいいんでしょ…やれば…。」
そういうやり取りをした後、僕はごみ袋を取りに行って帰ってきた。
「お~。部室の床のごみはあらかた拾っておいたぞ。」
「ありがと。にしてもだいぶ溜まってたね。この書類とか5年前の人のだよ。この時はまだ、まともな活動をしていたんだね。」
「そうみたいだな。まあ、この部屋にもトロフィーとかが置いてあるからな。何となくは感じていたけれども。」
そういいながら、恭介はトロフィーのかぶっている埃を払った。
「それはそうとして、このホッケー台とかの大きなものはどうしたらいいかな?」
僕は部屋を見渡してため息をつきながら言った。ホッケー台や棚などの大きなものは僕の両手を広げたぐらいの大きさがある。これだけの大きなものは、のこぎりで分解して捨てるといってもよほど時間がかかるだろう。
「俺にいい考えがある。上手くいけば、一瞬で分解できるぜ!」
そういいながら、恭介は工具を取りに倉庫へと走っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます