第6話 私の欲しかったモノ

 


「……我ながら、随分思い切ったことをしたわね」



 会場の隣りにあるモニター室で私はふぅ、とため息を吐く。

 視線の先では、半年前の私が緊張した面持ちでオークションの商品が発表されるのを見守っている。



『4つ目の商品、それはぁ~』


『な、なんと……!』


『斜陽倶楽部の運営権!! つまりは、乗っ取りでございますッ!!』


『ふひっ。なんて大胆不敵!』



 そう、私がこのオークションで希望したのはコレだった。この連帯責任オークションを取り仕切る斜陽倶楽部のトップの座が、私はどうしても欲しかった。


 何故かって?

 だってこんなスリリングなショーを観れるなんて、ここ以外には日本のどこにも無いんだもの。



 世界でも有数の企業を持つ親の元に生まれ、何不自由なく過ごしてきたけれど……それにはもう飽きた。

 将来は親の見繕った男に抱かれ、一生を終える……あぁ、想像しただけで身の毛がよだつ。



 だから私はこのオークションに目をつけた。

 他のパーティに出席した際に偶然、このオークションの情報を手に入れた。その時私は、生まれて初めて心の底から欲しいと思えるモノができたのだ。



『でぇすぅがぁ~!!』


『と、当時の斜陽倶楽部は法外な値段を吹っかけました』


『元々この倶楽部は、複数の資産家により秘密裏に作られた社交場ッ!』


『簡単には他人に譲るわけがない……ふひひっ。そのお値段は何と、1兆円!!』


 

 だけどこれは想定内のことだった。


 1兆円を調達するため、私は結託することにした。

 それも、運営以外の全員と。



 まずは他の参加者たち。

 だけどそれは簡単じゃなかった。馬鹿な私のせいで滅茶苦茶にされたのだ。しかも競りが流れれば、全員が2000億円の負債。当然、彼らは怒り狂っていた。


 これは私が責任をもって落札すると確約することで、どうにか納得してもらった。

 だが問題はその後だ。明らかに私の所持資産は足りない。これを解決しない限り、彼らは協力なんてしてくれないだろう。



 次に私が向かったのが観客だ。

 これに関しては私は私を担保にした。簡単に言えば、人質である。


 会場に集まっていたのは資産家の集まりだっただけあって、両親の会社と付き合いがある人も居た。自画自賛になっちゃうけれど、もし私を手中に入れることができれば、色んなことに使えると思う。



 結果的に言えば、私には5000億円の価値が付いた。

 パパの会社はそのお陰で窮地に陥っちゃったけれど、私には関係ない。この倶楽部さえ手に入ればそれで良かったから。



 ただ、これじゃあまだ足りない。

 だけど、突破口はある。

 目を付けたのは、最初に女の子を落札していた男。



 私に融資してくれた観客のひとりを、彼にも融資させた。


 斜陽倶楽部のオーナーが私になれば、彼の所有権は私になる。少女の自由と引き換えに、私は彼を仲間に引き入れた。このまま少女を失ってしまうよりも私が救った方がマシだろう。


 さすがに私よりかは価値は下がってしまったみたいだったけれど、それでも彼についた値段は2000億円だった。



 だが彼が味方に付いたおかげで、形勢は完全にこちらが有利になった。

 数では2対3だけど、問題は無い。



 最後の仕上げは脱落した大男さん。私は、あの縛られていた彼を使。私は大男さんが転がっている部屋に行き、こう囁いた。



『最後のオークション、貴方は自分自身を希望しなさい。そうしたら、私が救ってあげるから』



 そう、5つ目の商品を希望する権利があるのは彼だった。

 しかしその前に彼は離脱してしまったけれど、参加する権利自体はまだ失ってはいなかった。


 だから私は、彼に自分を出品させて資金を稼がせたのだ。


 4つ目の商品を落札した私はここ斜陽倶楽部のオーナーだ。当然、大男さんの所有権は私にある。

 つまり私は彼を出品することも、好きな値段を付けることもできる。


 誰も借金持ちの男を落札なんてしない。

 競りが流れれば、その分の金額が私に丸々返ってくることになる。


 だから私は、彼に4つ目の商品斜陽倶楽部と同じ1兆円の値段を付けた。



 ――これで、ゲームオーバーだ。




 こうして私は、参加者全員を巻き込んでこの斜陽倶楽部のオーナーとなることができた。

 まぁ1兆円なんて吹っかけちゃったけれど、4人からそんな額を回収するなんて不可能だった。最初に借りた5000億円はもちろん、返せない。


 だから私は雇われオーナーとしてここで働くことになった。まさか私が、彼らの借金まで肩代わりするハメになるとは思わなかったけど……今は向こうの会場で司会として無理矢理働いてもらっている。



 そんなことよりも、だ。紛いなりにも、私が第2回連帯責任オークションのオーナーとなったのだから。今回のショーを思う存分、楽しませてもらおう。ルールも前回には無かった項目を独断で追加した。



『ルールその7。支払い能力をオーバーした場合、その者はオークション終了後に自身を支払いに使用される』



 ゲームオーバーになった参加者には、楽しいショーを演じてもらうように変更したのだ。

 だから今回はよりエキサイティングになってくれると良いな~。



「なにより、今回は参加者も面白いことになりそう……!!」



 何故だかは知らないけれど、今回の参加者には私のパパが居る。

 何を思っての参加なのかは分からないけれど……私を存分に満足させてね、パパ♪




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連帯責任オークション ~負債は命を以てお支払いいただきます~ ぽんぽこ@書籍発売中!! @tanuki_no_hara

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