第3話 休憩時間はご自由にお過ごしください
「はぁい、1回目のターンが終了です!! オークションが開始されてから、最初の10分が経過しましたよぉ~!!」
さすがに最初から即決額で入札するようなことにはならなかった。5名の参加者は全員揃って入札をせず、様子見をしていたようだ。
なにせ、他にもまだ4回も競りがあるのだ。なにより自身の資金にも限りがある。考えも無しに入札をするような愚行はしないだろう。
「――さて、ここでルールその3の『入札額は10分ごとに即決額の10%ずつ下がる』が適用ですね。1回目のターンが終了したことで、少女につけられた入札額が下がります。モニターに表示されている入札額も1億円から10%下がり、現在は9千万円となっていますよ~ッッ!!」
今回で最も注目すべき人物はやはり、彼女を商品として希望した男だろう。彼は誰にも
他の4名もどこかホッとした表情を浮かべている。ここまではある程度、各々の予想通りになったと言える。
ちなみに競りの入札時間中、参加者同士が互いの様子を知ることはできない。
彼らが顔を合わせることができるのは、競りの開始前後。そしてターンの間に設けられた休憩時間のみだ。
ただそれも、僅か10分間の猶予しかない。その間だけは部屋の扉が開かれ、自身の競争相手と交流することが可能となる。
また休憩時間のみに限り、会場に居る観客と面会ができるという特別ルールも存在している。
とはいえここの観客はあくまでも、ショーが目的で観に来ている事を忘れてはならない。彼らを同情で助ける可能性はほぼゼロに等しい。
むしろ仮面の下で嘲笑っているような彼らは、悲劇を喜ぶだけだろう。
「さ、最初の休憩時間です。彼らはへ、部屋から出ることが……か、可能となっ、なります……!!」
ガチャリ、という開錠の音が5人の部屋から鳴り響いた。さぁ、これからの10分間は休憩兼、探り合いの時間だ。
この連帯責任オークションは、自分の希望する商品を競り落としてハイ終了、ではない。
他の競りでも落札ができなかった場合。即決額から入札額を差し引いた分を、入札者以外の4名で負担しなければならないからだ。
そして彼ら5人がそれぞれ如何ほどの資産を持っているかは、運営である斜陽倶楽部のみが把握している。
更には競りに出される商品の即決額も彼らは全く知らされていないため、己の資産額はこの読み合いにおいて非常に重要な情報だと言える。
相手の限界を知っていれば、それに合わせて調整すればいい。もし誰かを破産させることができれば、自分は苦労せず欲しい商品を落札できるだろう。敵はなるべく少ない方が良いに決まっている。
己の情報をいかに悟られず、逆に相手にはどんなブラフや演技を用いて騙すのか。
綺麗事なんて、この場では言っていられない。油断したら最後、自分が敗者となってしまうのだから。
10分という短い時間はあっという間に過ぎ去っていった。モニターには疲れた様子の5名が部屋に戻ってくるシーンが映し出されていた。
そして2回目のターン。
ここでも変わらず、誰も入札をせずにターンが終了した。
このまま膠着状態が最後まで続くのか?
10回目のターンが過ぎれば少女の値段は0円となり、競りは強制的に終了してしまう。
そうすれば商品は誰の手にも渡らない上に、5人で1億円を均等に負担することになる。少女も出品者の元に戻り、再び囚われの身となるだろう。
誰も得をしないし、報われもしない。観客だけはそれも悲劇と言って面白がるかもしれないが……。
だが幸か不幸か、そうはならなかった。
3回目のターンが開始された直後。競りは意外にも、アッサリと成立した。
入札額は8千万円。最初に暴れていたあの男性が意を決し、少女を落札したのだ。
落札したその人物は、休憩時間に他の参加者へ何かを訴えていたようだったが……やはり、何らかの取引があったのだろう。あいにくと休憩室の様子はモニタールームに居る者にしか見えない。
敢えて隠すことで、会場の観客同士で何が起きたのかを想像するようにしているのだ。
ともかく、彼は目的の商品を無事に落札することができた。目的を果たし、相当嬉しかったのだろう。
次のオークションが始まるアナウンスが流れるまで、モニターに映る少女に向かっていつまでも嗚咽を漏らし続けていた。
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