第2話 最初の商品は囚われの少女でございます

「はぁい、それではルールの説明に移りましょう! 第1回の映像を流しますので、こちらにご注目ください!!」



 壇上にいるウサギの仮面をした司会はスクリーンへと手を向けた。


 幾つもに分割されたウィンドウに、当時の会場の賑わいや参加者たちの動きがリアルタイムで映されていた。



「ふひひっ。開始前からかなり盛り上がっていますね! お次は参加者たちの様子を覗いてみましょう!!」



 司会の台詞に合わせて5つのウィンドウがピックアップされ、拡大されていく。

 各ウィンドウには全く同じ内装の正三角形の部屋が映っている。そしてそれぞれの部屋には、参加者が1人ずつ入っている。



「彼らこそ、連帯責任オークションの参加者として選ばれた者たちでございますッッ!! 5人全員が、部屋に用意されたモニターを随分と真剣な表情で見つめておりますね~」



 続けてオオカミ仮面の司会が「彼らが見ている映像が、こちらです」と言う。


 薄暗い部屋を、天井から吊られた裸電球がぼんやりと照らしている。

 部屋の中央に鎮座しているのは、如何にも座り心地の悪そうな金属製の椅子。そこには一人の少女が目隠しをされた状態で座らされていた。


 身じろぎはするものの、椅子の上からは動くことができない。どうやら彼女はここに縛られ、監禁されているようだ。


 この映像を見ていた会場の観客たちは、ザワザワと騒ぎ始めた。ただ、それは恐怖や困惑といったものではない。興奮する者やニヤニヤと意地の悪い笑みをする者がほとんどだ。

 つまり彼らは、これから始まるショーに期待しているだけである。


 だが参加者たちはそうでは無かった。

 口元を押さえて驚愕の表情を浮かべる者や、目を背ける者など。


 その中でも、特に顕著な反応を示した男がいた。

 5人の内の1人が突然立ち上がり、『今すぐ解放しろ』などと叫びながら暴れ始めたのだ。



「お、おっと何があったのでしょう~? ですが心配はございません。我が斜陽倶楽部は……た、対策もバッチリでございますので……」



『ぐぎゃっ!?』



 突然その人物がビクンと跳ね、フローリングの床に崩れ落ちた。


 運営が何らかの方法を使い、遠隔で痛めつけたのだ。


 会場でこれを見ていた観客たちは、ドッと歓声を上げる。

 こんな演出も、観客にとっては愉快なイベントでしかないようだ。



「ふひひひっ……そうです。この囚われた少女こそ、オークションにかけられた最初の商品でございます。 ルールその1、『出品された商品は事前に参加者が希望したものが用意される』。いやぁ。彼が希望したのはなんと、人間だったのですねぇ」


「わ、私たち斜陽倶楽部では、ありとあらゆる希望に応える力を持っております。彼の望みを叶えた私どもは、なんて善き人間なのでしょう……」


 仮面をカタカタと揺らしながら、皮肉を言うヒヨコの司会。彼の言葉に会場はさらに沸いた。



「はぁい。そしてルールその2は、『出品者が決めた即決額(上限)からスタート』です。さぁてぇ~、この少女にはいったい幾らの価値がつけられたのでしょう~?」



 参加者全員が再び席へとついた瞬間。ノートパソコンの画面に、が映し出された。



「おおっと、1億円ですッッ!!」


「ここにいらっしゃる方々にとっては、端金かもしれませんが……」


「ふひひっ。参加者の皆さんは随分と悩んでおりますねぇ」


「さぁて~、彼らはどうするのでしょうねぇ。果たして、少女は幾らで落札されるのかぁ~!?」



 これが出品者がつけた、彼女の値段。人ひとりの値段とはいえ、かなりの大金である。一つ目から高額な商品が出てきたことで、モニターの前の5人は難しい顔をしている。


 しかし金額の下にあるデジタルのタイマーは既にカウントダウンを始めている。



 いったい誰が幼気いたいけな少女を出品したのかは分からない。だが少女が売り物だということは、これから落札した者が所有権を得るということは確実だ。


 そう、彼女の運命は参加者5名の誰かに握られていた。

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