第3話 リョナラーは娘を愛せる
◇3◇
アレックス・リフレッド・ウィンスキーはクレビィック・ウィンスキーとミリア・シルビスの一人娘である。
クレビィックはウィンスキー家から苦言を言われるだけで終わったが、ミリアはシルビス家から縁を切られミリア・リフレッドと名乗らなければいけなくなった。
リフレッドというのは元はシルビス家の分家の一族であるがある時、ロベルスキの一族に寝返った恥晒しと教え込まれてきた。
リフレッド家自体は断絶しているが、シルビスの一族から縁を切られたものが出た時は、見せしめにリフレッドの名前を与えられる。
ロベルスキとシルビス、両家の憎しみの連鎖を超えた駆け落ち双方の関係に多大な影響を与えた。
少なくとも暗殺の応酬は行われなくなったし、非公式だが、同じように垣根を越えて結婚する者も現れた。
クレビィックとミリアは平和の架け橋だと、内紛に済々していた人たちは祭り上げた。
両家が殺し合わなくなったことで、血族同士で分かれて行っていた教育は、統合され一つの学舎の元行われるようになった。
ミリアは縁を切られてしまったが、クレビィックは健在でむしろロベルスキ本家からよくやったと褒められていた。
ダビウスの婚約者シルビスがへべックに取られてから1200年、ついにダビウスの子孫がシルビスを奪いとってやった。
そんなふうに言われていた。
クレビィックは最初はミリアの醜い姿が好きで、子供が醜い姿でなければ愛せないかもしれないと思っていたが、子供が産まれた時そんな考えは吹き飛んだ。
少しミリアに似たキリッとした顔つきと、自分に似た紫色の眼をみた時、クレビィックはかわいいと感じていた。
クレビィックは虐待されて、自らが普通じゃない性癖を持ったことを少し悩んでいた。
ミリアと出会えたことで後悔はしてないかったが、子供には普通に育って欲しいと、ありふれた名前で、男でも女でも使えるアレックスという名前を授けた。
ミリアもクレビィックと同じで普通の生まれではなかった。周りの誰よりも多くの呪いに侵され、鏡に映る自分の姿が不気味で自分を殺したいくらい嫌いだった。
獣の唸るような声しか出せず口を開くたびに、声と長い舌に周りが怯える姿も嫌だった。周りが可愛い服を着て化粧をして何処かに遊びに行くのを横目に、変色した腕や足を見て嘆いた。ミイラのように乾涸びた足なんかもいでしまいたかった。
両親も兄弟もいなくなったら、もう誰も自分を愛してくれる人はいないと恐怖を覚えていつも泣いていた。
だからアレックスには、特別とは無縁の普通の生活を送ってほしかった。
二人はアレックスのことを考え生家から遠い郊外に居を構えた。
ロベルスキとシルビスは殺し合う為に、わざわざ近くに住んでいたが、世界の魔術師は彼らだけでは無い。
8人の賢者のうち血を残さなかった二人を除いた6つの賢者の家系と、それらの弟子を含めた数百の家がある。
世界は魔術だけがあるわけではないし、魔術は人類史の中では近世に生まれた技術である。
世界を回れば魔術師でない人間も多くいるし、魔術師は魔術を使わない人を見下しているわけでもない。
賢者の家系の魔術師は双方の人間からありがたがられる立場ではあるが、凄く珍しいというわけでもない。
そんなわけで、アレックス・リフレッド・ウィンスキーは、魔術師のコミュニティが住まう街の片隅で育つことになった。
クレビィックとミリアが望み、それが幸せだと信じた普通の生活がアレックスにとって酷く嫌悪すべきものだったとは、知るよしもなかった。
リョナラーの娘は最高の魔術師になりたい トウフHUIS @GRiruMguru
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