第22話 奏多の能力


「奏多の能力が何かわかった」



「え、能力?」


「そう。雷に打たれて、この世界で言うところの霹靂宿り《はたやどり》としての奏多の能力」


ユルカは、砂場の幾何学模様に視線を向ける。


「今奏多にかけようと思っていた想互術サージェンだったり魂法パオだったり、どれも奏多自身に作用を起こすものだったんだ。でも、どれも全部奏多には効かなかった。奏多は多分、俺の能力とか、想互術サージェンとか、そういう特殊な力の例外になる能力なんだろう」


「例外?」


「そう。そういう不思議な力の例外になるから、俺のことも認識できるし、想互術サージェンとか魂法パオも効かないんだ」


「え、でもでも、ワープはできたじゃん」


「あれは、奏多に直接作用してるわけじゃなくて、対象の空間に作用してる。奏多自身をどうこうしようとしてるわけじゃない」


「あー、そう……なの……?」


そう言われてもよくわからない。


「つまり、ビックライトは効かないけど空気砲は効くんだな。多分」


「いや、どこでその知識仕入れてきた」


「あと、どこでもドアは使えるけど、翻訳こんにゃくを食べても何も起きない」


「いやだからどこで覚えてきたし」


「図書館に置いてあった」


「ああ……。面白いよね……」


と、かつて自分も読んだことがあることを思い出す奏多に、ユルカは「もしもボックス すごくないかアレ」と返してくるのだった。


「ていうかアレは、一応あの世界の未来の科学を使ってて、魔法とか不思議パワーじゃないから、一応私にも効くんじゃない?」


「あー確かに。じゃあ、 NARUT……」


「いや、もういいから」


要するに、奏多に直接影響を与える不思議現象は効かないということなのだろう。そんなものユルカ以外に出会ったことがないので、この世界で生きる限りほぼ活かされることのない力だろう。いや……


(もしかして……)


 ユルカの言ったことは少し違うのかもしれない。例外になるのではなく、特別なものを受け付けない力なのだとしたら、雷に撃たれたあと奏多が普通の女の子になったのは……。


 奏多は頭を振った。あれは自分が望んだこと。そんなことを考えても、真実を確かめる方法はない。


「もしかしたら、奏多は特別な人間しか行けないようにしてる場所に行けたり、普通は見えないようにしてるようなものも見えたりするのかもな」


「あるかなぁ、この世界にもそんなの」


「あるだろ。神様もいるくらいだし、きっと。それを探しに行くのもいいんじゃないか。残された時間で……」


「……」


 奏多には『お迎え』がどれくらいの頻度で来るのかわからなかったが、ユルカの言葉は、残された時間がそれほど長くないことを言外に語っていた。


「……ユルカ、この魂法パオ? の紙もらっていい? 」


「え? 別にいいけど……。ていうかそれ、紙じゃなくて特別な木の皮だけどな」


「え? 珍しいやつ?」


「まあ、この世界にはないけど……。まあ気にしなくていい。最後の一枚だったけど、どうせ擦り傷くらいしか直せないし。でもなんでほしいんだ? 奏多には使えないだろ?」


「うん。でもお守りにしようと思って」


「お守り?」


「うん。ユルカがこの世界にいた証。ユルカがいなくなっても、私がユルカを覚えてるから」


「……。……勝手にいなくなったりはしない」


 二人の視線が交わる。


 覚えている。それはユルカにとって特別な意味を持つ言葉で、二人の視線は固い約束となってぶつかった場所で結ばれた。


二人は同時に空を見上げる。ユルカの能力の効果範囲内に入った雨が空中で見えない壁にぶつかっているように軌道を変えている。水のドームに包まれているかのようだ。


このドームの中だけは二人だけの世界。人も雨も、神様さえも入れない。


「奏多、もっといろんなところに行こう。いつか、その時がくるまで」


「うん。もちろん」


時間さえ嫉妬する切り離された世界で、二人は柔らかに笑いあった。


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