第18話 友達
下駄箱横にある自販機まで千草と並んで行く。
屋根から落ちる雨水の音が下駄箱に反響していた。冷たいコンクリートの床には、他の生徒の濡れた足跡が残っている。
千草は迷いなく抹茶オレを買った。が、続く奏多は自販機の前で指を泳がせていた。ここに来るまでに何を買うかなど全く考えていなかった。
「いちごミルクじゃないの?」
「あー、うん。たまには違うやつにしようと思ったけど、他にいいのないや」
少し濡れたボタンを押すと、大きな音を立ててジュース缶が落ちてくる。
「なんか、今日元気なくない?」
「え、そうかな?」
「そうだよ」と答えて千草は髪を耳にかける。
「最近やたら元気そうだったのにさ、今日は落差すごい」
「え、最近元気そうに見えてたの?」
「私の目、節穴じゃないし。明らかテンション高かったでしょ。毎週どこか行った話嬉々としてするし。よくわかんない実験みたいなことに付き合わせてくるし」
流石長年の付き合いだけあってよく見ている。
「で、なんかあったの?」
「あったというか……一つのことじゃなくて、いろんなことが重なってちょっと……って感じ」
何も具体的な言葉は出せなかった。ユルカのことは話しても信じてもらえないだろうし、部活のことは千草にだって本心は言えない。
千草はふぅん、と答えるとプルタブを開けて缶に口をつける。
「写真部の方はどうなの?」
「こっちは平和だよ。何もなし。いつも通り楽しいよ」
穏やかに微笑むことができる千草を見て奏多は羨ましいと思った。
「奏多も写真やればいいのに」
「えぇ⁉︎」
心内を見透かされたかと思って、自分が思っている以上に大きな声が出た。
「な、なんで私が写真部にっ。陸上あるし!」
「や、違くて。普通にカメラ買って撮ったらいいのにって。よく出かけてるじゃん。最近特に」
「あ、あぁ、そういうこと……。でも無理だよ。写真とかわからないし。構図とかアングルとか、いろいろあるんでしょ?」
千草は肩を竦めた。
「別にそんな本腰入れてやらなくていいじゃん。ちょっといいカメラ買って、携帯で撮るみたいに好きな時に撮れば。部活に入らなくても写真撮るのが趣味でもいいんじゃない? もともとウィンスタに写真上げまくってるし、写真撮るのは好きなんでしょ?」
「う、うん……」
そうした記録を残すのも旅行の醍醐味だと奏多は思っている。
奏多は、自分の携帯端末の画面を見る。写真共有SNSアプリを開けば、最近アップロードした写真の数々が載っている。もちろん、そこにはユルカも写っている。ユルカを誰かに認識させる実験の一つで積極的にユルカを写しているものもあるが、やはり友人たちには彼を認識できないらしい。
「ほらね。好きだからって別に部活に入ったり本気でやらなきゃいけないわけじゃないし、楽しむつもりで軽い気持ちでやってみなよ。今度私のお古のカメラ貸すから」
「なんか、やけに推してくるね」
「元気なさそうだから、気分転換勧めてるんでしょうが」
ため息まじりにそう吐く彼女はすまし顔。だが、その言葉の暖かさに奏多の心は確かに安らいだ。
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