第4話
「こんにちはー……」
音をたてて、扉が開く。声の正体は設楽だ。俺が社長に頼まれて事務所に来るように伝えたからだ。
「お、来たね。良かった、碧がしっかり伝えてくれていて。今日は少し伝えておきたいことがあってね」
「なんでしょうか?」
話しかけながら、設楽に椅子に座るよう促す。
「実は明日の金曜日の夜、岡部花音達の救出に向かう。一応、依頼人だから言っておこうと思って」
「……」
「どうしたの?」
「あ、あの。その事で1つ言いたいことがあって」
「何? 私にできる範囲ならなんでもしてあげるよ」
おずおずと、下を見て自分の手を握りしめながら設楽は話す。意を決したのか、前を向き社長の方を向いた。
「花音のこと、なんですけど。出来れば私も…連れて行って貰えませんか」
「はあ!?」
思わず口から思ったことが出てしまった。2人の視線が一気に俺の方を向く。社長は分かっているだろうが、補足するように設楽に話す。
「あ、いやその。すごい危険なんだぞ?それに、今までこちら側と何も関係が無かったのに急にそんなところに行ったら…」
正直、死ぬ。俺も自分を守るので精一杯な時がある。だから止めようと必死に説明する。
「別にいいんじゃない?私もいるし」
「社長まで……!」
「まあ、碧の言う通り最悪死ぬ可能性もある。だけど依頼人が言ってくるんだ」
俺の言葉を制しながら話す。設楽の方を見ると、嬉しそうにしていた。
「ありがとうございま…!」
「ただし、本当に危険だから。これは自己責任。いいね」
「……はい。分かっています。でも、どうしても行きたいんです」
設楽が本気だということを確認出来たのか、厳しい顔つきが優しい顔に戻った。
「なら、明日学校が終わったらここに来て。夜中に行くから一応泊まる用意も。二人ともね」
「…はあ。分かりました」
社長が同行を認めたなら俺は何も言うことはないので、大人しく指示を聞く。
「それじゃあ、明日の夕方にまた来ますね」
設楽はそう言って事務所を後にした。認めて貰えたのが余程嬉しかったのか、声が少し弾んでいた。
「気をつけてねー」
社長はといえば、ソファーに座りながら手を振っていた。設楽が出ていったのを確認すると、俺に対してこう言った。
「さてと、今日は他に言うことはないし碧もそろそろ帰る? まだ暗くはないけど」
「そうですね。どうせ朝に来ると思うので、準備を早めに終わらせて寝ます」
「朝から来てくれるとは。嬉しいことを言うね。楽しみにしてるよ」
正直、家にいるのは息が詰まって居心地が悪い。もちろん家族はとても好きで嫌いとかでは無いのだけど、何故か社長のそばにいる方が安心するのだ。どうしようもない感情が、社長のそばにいる時だけ収まって。
「では俺も失礼します」
軽く頭を下げて部屋を出て階段を降り、事務所を出る。
♦
「…ふぅ」
二人が出ていった後、一人ため息をつく。
「明日……明日か」
そう。あと少しで私の目的が達成される。あの時逃げることしかできなかった私が見つけた、唯一の生きる意味。
それが終わったら、自由に過ごそう。甘いものを食べよう。元々、普通の人間より長生きなのだから時間は沢山ある。今までできなかったことを沢山しよう。
だから今は、ただ目の前にある事だけに集中しろ。
♦
「おはようございまーす」
「おはよう。本当に朝から来てくれるなんて嬉しいよ」
「ちゃんと来ますよ。何せ、いる時間が多ければ多いほど給料が貰えますから」
「あははー……」
一応、俺はバイトをしている体でここにいる。しかしここに来る依頼というのは特殊なものが全てで、まずここに訪れる人は少ない。そして数少ない依頼人からの報酬はこの建物の維持費に使われている。
そこは魔法でなんとかならないのか、と考えたが、後々のことを考えるとちゃんと維持費を払っておいた方がいいと言うのだ。なので俺にあたる給料というものはほとんどない。それを自覚しているのか、目を逸らしながら苦笑いした。
「そ、そういえば! 碧、武器に不調がないか今のうちに確認してこようか!」
……話を逸らしたな。
でも武器を見ておかなければならないというのは事実なので返事をしながら、よっこらせ、と立ち上がる。
ギギギ…と音をたてながら扉が開かれる。扉の先には様々な武器が収納してあり、つけたばかりの照明の光が反射して輝いている。その中をまっすぐ進み、自分の武器を手に取る。俺の武器は鎌で、大きく、俺と同じぐらいの長さがある。手に馴染むのを確認し、社長の方へ戻る。
社長は何故かいくつかの銃を持ち比べたりしていた。
「社長、なんで銃なんか見てるんですか? いつも使っているのとは違いますよね?」
「ああ。これは私のじゃなくて、さなのだよ。ほら、行くって言っていただろう? さすがに丸腰じゃあ危険だからね」
「……本当に、大丈夫なんでしょうか 」
「うん。大丈夫。私は碧の力を信じているから、あの子の同行を認めたんだよ。もし碧がへなちょこだったら絶対に認めてないから」
何故か分からないけどすごく、すごく嬉しくて、幸せな気持ちになってしまった。
「…頑張ります」
「うん。期待してる」
可愛らしい笑顔で、社長は俺に微笑んだ。
その笑顔に一瞬みとれていると、そういえば、と社長が話を変えた。
「碧、武器の調子はどうだった?」
「えと、はい。全然大丈夫でした」
「そっか。なら私も用事は終わったし、戻ろうか」
はい。と返事をして、二人で薄暗い部屋を後にした。
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