第2話
水曜日になり、朝学校に行くと担任から知らせを受けた。
「知っている人もいるだろうが、金曜の夜岡部が居なくなった。警察が探してくれているがまだ見つかっていない。何か知っている人がいたら先生に教えてくれ」
居なくなった?
――パッと前の席にいる設楽を見ると俯いていた。どうやら本当のことらしい。
「気をつけー、礼」
「ありがとうございましたー」
一日の終わりを告げる挨拶が終わると、俺はすぐさま学校を出て、事務所へ向かった。社長に岡部が居なくなったことを報告しなければ行けなかったからだ。
「社長! 大変です!」
「ど、どうしたんだい? そんなに急いで……」
「朝、先生に言われたんですけど、岡部が居なくなったそうです」
「──!」
到着するやいなや、挨拶も忘れて学校で知ったことを社長にも伝える。社長も今知ったようで、驚いていた。
息を落ち着かせていると、下から扉が開く音が聞こえバタバタと階段を駆け上がる音が響く。勢いよく、扉が開く。扉を開いたのは設楽で、俺と同じで急いで来たのか、息が切れている。
「あ、あの……! 花音がっ!」
「今碧からちょうど聞いたところだよ。とりあえず、二人とも一度落ち着いた方がいい。私が何かジュースを買ってくるよ」
珍しく自分から買い物に行くと言った社長の言動に驚きながら、お言葉に甘えてソファーに座る。
「……」
「……」
社長が出てしばらく、沈黙が続く。正直、気まずい。何か言わねば。と思いやっと口を開こうとした時、
「二人とも、凄いかしこまった座り方してるね。思わずお見合いかと思っちゃったよ」
いつ間にか入ってきた社長がジュースを持ちながら爆弾発言をした。ジト目で彼女を見つめるが気づいていないようで、普通に俺と設楽にジュースを渡す。
「それで、一旦状況を整理しよう。まあ整理するほどの情報も持ってないんだけど。設楽さん……さなって呼ぶけどいい?」
「あ……はい。大丈夫です」
「じゃあ、さな。花音はいつ居なくなったか分かる?」
「えと……先生から聞いた話では、朝家族が起こしに行った時に部屋を見ると誰も居なかったそうなので、多分金曜の夜に居なくなったんじゃないかって。」
金曜の夜――設楽がここに来た後に居なくなったということだ。偶然なのか何なのかは分からない。
社長はうーん。と考えるような仕草をした後、こう言った。
「やっぱり一度岡部花音の家に行こうか。元々、今日行く予定だったんだし。碧も、いいかな?」
「俺はいいですけど…でも本人が居ないんじゃ意味が無いんじゃないですか?」
そう。元々、岡部に会いに行こう。という趣旨だったのだ。本人が居なければ元も子もない。
「もしこれが何か魔法にかかって失踪したのだとしたら何か痕跡が残ってるはずだから。意味がないことは無いよ」
「でも家にどうやって入りますか? さすがに課題持ってきたと言っても入れて貰えないと思いますし」
もしそんなことを言ったら速攻追い出されるな。なんて想像する。
「あ、そっか。なら私一人でササッと行った方が早いね。さな、地図とか持ってない?」
「え、あ。スマホのでいいならすぐに出せますけど…」
そう言いながらスマホを取り出し、社長に岡部家の場所を教えていた。
「場所は分かった。けど少し遠いね。ショートカットするにしても人目があるからなあ……さなが帰る時に私も一緒に行った方がいいかも」
「大丈夫ですか? 危険な感じはしますけど……」
「君達二人に行かせるのに比べれば百倍マシだよ。それに、一人だけの方が色々動きやすいし。今日は二人とも、もう帰ろう」
それは確かに。と納得してしまう。俺も戦えるが足でまといにならないかと問われば答えられない。それに今回はただの一軒家だ。行かない方がいいだろう。
それぞれ支度をして三人で事務所を出る。とは言っても俺だけ方向が違うので途中のバス停で別れることになった。
「じゃあ、また明日」
「はい、社長も設楽も気をつけて」
♦
「私の家はここです。花音はあの黒い家です」
そう言って四軒先の家を指した。
「ありがとう。またいつでも事務所においで」
さなと別れた後、岡部家へ向かった。岡部家の家は一見、どこにでもあるような普通の家だった。外から見ただけでは何も分からないのでとりあえずインターフォンを押す。しばらくすると、ガチャりと扉が開く。
「…なんでしょうか」
「あ、すいません! 私、花音ちゃんの友達なんですけど、しばらく会っていなかったから来たんです! 今花音ちゃんに会うことは出来ますか?」
少し。ほんの少しだけ言葉に魔力を込めて母親と思わしき女性に話しかける。本来ならばこんな事を言えば追い返されそうなものだが、上手く暗示にかかったようで中に入れてくれる。
岡部花音の部屋は意外とシンプルだった。親が片付けたのかもしれないが、服は全てクローゼットに入れられており布団は綺麗に畳まれている。……何か凄いものが見えた気がするが特に関係の無いものだったので、そっとクローゼットを閉める。
辺りを見渡すと、勉強机に何か置かれていることに気づいた。それは十枚ほどの写真だった。思わず手に取って、写真をめくって見ていく。岡部花音が撮ったのかは分からないが、風景画などがほとんどだった。
「……!」
最後の一枚には一人の少女が写っていた。こちらに顔を向けていないことから、おそらくこっそり撮ったのだろう。思わず、目を閉じる。目の前の光景から遠ざけるように。
「……」
深呼吸をする。写真を机に戻し、部屋全体を見た。あいにく、過去を見ることが出来る『眼』なんてものは持っていない。その代わり、魔力を辿る。持ってきた自前の宝石は魔力が残っていると示すように薄くエメラルドに光っている。
最後にこの部屋に居たのは4日前なので魔力の残滓はほぼ残っていない。きっとあちらも、それを想定しているはずだ。
――集中して
――集中して
――集中して
この空間と同化するように。
するとようやく、ほんの僅かな魔力を感じた。それだけで私にとっては十分だった。これは間違いなく、彼女のものなのだから。
その確信を持って、私は岡部家を後にした。
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