エピローグ_バッドエンド:感謝
「……確かに私、取り調べ以外に話し相手が欲しいって言ったわ。それにしたってどうしてあんたなの」
面会室で不機嫌さを露にするシュネー。それはひとえに面会相手が原因だった。
「……というか、どの面下げて会いに来たのよ。この裏切者。あんたにまんまと
シュネーに睨まれている男は元・
「私を笑いに来たの? それとも拷問? 大人しく協力するつもりだったけど、あんた相手じゃ冷静でいられる自信がないわ。悪いけど──」
手ひどく拒絶するシュネーだったが、急に頭を下げた彼に戸惑い言葉に詰まる。
「何のつもり? 頭なんか下げて。謝罪なんて今更……は? ありがとうって何が……戦友の亡骸? 丁重な扱いって一体何の話? からかってるの?」
しかしそう問われたスパイの男はいたって真面目だ。その表情はむしろ悲痛といってもいい。それだけにシュネーは一層混乱した。
「あんたが戦友呼ばわりしてたのってあいつ……“ジョーカー”のことよね」
男は頷き、感情を押し殺した淡々とした声で告げる。記録では、彼はシュネーがコックピットを開いた時点で死んでいたのだ、と。
「何の冗談よ……そんなはずないわ。あいつは私を助けてくれたの。少しケガはしてたけどちゃんと手当てしたし……そうよ! 音声記録だって……そう、それよ! 聴いてみなさい! そうすれば──」
男は携帯端末から音声記録を再生する。しかしそこから聞こえてくる会話は、シュネーを一層追い詰めるものだった。
「なんで? なんで私しか喋ってないの? そんなはずないのよ! ねぇ、だってあいつは私の依頼を受けてくれて……なによその目! この私を憐れむ気?! 裏切者の分際で! 違う、違う違うちがうちがう! 遭難した私が見た幻覚? 私はあいつの機体をこじ開けて、死体と相乗りして帰ってきたって言うの?」
男は静かにうなずくと、遺体と遺品であるマシンを丁重に持ち帰ってくれたことに改めて感謝の言葉を述べ、頭を下げる。或いは、泣きそうな顔を伏せて隠そうとしているようでもあった。
しかしシュネーは机をたたき、声を荒げる。
「嘘、嘘よ……こんなデータ、壊れてるわ……あいつを呼んでよ、今すぐ呼んで! 会わせて! まだ名前だって聞いてないのに! こんなのあり得ない! 私、私は───」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます