4話―スーパールーキー、コリン!
「ふふふ。いろいろあったが、これでやっとわしも冒険者の仲間入りじゃ!」
「な? オヤジに後ろ盾頼んで正解だったろ? 色々裏から手ェ回してくれるってンだから、足向けて寝られねェな」
「うむ。ダズロン殿には、後日礼をせねばなるまい。何か好物でも送ろうかの」
「なら酒だな。オヤジは三度のメシより酒が好きだからなぁ」
翌日の朝。ギルド本部にある来客用の寝室で一夜を明かした二人は、一階に併設されたカフェテリアで朝食を食べていた。
ダズロンの働きかけにより、たった一夜で本部に所属する職員から冒険者まで、コリンの素性が徹底的に周知され、外部への箝口令が敷かれることとなった。
「とりあえず、各国のお偉いさんや他の十二星騎士の末裔に話が行くまでは正体隠しとけよ? コリン。バレるといろいろ面倒だからな」
「分かっておるわい。マデーレでそなたが見つけた期待の超大型ルーキー冒険者……という設定じゃろ?」
「そうそう。特例措置でしょっぱなからCランクだ、注目度も高いぜ? 皆、コリンを仲間に引っ張り込みたいだろうな。ま、アタイが預かることになってるから誰にも渡さねーけどな!」
コリンはホットケーキ、アシュリーはステーキを食べつつ和気あいあいと会話をする。朝早いため、ギルドにもカフェテリアにも人はいない。
「いやー、ようやくスタートラインに立ててホッとしたわい。年齢をサバ読んだ甲斐が……あっ、しもうた」
「お? 今ちょっと聞こえちゃいけないワードが飛び込んできたなぁ。……コリン、お前実際何歳なんだ?」
安心感から、コリンはついうっかり言ってはいけないことを口にしてしまう。聞き逃さなかったアシュリーは、コリンを指でつつきながら問う。
「むう……仕方あるまい、正直に言おう。実はわし……八歳なんじゃよ」
「え? 六百歳とかじゃなくて?」
「阿呆、そんなわけなかろう。そんなに生きておれば、わしは『いけめん』に成長しておるわい」
「いや……闇の眷属とのハーフだって言うから、てっきりそんくらい生きてんのかと思ってたわ」
洗練された優雅な食器捌きでホットケーキを切り分けつつ、コリンは呆れたように答える。豪快に肉にかぶりつきながら、アシュリーは謝った。
「そも、大地の民と闇の眷属は根本から違う生物じゃ。子どもが生まれる確率は、果てしなく低いぞ。数百年かけて、ようやく一人産まれるかどうか……」
「マジか……。ってことは、超希少な存在なんだな、コリンは」
「左様。じゃからまあ、故郷ではいろいろと……な」
そこまで話したところで、コリンは顔を背けてしまった。何か厭なことを思い出したようで、どこか悲しげな表情をしている。
「悪い、何かヤなこと思い出しちまったか?」
「なに、気にすることではない。……む、冒険者たちがやって来はじめたのう。そろそろ営業開始じゃな」
「ああ、そうだな。さ、アタイたちもメシ食って依頼見に行こうぜ。イイ依頼はすぐ消えちまうからな」
冒険者たちがギルドに集まり始めたのを見て、二人は食事のスピードを上げる。朝食を平らげ、支払いを済ませてからカフェテリアを出た。
依頼が貼り出されている掲示板の方へ向かう途中、アシュリーの顔馴染みなのだろう冒険者たちが声をかけてくる。
「ようアシュリー、おはようさん。朝っぱらから依頼漁りか?」
「よっ、ジェイク。今日から新人の面倒見ねーといけないからな、早起きしたのさ」
「ああ、知ってるぜ。俺たち冒険者御用達の、チャレンジャー新聞の一面に載ってたからな。へぇー、こんなちっこいのがCランクか……」
「ふふん、どうじゃ凄いじゃ……のあっ!?」
えへんと胸を張っていたコリンだったが、突如現れた女性冒険者たちに捕まってしまった。どうやら、早速洗礼を浴びるハメになってしまったようだ。
「きゃー、かわいい! お人形さんみたいだわ!」
「こんなに可愛いのに男の子なんでしょ? もー反則だわ! ねぇボク、お姉さんとパーティー組まない?」
「あわわ……アシュリー、ヘルプミー!」
「だぁーもう、おめぇらコリンから離れろ! シッシッ!」
お姉さんたちに揉みくちゃにされているコリンは、思わず助けを求める。アシュリーが割って入ったことで、何とか脱出することが出来た。
「はあ、はあ……。死ぬかと思うたぞ。なるほど、これが噂に聞いた新人への洗礼……」
「なわけねっつの。こんなのが洗礼だったら、男どもが喜んで……ん? コリン、どうした?」
「……今ギルドに入ってきた四人組、何か怪しい。アシュリー、いつでも動けるようにしておくのじゃ」
壁際でぐったりしていたコリンは、ふとギルドの入り口を見て真剣な表情を浮かべる。入ってきたのは、如何にも冒険者といった風貌の、鎧を着た男たちだ。
そのうちの一人、リーダーらしきスキンヘッドの大男からは得体の知れないオーラが漂っている。他の三人も、明らかに異様な雰囲気を放っていた。
「……おい、あんた。一つ聞きたいことがある」
「はい、ご用件は何でしょ……ひっ!?」
「ここに黒い髪で古風な喋り方をするガキが来てるはずだ。そいつを連れてこい!」
「おい、あんたら何やってんだ! ギルド内で武器を抜くのはご法度……ぐあっ!」
「うるせぇ! いいから言う通りにしろ!」
受け付けカウンターに向かった四人組は、突如剣を抜き脅迫を始めた。諌めようと近付いた冒険者は、容赦なく斬られてしまう。
「きゃあああ!!」
「おい、しっかりしろ! くっ、お前ら何てことをするんだ!」
「ごちゃごちゃうるせぇ! さっさとしないと、次はこの女を……いてっ!」
「フン、野蛮極まりないのう。何者かは知らぬが、その振るまいが許されると思うでないぞ」
悲鳴があがり、一気に緊張状態に陥るなかコリンが動く。手のひらサイズの魔力の塊を投げ付け、男たちの注意を自分に向ける。
「あっ、兄貴! 間違いありませんぜ、あいつでさぁ!」
「密偵から回ってきた情報通りだな。あのガキがギアトルクの子孫だ! お前ら、あのガキを殺せ!」
「おおーーー!!」
スキンヘッドの大男の指示を受け、三人の仲間はコリンに向けて走り出す。冒険者たちが助けに行こうとするなか、コリンが叫ぶ。
「助太刀は無用じゃ! みな、下がっておれ!」
「バカが、たった一人で何ができ……おああああっ!? し、痺れるぅ!!」
「出来るとも。お主らに天誅を下すことがのう! 闇魔法、パラライズドサークル!」
先頭にいた男の足元に、稲妻模様の魔法陣が浮かび上がる。すると、男の身体が雷に打たれたかのようにビクンと跳ね、床に倒れた。
コリンの仕掛けた魔法陣を踏み、身体が麻痺してしまったのだ。
「まずは一人、と」
「このガキ、舐めんじゃねぇ!」
「フン、わしを甘く見るでないわ! 闇魔法、シャドウホール!」
「おわっ!? き、急に穴が!? うわあああああ!!!」
二番目に襲ってきた男は、コリンが床に魔法で作った落とし穴に落ち、首まで埋まる。三人目を仕留めんとするコリンだが、直後アシュリーが動く。
魔法で呼び出した槍を構え、真っ直ぐ相手に向かって突進する。
「お前にだけ任すつもりはねぇ、アタイも加勢するぜ! 覚悟しな、クズ野郎! フレアストライク!」
「このっ……ぐああっ! あ、熱うううう!!」
炎を纏った突きをまともに食らい、男は火だるまになりのたうち回る。残るは、リーダーであるスキンヘッドのみ。
「へっ、悪党の丸焼きいっちょあがりだな。さて、後はてめぇだけだぜ。覚悟はいいかハゲ頭!」
「覚悟? 覚悟するのはお前たちの方だ。我らヴァスラ教団が誇る神秘の魔術で、貴様ら全員殺してくれるわ!」
「なっ、ヴァスラ教団だと!?」
「ぬうぅ……ハァァァァ!!」
周囲にいた冒険者たちが驚愕するなか、スキンヘッドの大男は魔力を解放する。直後、身長二メートルはある狼人間へと変貌を遂げた。
「わああああ! に、逃げろおおお!!」
「ぐははははは!! どうだ、恐ろしいだろう! さあ、全員俺の爪と牙で切り裂」
「ディザスター・ランス!」
「ぐああああああ!!」
冒険者や職員たちが逃げ惑うなか、コリンは一切動じることなく闇魔法を叩き込み胴体に風穴を開ける。哀れ、狼人間は自慢の爪と牙を振るうことなく倒された。
「阿呆めが。このわしがたかが狼モドキでビビるものか。さ、これで不届き者は全滅じゃのう。わあっはっはっはっ!」
「いいぞー、よくやった坊主!」
「ありがとう、助かったわ!」
見事邪教の手先を打ち倒したコリンに、拍手喝采が送られる。アシュリーも拍手し、コリンを讃える。
「だな、やったぜコリン! ……っと、喜んでる場合じゃねえ。おい、誰か手伝え! 斬られた奴を医務室に運ぶぞ!」
「いや、その必要はないぞよ。この程度の傷、わしに任せい。闇魔法、ダークネス・ヒール!」
「うう……あ、傷が……どんどん、塞がってく……。ありがとう、助かったよ」
「すげぇ、治癒の魔法まで使えるのか! スーパールーキーは伊達じゃねえや!」
「ホント、とんでもなく凄い新人さんね!」
ついでとばかりに、コリンは治療を施す。それを見た観衆は、さらにコリンを誉め讃える。騒ぎを聞き付けたダズロンが降りてくるまで、コリンコールがずっと続いていた。
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