12 決闘その後

12話 決闘その後


「エンテカ待って。その魔法はまさか。カナメを殺す気?」


サーシャが止めに入ろうとするが、魔法の発動の方が早かった。


「禁呪 “火遠理命”(ほおりのみこと)」


大量の炎が噴き出し、爆発する。

土の壁は跡形もなく消えてしまい、すべてが炎に飲み込まれた。

爆風により皮膚が灼ける。

息を吸おうとすると熱気が喉まで届き、思わずせき込んだ。

エンテカの火属性魔法による爆炎が空高く燃え上がる。

だが、火がここまで届くことはなかった。

エンテカを地下に閉じ込めたからだ。


エンテカから目の前を土の壁がせりあがっていくのが見えたであろう。

ただ、実際は壁がせりあがりながら、ゆっくりとエンテカの地面を沈下させていたのだ。

魔法が完成した時はエンテカは完全に地面の下にいたことになる。

どんな強力な魔法だろうと、この大地に立ち向かって勝てるはずがない。

今頃は自分の火で焼かれているだろう。

さすがに少し心配になってきた。


様子を見に行こうとすると、なんとエンテカが這い上がってきた。

所々、煤で汚れてはいるがなんとか生きている。


「や、やるじゃねえか」


だが、這い上がることに力を使い果たしたようで、そこからはピクリとも動かなくなった。


「勝者 カンザキカナメ!」


わっと感性があがる。


「人間のわりにやるじゃねえか」


「見直したぜ」


実力社会なのか、俺のことを褒める声が多い。

サーシャが近寄ってきた。


「おめでとう!まさか勝てるとは思わなかったわ。

ま、私のアドバイスも大きいことは忘れないでね」


「うん。もちろんだよ」


喜んでいるようだが、素直じゃないのがサーシャらしい。


「傷は、やっぱり殴られたところが痛々しいわね。火傷もしているし。

でもこれなら治療魔法で痕も残らず治りそうね」


サーシャの冷たい手が触れてどきっとした。

なんだかんだで心配してくれるいい子なのだ。


「ところでエンテカはなんでもいうことを聞くって言ってたけど、どうするの?

家を出ろって言ってきたんだからちょっと懲らしめてもいいと思うけど」


サーシャはニヤリと笑う。

エンテカのことはあまり良くは思っていないようだ。

エンテカとはまだかかわりは少ないが、女性に気に入られるタイプではないよな。

男からのファンは多そうだけど。

2人の弟分がエンテカに駆け寄り、えっほえっほとエンテカを運んでいった。


「ちょっと考えがあるんだ。まずはエンテカの傷が治って落ち着いてからかな」


「それなら気を使わなくて大丈夫よ。おばあちゃんが凄腕の光魔法、治療魔法の使い手だから、あれぐらいなら今日の夜には問題なく動けるわよ」


よかった。

自分の魔法で直接傷つけたわけではないのだが、やはりけがをさせたことには罪悪感があったのだ。


「もう、家を追い出されそうになったのに変な奴」


サーシャは理解できないものをみる顔で見てくる。

それじゃあ今日の夜にでもエンテカに会いに行くとしよう。


エンテカの家は村はずれにあった。

、サーシャの所に比べるとかなり質素に見える。

呼び鈴もないので、どう呼び出したらいいか。

この世界のマナーが分からなかったが、ノックをしてみると。


「なんだぁ?」


と声がしたのであっていたようだ。


がばっと勢いよく扉が開く。

エンテカは俺のことを見るやいなや正座をした。


「男と男の約束だ。けじめはつけるぜ。

おい、ブンコー、パッタシ 剣をとってこい」


バタバタと後ろで音がして、2人が剣を取ってきた。


「短い人生だったなあ。ブンコー、パッタシ2人とも達者に生きろよ」


「兄貴!死んじゃいいやだ」


「俺たち兄貴がいないと何もできねえよ」


2人の弟分がひしとエンテカに抱き着く。

盛り上がっていてすごく声がかけにくい。

ひと区切りついたところで、2人が離れるとエンテカは羽織りを脱ぎ、剣を抜いた。

そのまま腹に剣を刺そうとしている。


「ちょっと!ストップストップ!」


慌てて止めた。


「何しようとしてるんですか」


「ああ、決闘に負けたんだから腹を切ろうとしたんだが」


エンテカは当然のようにいう。


「なんでもいうことを聞くって約束だよね」


「ああ!違いねえ。命だってかける覚悟よ」


「じゃあ死ぬのは禁止だ。俺の言葉に従ってもらうぞ。

ゆっくり話したくてね。酒を持ってきたんだ」


エンテカ達はぽかんとしていた。


「おまえ!いや本当にいいのか」


「いいも何も君の命が欲しいわけじゃないからね。

それよりも君の強化魔法、火属性魔法すごかったな。

今度教えてくれないか」


「あ、ああもちろんだぜ。こんなことぐらいなら」


弟分たちは後ろで小躍りをしていた。

こうして、その日はエンテカ、パッタシ、ブンコーと共に酒を飲みながら遅くまで語り合った。

エンテカはやはりというか、わかりやすいというか。

サーシャのことが昔から好きなようで、サーシャを守るぐらい強くなるために自分を鍛えていたらしい。

そこにどこの馬の骨ともわからない俺が来たから気が気じゃなかったのだろう。

まあ、好きな人の家に同年代の男がいたらそりゃ嫌だよね。


エンテカも2人の弟分も親が小さいころに亡くなっており、それで3人で暮らしているようだ

夜遅くまで飲んで4人はすっかり意気投合し、酔っぱらって雑魚寝をしてしまった。

大学生以来か、人の家で飲んでそのまま寝るなんて。

しかも、エンテカから強化魔法と火属性魔法を次の日から教えてもらう約束まで取り付けた。

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