11 決闘

 この1週間で準備できることはやってきた。

俺は決闘場でエンテカと向かい合っている。

周りにはたくさんの村人が見物にきていた。

酒を飲んだり、物を売っている人までいて一種のお祭りのようだ。


「へえ!逃げずに来たようだな。ルールは簡単だ。戦闘の続行ができなくなったと審判のサーシャが判断した場合、あるいは負けを認めた場合に終了となる。俺が勝ったら、お前はサーシャの家から出ていく。そして俺が負けたらなんでもいうことを聞いてやる」


「わかった」


ごくりと唾を飲み込む。


「じゃあ、まず先に名乗っていいぞ」


うん?もう俺の名前は知ってると思うけど。


「神崎要だ」


そのまま、エンテカはしばらくだまって、不思議な顔をした。


「もしかしてもう終わりか?」


「ほかに何か言うことがあるのか?」


盛大に肩を落としため息をつくエンテカ


「チッ!わかってねえな男のロマンってのが、いいだろう俺が名乗りってものを見せてやる」


そういうと、エンテカは羽織っていた真っ赤なマントを放った。


「三千世界の奥地に生きる。海千山千超えねども我が名声は天をつく。

我が魔力は海を超え、我が声は天を裂き、我が拳は大地を砕く。

死屍累々の戦場で、幾星霜の時を経て、我が輝きをここに刻む。

原初の炎を授かりし、歴代一の炎術士、エンテカ・バンガーウッドたぁ俺のこと」


いいぞーと野太い声が響き、周りの男達は盛り上がる。

逆に女性達が白い目で見ているのをみると、これが村の伝統と考えるのは早計なのかもしれない。


向かいあう俺とエンテカの、ちょうど中央に立つサーシャが右手を上げた。


「それではこれより、神崎要、エンテカ・バンガーウッドの決闘を始める。

両者よろしいか」


「うん」


「いつでもいいぜ」


「では。はじめ」


「おら!」


予想通りエンテカは強化魔法を全身に纏い、突進してこようとする。

踏み出しの起点となる右足に狙いを定めた。


「構築魔法”キューブ”」


右手をエンテカの足にむけて構築魔法を展開する。

少し狙いがそれたが、立方体がエンテカの右足の小指あたりに出現した。


「いて!」


強化魔法を使っていても効いているようだ。

体勢が崩れた隙に距離をとり同時に構築。

投げナイフを構築しそのまま体勢がくずれたエンテカに投げた。

しかしこれは避けられてしまった。


「このやろ!」


また突進してくるエンテカ。

強化魔法を得意としているだけあって、俺が離れるより圧倒的に早い速度で距離を詰めてくる。


「構築魔法”キューブ”」


また構築魔法を使用し、右手をエンテカの足に向け、また立方体を出現させる。


「何度も同じ手に乗るかっての!」


エンテカは飛び上がり、箱をよけたが、今度は顔面にキューブがぶつかった。

時間差で出した構築魔法だ。


「ぐぎゃ!」


盛大にこけたエンテカに追い打ちのナイフを投げた。

今度は避けきることがことができず肩に刺さった。

周囲はどよどよとざわついた。


「人間に負けんなよ!」


「ぎゃはは。かっこわるいぜエンテカ」


などとエンテカをヤジる声が聞こえる。


「このやろう!少しはやるようじゃねえか」


ここまでは、サーシャとのシュミレーション通りだ。

小狡い戦い方に見えるが、これが構築魔法の戦い方なのだ。

近距離で強化魔法と殴り合うことは分が悪いため、中距離で近づかせないように軽い構築魔法をばらまく。

相手が体勢を崩したら、やや時間をかけて作ったナイフなどでダメージを与えていくのが対強化魔法との定石だ。

ここまでは有利なように見えるが、見た目ほど戦況は優位ではない。


なぜならエンテカにはほぼダメージがないからだ。

そのわりに俺は魔力を消費している。

やはり構築魔法と強化魔法は相性が悪いようだ。


「お前には俺の全力をもって相手をしてやろう」


そういうと、エンテカは詠唱を始めた。

チャンスだ。距離を詰められない今のうちに俺とエンテカの間に構築魔法をばらまいておく。

同時に時間をかけて、ナイフを構築しておく。

修行により、時間をかけて構築した俺のナイフは岩をも穿つ。


「いくぜ。火属性魔法、炎熱波動」


「うお!」


エンテカを中心に熱気が膨れ上がり爆発した。

エンテカ周囲にせっかく展開した構築魔法が消し飛んでしまう。

熱の波動はなんとか障壁で身を守ることができたが、まずいことに爆風によりエンテカの姿を見失ってしまった。


「くっ!どこに」


「上だ!」


親切に答えてくれたようだ。

絶対の自信によるものだろうか。

エンテカはすぐ真上、俺に拳を振り下ろそうとしていた。


「火属性魔法、炎熱掌」


「く、最大障壁!」


3重の最高硬度の障壁を張る。

さらに3重の障壁の間にクッションのように弾力のある障壁を挟むが、重力、強化魔法に加え、炎魔法によるエンテカの攻撃には耐えることができない。

1週間前と同じように、無残にシールドは破れ、俺の顔面にもろに突きが入る。

土煙が舞い上がった。

立っているのはエンテカ1人だけだった。


「まあまあだったな。これで終わりだ。

サーシャ、判定を頼む」


「まだよ」


「はあ!なにいってんだ。俺の炎熱掌をもろにくらって立ってるのは大人でも。うお」


ナイフが空を引き裂く。

くそっ。

絶好のチャンスを逃した。


「こいつは驚いたな。どうやって俺の攻撃を防いだんだ。ん?」


ぼろぼろと、顔のシールドがはがれているのに気づいたようだ。

最大障壁が破れた時にもう1枚の障壁を張っていたのだ。


「なるほど、体表面への障壁か。たいした奴だ。見直したぜ」


エンテカは上機嫌だ。

強い相手が見つかると喜ぶ戦闘狂らしい。


「お前には俺の奥義をみせてもいいだろう」


「ふん。どんな奥義か知らないだろうけど。

俺にもまだ奥の手がある」


なんて強がってみたが、俺にはもう魔力が残っていない。

最後に作ったナイフも魔力が足りず消えてしまった。


「かっかっか。気に入ったぁ!!

こんなにも楽しませてくれるとは。この勝負が終わったら特別に俺の子分にしてやろう」


おれは嫌だなあ。

ほら見てみろよ。

お前の子分2人も嫌そうにしているぞ。


エンテカは詠唱に入る。

長い詠唱からして、おそらく奴の最大の魔法だろう。

普通ならここで詠唱妨害をするのだが、残念ながら詠唱妨害するだけの魔力も残っていない。


たっぷりと時間をかけてエンテカの魔法が完成したようだ。


「はっはっは!わざわざ待ってくれたのか。ますます気に入ったぜ。

いいのか。お前の奥の手とやらを使わなくても」


「わざわざどうも。でももう準備は出来ているんだ。ノーム!」


実はこの1週間でノームとの契約を済ませてあったのだ。

それにより、俺はノームの魔力を借りて属性魔法を使うことができる。


「頼んだノーム。土属性魔法”土牢”(つちろう)」


エンテカの周りがゆっくりとせり上がり、エンテカを覆うようにドームが出来上がった。

刹那、ドームがはじけとぶ。

全身に炎を纏ったエンテカが叫んだ。


「こんな程度か!期待させやがって、ただの土牢だと。

土魔法の基礎の基礎じゃねえか。

短期間に属性魔法まで習得したのは認めるが。付け焼刃だ」


ご立腹のようだが、かまわず術を行使する。


「土属性魔法”土牢禁城”(どろうきんじょう)」


エンテカの周りがまた土壁がせりあがる。


「はっ!一応中級魔法は使えたか。

これがお前の奥の手ってわけだ。

ならばお前の全力を我が全力をもって答えよう。

禁呪 “火遠理命”(ほおりのみこと)」


大量の炎が噴き出し、爆発する。

土の壁は跡形もなく消えてしまい、すべてが炎に飲み込まれた。






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