10 炎術士エンテカ

10 炎術士エンテカ


 

ある日の朝、いつものように1人で魔法の修行をしていると、1人の子供が、こちらを見ているのに気づいた。

俺より一回り小さい。

しばらくこっちを観察していたが、いきなり石を投げてきたので、障壁魔法で防いだ。


「おい!お前、人間なんだろ。よそ者はでていけよ!」


村にきて1か月ぐらいか。

大人たちとは魔物の死体や、薬草の受け渡しなど交流があったおかげで少しづつ打ち解けてきたと思っていたのだが。

子供は正直だ。


「わるいけど、行くところがなくてね。もうしばらくはここにいるよ」


と返事したものの、かまわず石をなげてくるので、障壁を張っておく。

いい練習にはなりそうだ。


石を投げるのをあきらめたようだが、今度は石を浮かせて運動魔法で石を飛ばしてきた。

だが威力は投石と変わらないぐらいで、障壁で簡単に防げる。

サーシャのように軌道変更や複数同時には操れないうえに、十数回の石を飛ばし終わるとバテてしまったようだ。


「おぼえてろよ!」


捨て台詞を残し逃げて行ってしまった。



次の日。

子供は2人に増えていた。


「覚悟しろよ!」


昨日きた子供はまた石を浮かし、運動魔法で石を飛ばしてくる。

さらに、もう一人の子供は構築魔法が得意なようで、剣状の物体をつくって切りつけてこようと近づいてきた。

とりあえず、障壁をドーム状に張っておいた。


「おい!全方位障壁だぜ」


「エンテカ兄貴でもできないのに」


子供は驚いていたようだが、意を決して近づいてきた。


「やあああああああ!」


走って勢いをつけ、障壁魔法に剣を叩きつける。

だが剣は真っ二つに折れてしまった。

飛んでくる石も障壁でガードできる。

また構築魔法を行うと思ったが、1回が限界のようで、構築魔法の子供は剣が壊れると石を投げてきた。

しかし、こちらが障壁を張り続けているとどちらもあきらめたようだ。


「こうなったらエンテカ兄貴を呼んでやるからな」


「もう終わりだからなよそ者め」


「覚えてろよ!」


2人はまたどこかに行ってしまった。


エンテカ兄貴がどういう人物かは分からないが、この様子であればたいしたことはなさそうだ。

おれはまた修行に戻った。


その次の日。

2人の子供がもう1人の男を連れてきた。

男は俺よりも一回り大柄で、燃えるような赤い長髪を後ろに括り、切れ長の目をしていた。


「パッタシ、ブンコーが世話になったようだな」


あの2人の名前だろうか。

こころなしだが、下っ端感が強い名前な気がする。


昨日と同じように攻撃されるのかと身構えたが、驚いたことに頭を下げてきた。


「悪かったな。この2人にはよく言い聞かせておく。

よそ者だとか種族だとかは関係ねえからな。

小さな村だが、ゆっくりしていってくれ」


「そんなぁ兄貴。ビシっと言ってやってくださいよ」


「馬鹿野郎。客人に迷惑かけやがって」


ゴツンと2人は殴られて伸びてしまった。


「こんな礼儀正しくされるとは、びっくりしました。2人には魔術の練習相手になってもらっていただけなので、そんなに迷惑をかけられていないですよ」


「そういってもらえたらありがたいが。

よければどんな経緯でこの村にきたのか教えてもらっていいか」


「喜んで」


そうして、俺は異世界から召喚され、魔物に襲われサーシャに助けられたことを話した。

エンテカは適度に相槌をうってくれて喋りやすい。

エンテカはサーシャと同い年で魔術で切磋琢磨するライバルのようなものだと語った。

村はずれに住んでおり、もう親はいないようだが、この年で魔術を使いながら生計を立てているという。


ここまではなんの問題なく進んだ。

だが、サーシャの家に居候させてもらっていると話した時、不穏な空気を感じた。


「おい、今、なんて? もう1度言ってもらっていいか」


空気が変わったのに戸惑ったが、そのまま答える。


「あ、だから、サーシャと村長様の家に居候して、魔術を教えてもらったり、家事や仕事を手伝わせてもらっているんだ」


「い・そ・う・ろ・う?」


周りの空気が熱くなっているのが分かる。


「おいおいおいおい!

異世界から召喚されて、いくあてもなくこの村で生活してるのは分かるぜ。

ただ、お前、サ、サーシャと同じ家でご飯食べて、同じ屋根の下でねねね寝てるんだろう。

なんてうらやま、いやけしからんことだ。

俺が成敗してやる。立て!!」


めちゃくちゃ怒っている。


「は、はい!!」


否応なしに従ってしまった。


「これでも食らいやがれ!」


エンテカが詠唱を行う。

右手に魔力が集まり、魔法陣が光ったかと思うと

なんと右手が燃え出した。


「おら!」


嫌な予感がして咄嗟に障壁を展開する。


「多重障壁!」


おれの渾身の3重の障壁だ。

サーシャの運動魔法だって耐えて見せた。


だが、燃える右手はおれの障壁を破壊し、俺の顔面に拳が放たれた。


「うわ!! あつっ!!」


顔に炎が燃え移り、無様に土に転げまわるとやっと火が消えた。


「さすが兄貴の強化魔法!」


「これが、炎術士エンテカの力だ!」


いつの間にか、ブンコー、パッタシが起き上がってはしゃいでいる。

エンテカは腕組みをして仁王立ちで立っている。


「おうおう!魔法をおぼえたばかりにしちゃいい障壁じゃねえか。おれの敵ではないがな。右も左も分からない状態じゃあ人に頼るのも仕方ねえ」


「ただし、サーシャと一緒に暮らすのはこの俺エンテカがゆるさん。正式に決闘を申し込む。1週間後、村の”決闘場”にこい。俺が勝ったら、サーシャの家からすぐにでていけ。万が一もないが俺が負けたらなんでもいうこと聞いてやるよ」


そう言い放つと2人の子分を連れてエンテカは去っていた。

炎のような男だった。


家に帰り、エンテカのことを2人に話した。


「あんのばか!昔からちょっかいかけてくるのよ。本当にうっとおしい。」


エンテカの好意とは裏腹にサーシャはエンテカのことを嫌っているようだ。


「しかし、困ったことになったのう。この村ではなにか争いがあった場合、決闘で決めるのが通例での。負けたらここを出ていかないといけなくなるの」


「う。そうなんですか。めちゃくちゃ強くて、勝てる気がしないんですが」


「はあーもう少し、修行が進んでいれば。せめて属性魔法が使えるようになっておけばやりようはあったんだけど。構築魔法が得意なカナメとも相性も悪いし」


「相性って?」


「基礎魔法は、運動、構築、強化の3つに分かれるってのはもう話したわよね?

この3つの魔法はお互い得意、不得意があるの」


サーシャが空中に魔力で字を書いていく。

そんな使い方もできるのか。

 

「例えば私が得意とする運動魔法は遠距離から強化魔法の使い手を一方的に攻撃できる。それに強化魔法って防御はそんなに得意じゃないから運動魔法は強化魔法に相性がいいの」


運動から強化の方に矢印を書いた。


「一方、運動魔法は構築魔法は固い障壁を突破できないことが多くて、相性が悪いわ。

エンテカは強化魔法が得意なんだけど、攻撃力が高くて同じレベルだと構築魔法の障壁が破られちゃうことが多いのよね」


以下のような図が宙に浮かび上がった。


運動→強化

↑   ↓

構築 


じゃんけんのようになっている。


「なるほど。じゃあ、勝ちようがないんじゃ」


「これを覆すのが属性魔法や精霊魔法なんだけど。まだ習得できていないのと、エンテカは近距離が得意な火魔法を習得しているからねえ」


サーシャは眉間にしわを寄せて悩んでいる。


「とりあえず。1週間で属性魔法か精霊魔法の習得を急ピッチで進めるわよ」


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