9 強化魔法

9 強化魔法


次の日、魔法の修行は次の段階に進んだ。


「これが基礎魔法の最終段階。強化魔法よ 」


サーシャはてくてくと歩きながら話す。

自分の背丈ほどもある大きな岩の前に止まった。


「まず手本を見せるから見ててね」


サーシャの右手に魔力が集まる。


「えい!」


右手から突きを繰り出した。

手が岩にめり込み、岩に亀裂が入った。


「は?」


「これをやってもらいます」


サーシャはにぱっと笑顔を作り言い切った。

どんどん人間から離れていく。


「ちょっと失礼なこと考えてない?」


手に魔力が集まっているのをみてぶんぶんと顔をふる。

ひとまず、右手に魔力を集める。

この状態で岩に向かって突きを繰り出した。


なんと。一発で割れた。


俺の拳が。


「いってえ!!」


「あなたがやってるのは運動魔法だからね。当然よ。魔力を移動させるんじゃなくて、体に流すイメージよ」


サーシャにまたやって見せてもらいながら魔力を体に流そうとする。


「これも何度もやって体に覚えさせるしかないわね。じゃあ頑張って私は狩りに行ってくるわ。」


「あ!ちょっと。おれも狩りに連れて行ってくれるって話じゃなかったっけ?」


「あら?そうだったわね。じゃあ馬で行きましょうか。後ろに乗って」


ひらりと馬にのれない。

あれ、馬ってどうやって乗るんだ。

なんとかかんとか馬に乗っても、全然安定しない。

お尻超痛い。

思わず、前のサーシャを支えにするため抱きついてしまう。

あ。柔らかい。


「ちょっとどこ触ってんの!」


強化魔法が込められた岩を砕くパンチが放たれた。

あー、人間って空を飛べるんだ。

アイ キャン フライ。

危なかった。咄嗟に障壁を貼ってなかったら俺の頭はつぶれていただろう。


「馬に乗れるようになるまでは狩り禁止よ」


とほほ。

おとなしく強化の魔法の訓練に取り掛かった。

だがやはり、構築魔法の時とは違い、適性がないためか苦労する。

どうしても魔力を流すというイメージがつかず、右手に魔力が移動するだけ。


強化魔法を1週間繰り返しているが、まだイメージがついていない。


「困っているようじゃな」


下から声が聞こえてくると思ったらノームだった。

村長様の畑に植えてから、すっかり忘れていた。


「あれ?移動できないんじゃ?」


「そなたのおかげで魔力が回復したから自分で動くぐらいはできるようになったんじゃ。ほれ」


目の前の泥団子状のノームがコロコロと転がっていく。

気のせいか前より一回り大きくなっているような。


「魔力を流すときは、そのものの構築を深く理解しないとだめじゃぞ。

みているといつも違う石で練習しているようじゃが、それよりも石なら同じ石。よく使っているもの、自分の体なんかは流れているのがよく感じられるからわかりやすい」


おおお、このちっこいのからこんな的確なアドバイスが


「ノーム様!ありがとうございます」


「うむうむ励むがよい」


こうしてまた修行の日々が続いた。




「じゃあ、やって見せてくれる?」


あれからさらに1週間が経った。

魔法の修行を初めてから1か月程度だ。

まず魔力を使い慣れた石に流していく。

石の中まで魔力が浸透しきったところで


「はっ!」


置いていた石に、強化した石をぶつける。

置いてあった石は真っ二つに割れた。


「まずまずね。体の強化はできる?」


「それも練習したよ」


ノームの言葉に従って練習したのだ。

石に比べてかなり複雑な構成だったのでかなり苦戦した。

まず体の大血管から全身の末梢血管に魔力を流し込み、筋肉に浸透させ、静脈から心臓にまた帰ってくるようにぐるぐると循環させる。

そうしてサーシャと同じように、自分と同じくらいの岩を見つけ、


「やっ!」


岩はさすがに砕けることはなかったが、拳の痕が少し残った。


「あなたにはいつも驚かされるわ。こんな短期間で魔法を習得してしまうなんて」


「これで基礎魔法の修行は一応終了よ。以降は属性魔法や機会があれば精霊魔法を習得していくことになるけど、まずは覚えた基礎魔法を実践してみましょう。馬には乗れるようになった?」


「もちろん。苦労したけどね」


「分かった。じゃあ、今日から午前中は狩りを手伝ってもらうわよ」


サーシャが召喚魔法を行うと、黒馬が出てくる。

初めてあった時に乗っていたのもこの馬だった。

精霊だったのか。

この2週間で乗馬の訓練をしており、さらに強化魔法も使用しているため軽く馬に乗ることができた。


「じゃあ行きましょうか」


 まずは罠を仕掛けた場所を見て回る。

獣道とよばれる通り道に仕掛けておくのだ。


「村の人が引っかからないように木の幹に傷をつけて印をつけているわ。大人でも引っかかると動けなくなるから気をつけてね」


たしかに幹にバツがついているが、慣れないと見逃しそうだ。


「じゃあ今度は狩りを行ってみましょうか」


サーシャの狩りは基本的に弓矢を使う。

麻痺毒を矢先に詰めており、矢が当たると獲物はすぐに動けなくなる。


「矢を用意できる?」


「分かった」


サーシャの家にあった矢と同じものを作成する。


「ありがとう。魔法の節約になるし助かるわ。じゃあ試してみるわよ」


俺たちは高台から見下ろすような形で隠れているが、ちょうど川辺に鹿のような動物がいるのだ。

サーシャは弓を引き、狙いを定めて鹿に矢を射った。

綺麗な放物線を描き、鹿の頭に命中すると矢はそのまま貫通し鹿はドサリと倒れた。


「すごい一撃で」


「いや、すごいのは矢の方よ。固い頭蓋骨を貫通したわ。やっぱり構築魔法に関しては凄まじいわね」


倒した魔物は血抜きし解体を行った。

16歳でサーシャは自分で狩りをし、解体までするのだ。


「カナメも覚えておいてね。今度からやってもらうから」


「ああ。わかった」


解体が終わるとカウリパさんのところに持って行った。


「いらっしゃーい。カウリパのなんでも屋だよ。あっカナメ君!久しぶりー」


「お久しぶりです」


一回行っただけなのに覚えてくれていた。


「もうひどいよ。ひいきにしてって言ったのに1ヵ月も経つよ!なにしてたの?」


「すいません。じつは魔法の修行をしていて」


「ええ!カナメ君魔法が使えるの? 将来有望だなあ。今のうちに唾をつけておこうかな」


「ちょっとカウリパ。何をいってるの」


サーシャが割って入る。


「ふふふサーシャちゃん冗談だよー。じゃあ今日も穀物と野菜と交換でいいかな」


「今日は新しい弓が欲しいわ。カナメ用に」


「あ、それならいいのがあるよ」


カウリパはサーシャのものよりやや大きなつくりの弓を持ってきた。


「じゃーん。精霊の弓よ。弦に風の精霊の素材を使っているから魔力がたっぷり籠っているの。うち一番の弓よ」


「ちょっといいの?そんな高価なもの釣り合わないわよ」


「ふふふ。カナメ君への投資かな。私の勘だけど、あなたは将来大きなことをしそうだから。そのときにうちの商品をいっぱい宣伝してね」


弓を受け取った。

真っ黒な弓だった。

確かに弓自体に魔力がこもっているのが分かる。

弦を触ってみる。

触ったことのある手触りだ。


「もしかしてサーシャの黒馬?」


「ぎく。何をいっているのかーカナメ君」


「そういえば黒馬の毛が伸びてるから無償で毛刈りをするっていったことあったわよね」


「ぎくぎく。まあまあサーシャちゃんの馬はさっぱりして幸せ。私は珍しい素材が手に入って幸せ。それにカナメ君はいい弓が手に入ったんだし。いいじゃない」


あははと愛想笑いするカウリパさん。


「まあいいけど。次からは先に行ってほしいわ。」


「この弓。大切にしますね。」


次の日から、弓の練習も修行の一環に加わったのは言うまでもない。




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