8 土の精霊ノーム
「今日は魔力も多く使ったし早いとこ切り上げましょうか」
「う、うん」
と、練習を切り上げようとしたら土の中からなにか茶色い生物が顔をだしていた。
「サーシャ。あれってなに?」
サーシャが俺の指さした方を見る。
「え!カナメ!土の低級精霊よ。この村で生活しているとたまに精霊がでてくるのよ」
普段クールなサーシャが興奮しているようだ。
かわいい。
土から顔をだしている生き物を改めてみる。
ほぼ土と同じ色、同じ質感で我ながらよく見つけたと思う。
拳大の顔に真っ黒な目が2つ。
泥団子に目が2つついているような見た目だ。
「契約できるか試してみるわ」
サーシャがゆっくり近づき、聞いたことがない呪文の詠唱を始めた。
ただ、俺にはクロノス様からもらった言語能力があるためか、同時翻訳のように日本語で意味が頭に入ってくる。
「古の誓いに従って、我、サーシャ・エリティニアは貴君との契約を結ばんとす」
呪文と共に魔力が手に集まる。
魔法陣を構築し、魔法陣が光り始める。
だが、呪文の途中で精霊は土の中に逃げてしまった。
なんかポケモンのようだな。
「あっ!」
さっきの精霊がいた所を掘り返してみたが、もう影も形も見えなくなっていた。
悔しがるサーシャ。
あとから、サーシャに精霊魔法について教えてもらった。
特殊な魔法のようで森の民しか使うことができないようだ。
今俺が練習しているのは、魔力を移動させる運動魔法、形にする構築魔法。
これから練習するのが、魔力を物体に流す強化魔法だ。
これらは基礎魔法と呼ばれており、火や風を起こしたり、凍らせたりといった魔法はこれら基礎魔法を組み合わせる。
魔力を移動させ手に集中させ、その魔力で構築魔法によって魔法陣を描き、魔法陣に魔力を注ぐ強化魔法で魔法を発動させる。
これが一般的な魔法である。
ただ契約魔法の場合はさらに工程が1つ加わる。
魔力で契約書を作るのだ。それを術者、精霊で合意し、2人が契約書に魔力を流すと完成だ。
基本的に契約は以下の通り
・術者の魔力量に応じて、精霊の力を借りることができる。
・精霊は術者を傷つけることができない。
・精霊は召喚魔法で呼びだすことができる。
強力だが、精霊への縛りが大きいためかなりの魔力を使用するようだ。
サーシャは2匹の精霊、氷と風の精霊と契約して、まだ魔力に余裕があるが、基本的には精霊1匹と契約するのが普通だ。
さらに契約に協力的な精霊を見つけるのが苦労するようだ。
まあ、まだまだ魔法を覚えてたての俺には関係ない話。
まずは基礎魔法の徹底だと。このときはその程度に考えていた。
その夜。
眠りにつこうとしたとき窓の外から声が聞こえたような気がした。
この世界は夜に明かりはなく、本当に真っ暗になる。
つまり、夜は怖い。
夜中におしっことか行けないのだ。
なので、声を無視しようとしたのだが、かすかに「たすけて」と言っているように聞こえ、お人好しな俺は外に様子を見に行ってしまった。
目をつむっても開けても変わらないような闇の中、声だけが聞こえる。
声の方に目を凝らすとかすかな魔力が見えた。
「おーい、こっちだこっち」
こっちと言われても、地面しかないが。
かすかな魔力をたよりに歩き回ってみたが、やはり見つからない。
「いて!」
そのとき、ちょうど足の下で声がした。
まさかと思って、足を挙げるが地面しかなかった。
いや、地面があったというべきか。
昼間に会った土の精霊のようだった。
「私を足蹴にするとはなんて失礼なやつ」
「うお!喋った」
「喋ったとはなんだ。私は土の精霊の王ノーム。10000の精霊を統べ、1000の技を持って、100の敵将を討ち、10の国を1つにまとめた王の中の王よ。
精霊界からこちらの世界に我が一部を飛ばしたら、なんとこの国の住みにくいことか。
魔力が全然足らんわ」
ちっさい泥団子にしかみえない塊が偉そうにしている。
小さい子供が王様ごっこをしているみたいで愛らしい。
面白いしとりあえず従っておくことにした。
「ははーこれは大変失礼いたしました。私は卑しき人間。神崎要と申すもの。私にできることならなんなりとお申し付けください」
「ほほぉ。そなた、貧相な見た目じゃが、なかなか話が分かるやつよ。
ん?もしかしてそなた精霊の言葉が分かるのか?」
貧相な見た目と言われたよな、いま?
まあいい。いったん置いておこう。
「下賤な私には理由は分かりかねますが、あなたの言葉ははっきりと分かります」
「ふむふむ。人間のわりにはなかなかものの道理がわかるようじゃな。
気に入った!!この人間界の1人目の家来にしてやろう。光栄に思うがよい」
俺の態度にご満悦なようだが、勝手に家来にされてしまった。
「は!もったいなきお言葉。ありがたき幸せ!」
可愛いし付き合ってやることにする。
「要といったな。おぬしに命令を与える。
我が体を肥沃な大地に移動させるのじゃ」
えーと肥沃な大地というと。
ひとまず、村長様がいつも世話している畑がそうかな。
「御意にございます」
さてと、精霊ノームをゆっくりと両手で包み込むように持ち上げた。本当に泥団子のようで頭に苔が生えている。
落としたら泥団子のように割れてしまうかもしれないので、慎重に畑に運び家からは最も離れた人から踏まれにくそうなところに置いてあげた。
「おお、これはこれは生き返るのう。極楽極楽。
私がこちらに来た時の土は魔力に乏しくて、干からびてしまいそうじゃったわ」
まるで温泉に入っているかのようだ。
今にも歌いだしそうだ。いい土だな!バババン。なんてな。
「カナメよ。ご苦労であった。しばらくはここで英気を養うゆえ、自由にしているといい」
「はは!もったいなきお言葉」
えらそうなちっこい精霊も満足してくれたようだし、寝ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます