7 構築魔法
7 運動魔法
外の庭に移動し、魔法の次の段階に進む。
「さあ、これから覚えてもらうのは構築魔法。
魔力によって、盾や剣を形作る魔法よ。
これを習得しない魔法使いは、戦場で裸で歩いているぐらい危険だわ。
いい?」
「はい!サーシャ先生」
「先生ってなによ。ふざけないでよね」
むくれっつらも可愛いが、怒らすと石が飛んできそうだ。
石が何個も運動魔法で浮かび上がってる!
危ない危ない。
「見ててね。こうやって手に集めた魔力を形作って固める」
両手に集まった魔力が、手の前でひし形となり、半透明の物体となった。
「これが障壁魔法よ。魔法使いの命綱ね。
これをどんな場所でも1秒以内に自分のすべての魔力を集められるように」
ごくりと唾をのむ。
魔法の修行をはじめて、これがどれほど困難なことが分かるからだ。
「難しさが分かったようね。障壁魔法が未熟なものから死んでいくわ。
この魔法を習得できなければ危険だから魔法の修行は終了。
魔法を使わなくても生きていく方法はあるんだからすっぱりあきらめなさい」
サーシャは突き放すように言った。
「サーシャはなにか。俺に魔法を教えたくないように感じるんだけど、どうしてなんだ?」
サーシャは少し口ごもってからぽつりぽつりと語った。
「力を持つものはそれだけ危険な仕事を任されることが多くなるの。
この村も山の奥地にあるからか、魔物の危険度が高くて、村の魔法使いが何度も怪我をして魔物を追い払っているのを見たわ。
時には命を落とすこともあるの。
下手にあなたに魔法を教えて、もしなにかあればって考えるとね」
最初は魔法の才能がなくて教える気がないのだと思った。
だが、1週間。
サーシャの教えは丁寧で、すぐには俺は自分の考えがまちがっていることに気付いたのだ。
俺を守るためだったのだ。
そう考えると、目頭が熱くなった。
「先生!俺は感動しました。見ててください。立派にこの構築魔法を身に着けてみせます」
「なんか、軽く聞こえるのよね。あなたが話してると」
昔から俺が真剣に言ってもなぜかこの熱意が伝わらないことが多いのだ。
だから結果で示して見せる。
さっそく、両手に魔法を集める。
1週間前とは段違いにスムーズだ。
そして、サーシャと同じように目の前にひし形に魔力を形作る。
すると意外とすんなり魔力が形をなした。
「サーシャ!みてくれ。これうまくいったんじゃないか」
サーシャはやれやれとためいきをついた。
「あなたがどれだけ甘いか教えてあげるわ。
障壁魔法でで守っててね」
サーシャが人差し指を突き出してきた。
作りたての盾の魔法で自分の顔を守るが、指は盾を抵抗なくすり抜けて俺のおでこを弾いた。
「あだ!」
「すっかすかじゃない。魔力を集めるだけ集めて、固めるの!やりなおし」
魔力が霧散する。
移動の魔法のときに気付いたのだが、魔力を制御できずに霧散させると消耗が激しいのだ。
どっと倦怠感がたまる。
「どんどん行くわよ」
にやにやと笑みを浮かべたサーシャが近づいてくる。
この日は魔力の限界近くまでサーシャに搾り取られてしまった。
魔法の修行をはじめてさらに1週間が過ぎた。
移動魔法に比べると、構築魔法の修行は順調に進み、2日目にはある程度の固さの障壁を形成することができるようになった。
今では体のどこでも、一瞬でという課題はクリアすることができている。
家事を行っている時に、村長様に話してみると、「それは適正じゃの」と言われた。
いわく運動、構築、強化の魔法が、すべての魔法の基本となっている。
その中で、それぞれ得意分野に大きく差がでるようだ。
俺は構築魔法に適性があるらしい。
「構築魔法は奥が深くてのう。魔法式の構築に関わる分野じゃから極めるとどんな魔法も扱えるようになるんじゃ。
はじめは肉体の強化ができる強化魔法や、遠距離から攻撃できる移動魔法の方が使い勝手がよく見えるがの。」
頑張って時間をかけて鍛えると強い魔法のようだ。
俺向きだと思う。
RPGでは大器晩成キャラにロマンを感じて育てていた。
構築魔法は構築したものが壊れない限りは魔法消費が少ないようで、家事を行っているとき以外はひたすら何かを作っていた。
矢、剣は実際に家にあったので、触りながら同じ形、硬度にしようと構築を繰り返した。
ちょうど1週間が経った。
「さて、じゃあいくわよ。本気で防御しないと痛いじゃすまないからね」
サーシャの目は本気だ。
物騒なことを言っている。
「ちょっと勘弁してほしいな」
「問答無用!」
拳大の石が目の前で浮き、まっすぐに顔に向かって飛んできた。
「構築”障壁”」
顔の前に半透明の盾が出現し、ガツンと音がして岩を弾いた。
おいおい、確かに当たったら洒落にならねーよ。
「今度はこれでどう?」
今度は石を同時に2つ浮かし、カープをつけて両側から同時に石つぶてが襲い掛かってきた。
「同時構築」
今度は2つの障壁を同時に出して、よし。成功した。
どうだとサーシャの方を見ると、今度は数えきれないほどの無数の石が宙に浮かび上がっている。
「これは受け止められるかしら」
楽しげにくすくすと笑うサーシャ。
この人絶対ドSだよ。
宙にういた無数の石が俺に襲い掛かってきた。しかも直線軌道、曲線軌道も混ざっていて、360°全方位からの攻撃だ。
「構築”全方位障壁”」
ドーム状の障壁をはる構築魔法だ。
魔力消費が激しいのと、普通の障壁よりも脆くなるのが欠点ではあるが、このような範囲魔法を耐えることができるのは大きい。
無数の石つぶてがスコールのように降り注ぐ。
障壁にぶつかりすごい音がする。
ただ、1つ1つは大した威力じゃないようで、俺の障壁でも十分防ぐことができた。
激しい攻撃が終わったとたん、ぞくっと嫌な予感がした。
サーシャに魔力が集中している。
これで終わりじゃないのかよ。
「正直、2週間そこそこでここまでやれるようになるとは思わなかったわ」
弓に矢をつがえ、俺に向けている。
「この攻撃がもし防げたら、私の狩りに同行してもいいわ。全力で防ぎなさい」
これはやばい、本能が言っている。
俺は全魔力を両手に集中させて両手を前に出した。
刹那、サーシャの矢が放たれる。普通の矢の速度+移動魔法のせいで恐ろしい速度で向かってくる。
「構築”障壁”」
間一髪で障壁が間に合う。
だが、俺の渾身の、すべての魔力を注いだ障壁は音を立てて砕けた。
しかし、この障壁は1枚ではない。3重に重ねたのだ。
2枚目も砕かれ、3枚目の障壁を突き破り、俺の顔数ミリの所でやっと止まった。
「ふう」
息をついてへたりこんでしまった。
防げてなかったらどうなっていたことやら。
「すごいじゃない!」
ぱちぱちと手をたたいてサーシャが近づいてきた。
「村でもこんな高レベルの障壁を張れる人はなかなかいないわよ。
見直しちゃった。魔法の才能もあるし、ここ毎日ずっと魔法の訓練してたわよね」
「はは。ありがとう。助けてくれた時のサーシャの魔法がかっこよくてさ」
「ふふふ。うれしい。私でもこんな障壁張れないかも。
あの矢の魔法は自慢の運動魔法だったんだけどな。
危ない時は今度はあなたに守ってもらおうかしら」
いたずらげにウインクをした。
恐ろしい子だ。
天性の男たらしになるだろう。
おれも今ので危うくハートを奪われるところだった。
「今日は魔力も多く使ったし早いとこきりあげましょうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます