6 運動魔法
「無事に修業は進んでおるようじゃの。魔力の流れが違う。さすがクロノス様が選んだだけあって優秀じゃの」
一目見て村長様から言われた。
「はい。びっくりしています。
魔力がある世界って不思議な感じですね。
昨日までは何も見えなかったのに」
ほっほっほっと村長様は穏やかに笑う。
「何か手伝えることはないですか」
「魔法の修行中じゃろう。まずはゆっくりしたらええ。
手伝ってくれなくてもほれ」
村長様が指さした先をみると勝手に箒が動いている。
運動魔法で動かしているようだ。
「ゆっくりしたらええよ。まずは学ぶことじゃ。それから自分のできることを考えたらええ。」
「ありがとうございます」
優しい世界だ。
衣食住を用意してもらい魔法まで教えてもらっている。
これで何もしないのでは俺の気が済まないので、掃除は少し手伝わせてもらった。
午前中は家の掃除を行い、午後からまた魔法の修行を行う。
手に魔力を集めようとするが、それも一苦労だ。
数十分かけてやっと集めてから石に移そうとするが、なかなか石に魔力が移らない。
それどころか石に移そうとすると魔力が霧散してしまう。
「また最初からだ」
これを何度も何度も繰り返し、意識がぼんやりとしてきた。
まずいと思って誰かを呼びに立ち上がろうとしたとき。
血の気が引くような感じがして目の前が暗くなった。
ちゅんちゅんと鳥の鳴き声が聞こえた。
あれ、昨日たしか、魔法の練習をしていたよな。
そのあと意識が遠のいて。
目を開けるとサーシャと村長が座っていた。
「あ、気が付いた!魔法の練習中に倒れたんだってね。情けないわね。体調管理ぐらいしっかりしなさいよ」
「これ。サーシャ。すまんのうカナメくん。
うちのサーシャは自分のせいだと落ち込んでおったのじゃが素直になれんくての」
「ちょっと、おばあちゃん」
サーシャが赤面している。
白い肌に赤みがさし、つい見とれてしまった。
「悪かったわね」
仏頂面をしたサーシャに謝られた。
「いやいや。俺が体調管理できなかったのが悪いので」
「その体調管理も師匠の責任よ。昨日の魔法の練習を見せてもらっていい?」
「わかった」
まず、昨日のように手に魔力を集中させる。
ポケットに入れていた練習用の石に魔力を流し込もうとして魔力が霧散した。
「なるほどね。魔力は拡散した時に大きく失われるの、何度もこれを繰り返したら魔力切れになるわ。それにあなた訓練を次の段階に進めちゃってるわね」
……え。
言われたとおりにしただけなんだけど。
「魔力は集積、移動させる。構築する。流すっていう3段階があるわ。今、第一段階の魔力を移動させる練習をしているんだけど、あなたが今しているのは移動して、流す訓練。」
「流すと移動させるっていうのはどう違うんだ?」
「んーと。そうねえ。感覚的なものでなんというか」
「石の周りに魔力を集めるだけが移動。移動した魔力を石の中まで浸透させるのが流すじゃな」
村長様が助け船をだしてくれた。
「実際の魔力のイメージだと、カナメ君は石のなかに魔力を入れようとしてるじゃろ。そうじゃなくて、魔力で球を作って、その中に石を入れるイメージじゃ」
なるほど。たしかに俺は魔力を石の中に流し込もうとしてた。
できる気になってきたぞ。
「じゃあやってみて」
魔力を手に集めて。今度はボールを作って石をボールの中にいれてあげると。
おお、一発でできた。
「いいじゃない。じゃあ今度はその魔力を上に浮かせて」
だが、魔力のボールを上に浮かせるのは難易度が段違いだ。
手にくっついていた魔力が体の外を離れるっていう感覚が掴めない。
「あとは練習あるのみね。魔力がなくなりそうになったらすぐに言うのよ」
前世では何をしても中途半端だった。
親に通わせてもらっていた空手は、痛いことと全然勝てないことからすぐに辞めてしまった。
勉強も大学には入ることができたが、大学に入って以降はろくに勉強した思い出がない。
社会人になってからは3流のブラック企業に入って、上に言われたことをするだけだった。
趣味はゲームや漫画、小説は好きだったが、これも社会人になってからはほぼ触れる機会がなくなった。
だから生まれ変わったこの世界で魔法を頑張ってみよう。
色々ごちゃごちゃ言ったが、本音を言うと感動したのが理由だ。
自分が死にそうになった時に、颯爽と現れて、敵を倒したサーシャの魔法に憧れたのだ。
サーシャ本人には恥ずかしくて言えないが。
また魔法の修行の日々が続いた。
一度コツをつかんだこともあって石を動かすことはできるようになっていた。
朝は太陽が昇ると同時に起きて、サーシャに魔法をみてもらい、家事を手伝いながら魔法漬けの日が続いた。
転生時の恩恵で、文字も読めたので、魔力がなくなって倒れそうになったら魔術の本を読む。
そんな生活が2週間ほど続き、やっと。
「おお、浮いた!」
朝起きて、顔を洗ったらすぐに右手に魔力を集めるのが習慣になっていた。
最初の頃に比べると、ずっとスムーズに手に集まるようになり、魔力がなじんだ感じがする。
そうして、いつも持っている石に魔力を集め、魔力を上に持ち上げると、一緒に石が浮いたのだ。
一人で騒いでると。
「ちょっと朝っぱらからうるさいんだけど」
と、サーシャが文句を言ってきたが、部屋に入ると納得したようだ。
「みて!これ!浮いた」
語彙が貧弱になってしまう。
嬉しさで舞い上がっているのだ、しょうがないだろう。
「思ったより早かったわね。じゃあ次の段階に行きましょうか」
口では冷静そうに装っているが、サーシャも驚いているようだ。
魔法の修行は幸先よくスタートした。
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