第70話 『永遠の彼方』の無双劇6
憑依化を決めてから、しばらくすると俺の中にもう一人の気配を感じた。
「『私の出番ってわけね』」
うん。わざわざきてくれてありがとう。
何かしてる最中だった?
「『特に何もなかったから、気にしなくていいわ。それより、あの犬っころを倒せばいいの?』」
さすがリオン。
何も言わなくても、ある程度場を見て察してくれているみたいだ。
頼りになるお姉さんを持って、俺は幸せ者だよ。
「『……それはいいとして、大丈夫なの? みんな驚いてこっちを見てるわよ?』」
まぁ、やり過ぎなければ別にいいよ。
相手のアウラも一級だし、まだ俺一人じゃ少し心許ないからね。
情けないけど、リオンの力を貸してもらうよ。
「『……蒼ならどうにかなる気もするけどね。普段、誰に鍛えられてると思ってるの?』」
そりゃもう笑顔でいじめてくるお姉さまたち……何でもありません。
まぁ冗談は置いておいて、まだ俺には無理だよ。
っていうか、俺人だし。
一生アウラに勝てなくていいよ。平和に過ごせたらそれが一番だ。
「『はぁ……』」
リオンはなんだから呆れてるようにため息をついてるけど、そろそろ向こうが痺れを切らしそうだから、頼んだよ。
できれば、ちょっといい勝負してから倒せると俺の今後の学園生活的には助かるよ。
「……グレイス、いけっ!」
「駄犬が。私に近づくな」
櫛田先輩が魔犬グレイスに、指示をすると、グレイスは周囲を炎に変えながら、俺の方に突っ込んできた。
このままいくと、確実に燃やされるなーと呑気なことを考えていると、リオンがただ一言発した。
しかし、グレイスには十分だった。
リオンの言葉を聞いた瞬間、グレイスはその場でお座りをして、そこから動かなくなった。
「なっ⁉︎」
「犬っころ、さっさとこの場から消えなさい。さもなければ……わかるわよね?」
「クゥン……」
グレイスは、その後櫛田先輩の許可なくその場から姿を消した。
本来、アウラは契約者の許可なしに現実世界から姿を消すようなことはないのだが、圧倒的上位者を前に、グレイスは本能的に察したのだろう。
リオンには敵わない、と。
グレイスも一級の中だと上位に入るはずなのだが、さすがに厄災級第一位を前にすると部が悪かったようだ。
それにしても、一度も戦うことなく相手のアウラを退けちゃうんだから、本当にうちのお姉さんはおっかないよ。
「『あぁ、あのコアを壊せば勝ちなのね』」
うん。そうだよ。
でも、それは自分でやるからそろそろ憑依化を解いて……
「えいっ」
俺の話を最後まで聞かずに、リオンは『深紅の魔術師』たちのコアを軽くこずいてバラバラに破壊してしまった。
いくら憑依化しているからって、そこそこの強度のあるコアを軽く一度こずいただけで壊してしまうのはまずい。
しかも、魔犬グレイスを倒しただけでまだ本命の櫛田先輩とはまだ一度も戦っていない。
っていうか、リオンに憑依化を頼んでから、城の中ではロクに戦闘が起きていない。
そりゃ、厄災級が人の身に宿ればこうなるのは当たり前かもしれないけど、もう少しドラマがあってもいいと思うんだ。
それも全てコアと一緒にバラバラにされちゃったけどね。
「試合終了。みなさんを現実世界まで呼び戻しますので、アウラの召喚を解き、その場から動かないでください」
「『ふふっ、またね蒼。今日は蒼の好きなハンバーグを作っておくわ』」
やったー……とはならないんだけどね。
でもありがとう。少しやりすぎかもしれないけど、助かったよ。
「『別に、感謝されるようなことではないわよ』」
そういって、リオンはいつも俺を守ってくれてるんだ。
男としては情けないけど、その優しさに俺はいつも助けられてるよ。
「『……じゃあね』」
うん。また後で。
たまに素直に感謝をすると、恥ずかしくなって逃げるのはリオンの癖だ。
「蒼、お前あとで朱音たちに怒られても知らねぇからな」
「私、後半全く動けなかったんだけど、あれってリオンさん?」
「そそ。流石に具現化をするのはまずいかなーと思って憑依してもらったんだけど、それでもやりすぎたみたい。まぁ、別にいいかなーって」
詳しく何をしたのかはきっと、同じ厄災級のアウラと契約している人たちだけにしかわからないはずだ。
先生たちや、宗一郎たちにはもうバレてもいいので問題ない。
唯一、上級生の十傑にバレるのだけは少しめんどくさいけど、どうせそのうち正面から戦わないといけない時が来るんだし、気にしないことにした。
「い、一条。お前、何をした?」
「ちょっとしたマジックですよ。道化師っぽいでしょ?」
「そんな誤魔化しが通用するとでも……」
最後に、櫛田先輩から追求されそうになったけど、その前に転移の準備ができたようで、俺たちは全員現実世界へと戻ることになった。
俺たちが現実世界へと戻ると、大きな歓声と俺たちに対する戸惑いのようなものがひしひしと伝わってきた。
少なくとも、今までの十傑とはレベルが違うことは理解してくれたのか、帰ってきて俺たちに対するヤジが飛んでくることはなかった。
うん。流石に憑依はまずかったかなーと思ったけど、結果オーライ!
「蒼、後で話がある」
「ひ、ひゃい……」
俺が一人で満足していると、すっごいいい笑みで睨んでくる宗一郎の姿が……
一応、俺たちのクラン戦の初陣は華々しい勝利で幕を閉じたのだが、その後宗一郎には俺の部屋で2時間ほど正座でみっちり説教されました。
まぁ、これも俺たちらしいかーと呑気なことをその時考えていたけど、今思うと、それが俺の最大のミスだ。
「蒼! ……この手紙を残して、朱音がいなくなった」
「は?」
翌日、朱音がこの獅子王学園を退学したことを知らされた。
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