第68話 『永遠の彼方』の無双劇4

「『紅蓮岩』!」


「宗一郎、無力化して」


「はいはい姫様のお言葉の通り」


「宗一郎まで蒼の真似しない」


 宗一郎は朱音の言葉に笑みを浮かべながら、最も簡単に紅羽の魔法を無効化した。

 魔法で相殺したわけではない。

 ただ、本当に無効化させてしまったのだ。


 これには、紅羽も口を開けて呆然とするしかなく、宗一郎たちのことを警戒する余裕すらなかった。


「何をしたの……?」


「魔法の無効化ですよ。オリジナル魔法とかだと無理ですけど、一般的に使用されている魔法なら、無効化はそれほど難しくないんですよね」


「そ、それは知っているけど……」


 そんなはずはない、と紅羽は心の中で呟く。

 紅蓮岩は超級魔法の中ではそこまで有名なものではない。


 魔力のコスパが悪かったり、範囲が広すぎて味方にも当たってしまうことがあるので、どうしても使い勝手が悪かった。


 まるで、何かを創る過程での失敗作のようだ。


 それが、この紅蓮岩の評価だった。

 それは、紅羽も同意できるし、実際その通りだと思う。


 それでも、この魔法を使えるように魔法式を覚えたのは、ひとえに威力が高いのと、自分以外の人がいなければいいだけだと思っているからである。

 それに加えて、紅羽は人よりも魔力が多い。

 なので、一つ目のデメリットである魔力の関係もあまり問題ないのである。


「実際、その魔法は失敗作なのよ。その魔法の完成品は、こんなに可愛い魔法じゃない」


「……何であなたがそれを知ってるの?」


「それを創ったやつを知っているからに決まってるでしょ?」


「まぁそういうことです。だから、無効化も他の魔法以上に簡単だったわけです」


 紅羽はすぐに否定したかったが、実際に目の前で無効化されているせいで何も言えなかった。

 魔法を一から創造するのは、どれだけの労力と、魔力と、そして才能がいることかを紅羽は理解しているつもりだ。


 誰もが自分だけのオリジナル魔法があればと思うだろう。


 しかし、現実は甘くない。

 自分だけの魔法の式を持っている人など、ごく少数なのである。


 昔、紅羽もオリジナル魔法を創ろうと必死に頑張っていたが、まだ一つとしてオリジナル魔法と言えるものはできていなかった。

 だからこそ、人一倍魔法を創り出すのはどれだけ難しいかを知っているので、なかなか認められないでいるのだった。

 しかも、微妙とはいえ世間一般に認められているほどの魔法を作っているのだ。


「それ、一年生?」


「はい。十傑第七席の一条蒼ですよ」


「嘘だ……」


「まぁあなたに信じてもらわなくても別にいいよ。それより、早く続きやりましょう。あなたもアウラと契約してるんでしょ? さっさと全力でやらないと潰すよ?」


「朱音、あんまりイライラしないよ」


 宗一郎と、朱音がやりとりをしている間に、紅羽は覚悟を決めたように一度深呼吸をすると、次の瞬間纏う空気が変わった。

 常日頃、アウラとの触れ合いがある宗一郎たちにはわかる。

 

「一級アウラか……Aクラスだし当然か」


「私たちも、武装化は必要そうだね」


「私のアウラは英霊クレナイ。名前の通り、火と刀を扱う私の相棒」


 紅羽のアウラは、英霊クレナイ。

 一級以下には順位はないが、それでも確実に一級の中では上位に入るアウラである。


 宗一郎たちもそれを知って自然と笑みが溢れた。

 

「よっしゃ。行くか」


「もち! 暴れよう!」


 宗一郎と朱音は、あえて具現化はさせることなく、お互い剣と籠手にアウラを宿す武装化をして戦いを始めた。

 相手は具現化しているので、確実に不利ではあるが、これでちょうど2対2なので、宗一郎たちも余計なことをしたくなかった。


 それに……


「一級アウラならこのくらいでちょうどいいね」


「っ! クレナイと互角⁉︎」


「宗一郎が手加減してようやく互角っぽいね。まぁ私は本気で行くけど」


 朱音のいう通り、剣と刀で宗一郎とクレナイは切り合っているが、まだ宗一郎には余裕がありそうだった。

 流石に、素の宗一郎だとアウラとやり合うには厳しいが、今は武装化でアーサーの力を借りているので、余裕があった。


 厄災級第二位が具現化していないとはいえ、武装化で人間に力を貸しているのだから、この結果は不思議ではない。


 しかし、その事情を知らない紅羽からすれば、ただの人が第一級アウラと互角に戦っているのだから、不思議で仕方ないだろう。


「どりゃぁぁ!」


「クレナイっ!」


 追加で、朱音の攻撃によって吹き飛ばされたクレナイをみて紅羽は自分の目を疑いたくなった。

 

「あなたたち、化け物?」


「よく言われる。でも、不愉快だからやめてほしいかな」


「まぁまぁ。紅羽先輩も悪意があって言ってるわけじゃないしね」


 今日はよく噛みつくなーと宗一郎は心の中で苦笑しながら、朱音のことを宥める。


 いつもは、蒼がその役を請け負っているので、宗一郎はいつも隣で笑っているだけで済んだのだが、こうして実際に宥める側に立つと意外と大変だなとも思った。

 煽すぎてもダメ。でも放置しすぎるのもダメ。と蒼はいつも絶妙な塩梅で茜たちの機嫌を治しているのだ。

 あんまり役に立たないスキルであるのは間違いないが、今この時だけは非常に有用な技術だなーと宗一郎は呑気にそんなことを考えていた。


「次は絶対に勝つ」


「俺たちも、最後まで紅羽先輩に付き合いたいんですけど、そろそろ城の方が限界っぽいので終わらせますね」


「ね。蒼たちがだいぶ暴れてるみたい。ちょっと楽しそうじゃない?」


「やりすぎてないか後で少し見に行かないとなぁ……」

 

「あなたたち、何を……」


 紅羽が二人に話しかけた瞬間、隣で耳を塞ぎたくなるほどの爆発音とともに、クレナイが具現化を維持できないほどのダメージを負っていることに気がついた。


「こういうことよ。もう少し二人で連携できるようにすることね」


「なっ⁉︎」


「紅羽先輩も……今回はありがとうございました。少しだけ楽しかったです」


「くはっ……」


 最後に宗一郎はそう言って、紅羽自身に攻撃を与えた。

 ここは異空間なので、身体的ダメージはないものの、脱落になるほどには力を入れて攻撃したので、今の一発で三人の間での勝負はついた。


 残り数人、『深紅の魔術師』のクランメンバーがことの成り行きを見ていたが、その後は二人に蹂躙されるのを待つだけだった。

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