第67話 『永遠の彼方』の無双劇3
「蒼、その果実今日本にどのくらいあるか知ってる?」
「いや……結構あるんじゃないの? 幻界出身のアウラと契約してたら割ともらえるものじゃないの?」
「それ、幻界でもほとんどない上に、数が規制されているから、厄災級のアウラでも自分の木を持っているのは珍しいんだよ。ちなみに、それ一個で大陸一個まるまる買えるくらいの値段がつく」
「まじ?」
「「「「まじ」」」」
アーニャがよくジュースにしてくれてるからあんまり実感なかったけど、そんなに貴重なものだったのかこれ……
俺100個以上持ってるんだけど。
しかも、多分アーニャに頼めば無限にくれるんだよなこれ。
この前、一度アーニャに世界樹を見せてもらったけど、木もすごかったけど、果実もめちゃくちゃ付いてたし。
「まぁ、宗一郎たちに渡す分には問題ないでしょ。はい」
俺はあんまり考えないようにして、宗一郎たちに一つずつ果実を渡した。
せっかく、初陣だというのに、他の生徒たちにダサい姿は見せたくないし、ちょっとくらい俺たちの特権を使っても問題ないはずだ。
ということで、俺たちは各々魔物だったり、精霊だったり、動物だったりを召喚し、森に放っていく。
俺たちに攻撃しないことと、相手を絶対に殺さないように命令しておいて、あとは自由にさせているので、各々相手の『深紅の魔術師』のメンバーを見たら襲いかかってくれるはずだ。
雑兵と言っても、中級以上の魔法でようやく倒せるレベルのものを召喚してあるので、ここまでくるのにかなり苦労すると思う。
一応、コアを宗一郎のアウラのパーシヴァルとランスロットに守ってもらう予定なので、万が一があっても負けることはない。
なので俺たちは、好き勝手に相手の城に攻めることができるというわけだ。
「……この果実おいしいね」
「りんごみたいだけど、比べ物にならないくらい甘くて濃厚ね」
「気持ちお肌も良くなってる気がするね」
「魔力の質も上がってるみたい。さすが世界樹の果実だ」
「そうでしょそうでしょ」
女性陣からの評価が良くて僕はご機嫌です。
この果実、効果もすごいんだけど、それ以上に味が美味しいから、俺もよくデザートに食べるんだよね。
ティアたちからも若干呆れられてるけど、アーニャが甘やかしてくれるうちは甘えようと思う。
「そろそろ時間だ。蒼、円陣の声かけ頼んだ」
「りょーかい。よっしゃ! 作戦は特になし! 各々、やりたいようにやってくれていい。せっかくだから、みんな楽しんでいこう!」
「「「「「おー!」」」」」
俺たちの円陣の声と共に、開始の合図が鳴り響いた。
ー『深紅の魔術師』sideー
「クッ! なんだこの魔物たちの量はっ!」
「数が多すぎて攻められない! あと、一体一体が強すぎるっ!」
試合開始のゴングが鳴ってから10分。
『永遠の彼方』が各々どう攻めるか考えている間に、『深紅の魔術師』たちはすでに開戦の灯火を挙げていた。
『深紅の魔術師』はクラン全員で二十人いるため、攻め10、防衛10でとてもバランスの良い戦い方をしているのだが、攻めに向かっているクランメンバーたちは、蒼たちの陣地に入った瞬間、壮絶な戦いを余儀なくされていた。
倒しても倒してもやってくる相手の魔獣たち。
一体一体が、彼ら『深紅の魔術師』のクランメンバーには少し荷が重く、さらに魔獣や魔物、ときには精霊や妖精などが道を塞いでくるため、対処が難しく、完全に攻めあぐねていた。
『深紅の魔術師』たちはなぜか敵陣地に攻めているはずなのに、守りの戦いを強いられることとなった。
『深紅の魔術師』たちも、蒼たち相手に油断をしていたわけではない。
どの学年でも、十傑というのは特別な意味を持つ。
知力、技力、権力、その他様々な力が他の一般の生徒とはかけ離れていることを、『深紅の魔術師』たちは知っている。
侮っていたわけではない。
しかし、十傑と言っても一年生のこの時期である。
一年生たちはまだ獅子王学園の本当の怖さを知らない。
しかも、クラン戦に関しては今日公表されたばかりだ。
蒼たちに作戦など考える暇もなかっただろうし、現に先程の30分しかその時間はなかった。
そんな蒼たちに、『深紅の魔術師』たちは圧勝できるとは思わないでも、いい勝負はできると思っていた。
蒼たちを倒すための作戦も立てた。
それでも……それでも、蒼たちは異次元すぎた。
「どうしたらこれだけの数の魔獣を使役できるんだよっ!」
「口を動かす前に、手を動かして! 私たちが城に辿り着かないと、どのみち勝ち目はないわ」
『深紅の魔術師』たちの間で、苛立ちが蔓延し始めた。
どう見ても、最悪の状況。
クランメンバーの一人は、もう諦めて一度自陣に戻ろうとさえ考え始めた。
その時……
「どいて……私がやる」
「加持先輩!」
「みんなは少し下がってて、城の防衛はクー君に任せてきたから、こっちは私が片付ける」
加持紅羽はそう言って、クランメンバーの前に出て、周囲にいた魔獣たちを一掃した。
加持紅羽。『深紅の魔術師』の5人の三年生のうちの一人で、Aクラスの中でも上位の実力の持ち主である。
この『深紅の魔術師』では上から二番目の実力の持ち主で、広範囲の殲滅魔法を得意とする生粋の魔法師だ。
「うん。もっと本気でやったほうが良さそうだね。『紅蓮岩』」
紅羽が魔法を唱えると、先程とは比べ物にならないほどの高火力の隕石が上空の魔法陣から降り注いだ。
紅羽の得意魔法『紅蓮岩』は、超級魔法に分類され、広範囲に高熱の隕石を降らせる魔法である。
練度が高いと、着弾と同時に爆発するのだが、紅羽は見事に『紅蓮岩』を習得しているおかげで、しっかり爆発し広範囲に被害を与えることに成功している。
「す、すご」
「えっへん。まぁこんなもんでしょ」
後輩たちに、尊敬の眼差しで見られ、紅羽は腰に手をやりドヤ顔を浮かべる。
紅羽のおかげで、進行方向にいた敵はほとんど倒されているため、かなり敵の城まで向かいやすくなった。
「さぁ、このまま城に向かお……」
紅羽がクランメンバーを連れて、蒼たちの城まで向かおうとした瞬間、前方から人の気配を感じ取った。
「さすが三年生って感じだね。まだ俺たちのクラスじゃあれは無理だね」
「ん〜でも時間の問題かもよ? 柊木先生の実践訓練めっちゃ厳しいし」
「確かに。あ、こんにちは。『永遠の彼方』の北小路宗一郎です」
「同じく『永遠の彼方』の水無瀬朱音。よろしく〜」
緊張のきの字もないほど、いつも通りの宗一郎と朱音を見て、紅羽は悟ってしまった。
この二人はまずい……と。
「……流石に貧乏くじを引いた。B班は一旦後退。別のルートで向かって」
「「「「了解!」」」」
紅羽の言葉に、クランメンバーの一部が返事をして、即座に後退していった。
一方、宗一郎たちはそれを見ても特に攻撃をする様子はなかった。
「……舐められてる?」
「さぁ? あなたならどういう意味かわかるはずだけど?」
「生意気な後輩。全力で行く」
「そうして。じゃないとやりがいないし」
朱音の言葉を最後に、森林エリアのとある場所では激しい戦いが始まっていった。
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