第66話 『永遠の彼方』の無双劇2
「これから、『永遠の彼方』と『深紅の魔術師』によるクラン対決を始める!」
審判の宣言により、場はさらに盛り上がっていく。
このままでは収拾がつかなくなる。と思っていたのだが、さすがは獅子王学園の生徒たち。空気を読んでしばらくすると静かになっていった。
「戦闘形式は攻城戦。先に相手の城の中にあるコアを破壊した方の勝ちとする。戦闘エリアは『密林』。武器の持ち込み可であり、その他の制限なしとする。これに双方合意であれば握手を」
審判の言葉に続くように俺と相手のリーダーは握手をした。
これで、ルールの合意はなった。
握手する際、相手のリーダーはわざと力を強めてきたけど、全く痛くなかった。あえてやり返すようなことはしなかったけど、その代わり少しだけ威圧をしておいた。
この段階での戦闘はご法度ではあるが、俺も相手も挑発に留められる範囲なので、咎められることはないだろう。
「それでは、両者ともに異空間で準備をするように。30分後に開始とする!」
審判の言葉を聞いて、先に動いたのは『深紅の魔術師』たちだ。
森林エリアだけでなく、攻城戦のエリアは全て左右対称となっているため、場所の有利不利はないが、俺たちはこれから何をすればいいかよくわかっていない。
「蒼、とりあえずゲートを通ろう。昼休みのうちにある程度ルールは確認してあるから、任せてよ」
俺が審判に詳しい話を聞こうとするが、その前に湊が声をかけてきた。
「助かるよ湊。危うく始まる前から恥を晒すところだった」
「今回のリーダーは蒼だからね。俺たちのリーダーを恥晒しする気はないよ」
「いつも死ぬほど恥ずかしいことしてるけどね。よし、じゃあ港を信じて俺たちも行こうか!」
「「「「おー!」」」」
ということで、俺たちもゲートを通り、異空間の中へと入っていったのだが、そこは絶景の一言では表せないくらい幻想的な場所だった。
今時、こんなに緑溢れる場所はそうそうお目にかかることはできないだろう。
しかも、そんな中で自分たちの真後ろと、その直線上には2つの大きく荘厳な城がそびえ立っている。
作りもしっかりしている、王道の城のようだ。
「でっかいねー」
「高さだけでの100メートル以上あるみたいだよ。その最上階にコアを置くんだって」
「コア?」
「とりあえず、見た方が早いかも。どの間に、この30分ですることを説明していくよ」
湊は俺たちを率いて、城の中へと入っていく。
中は殺風景とまではいかないが、必要最低限の装飾しかされていない。
しかし、天井吹き抜けで、中央の階段で最上階まで向かうことができることもあり、迫力は尋常ではない。
ここまで作り込まれているのかと、俺も宗一郎たちも唖然としている。
唯一、事前情報を持っていた湊だけが平然としていた。ほんと、頼もしい限りである。
「攻城戦だと、どうしても人数が少ないと不利になることもあるから、自分の陣地にはたくさんの罠とかも仕掛けることができるらしい」
「へぇ〜。具体的にはどうするの?」
透が興味津々と言った様子で聞いてくれた。
俺たちも、湊の言葉を聞き逃さないように静かに続きの説明を待った。
「なんでもできるみたいだよ。地雷型魔法陣を設置するもよし、魔獣を使役して森に放つもよし、あとは城の中にも色々加えてもよしって感じだね」
「……それ、30分で足りる?」
まぁ、足りないだろう。
どれだけ洗練された動きをしても、このエリアは広すぎて絶対に時間が足りない。
「無理だね。だから、みんなコアにインプットさせておくんだって。あとは魔力を入れ込めば自動で準備をしてくれるらしい。きっと、相手はもう10分もしないうちに準備完了すると思うよ」
湊がそう言い終えると同時に、最上階についた。
そこには、人一人分の高さはあるクリスタルが設置されていた。
なるほどね。
相手のこのクリスタルを壊せば勝ちになるのか。
となると、俺たちは今だいぶ不利な状況に立たされているわけだ。
このままいくとほとんど罠を設置できないし、対して相手はガッツリ対策して城で待ち構えるなり、攻めてくるなりをするのだろう。
ちなみに、このクリスタルだが強度がえぐいらしく、少し叩いたからといって壊れるような柔いものではないようだ。
「で、どうする? 僕としてはすぐにでも作戦を練ったほうがいいと思うんだけど」
「そうだね。蒼、どうする?」
「……なぁ湊。魔獣の使役はルール上セーフなんだよね?」
「うん。大丈夫だよ」
「じゃあ、例えばスケルトンとかの召喚した魔物でも大丈夫だったり……」
「するよ。過去、何回かその作戦が使われた攻城戦があったみたいだよ。まぁ、魔力が足りなくてロクに使えない作戦だったみたいだけど」
よし、作戦は決まりだな。
魔力なら、俺たち全員有り余ってると言っても過言ではないからね。
今から一つ一つ罠を設置する時間なんてないだろうし、それなら城のなかで魔物やら魔獣やら、たくさんの生き物を召喚して、各自防衛ラインを張って貰えばいい。
野生の魔物は人間を見ると無差別に攻撃をしてくるけど、召喚した魔物や魔獣はあくまでの使役をしているだけの幻影に過ぎないので、危険もないし、使い勝手がいい。
「確かに、それなら時間も足りるかもね。どのくらいの数を用意する?」
「せっかくだし派手に行こう。みんな魔力が枯渇する寸前まで頼む」
「いいの? そんなことしたら私たちが戦えないじゃん」
至極当たり前のツッコミをしてくる琴葉に、俺はドヤ顔をして異空間から一つの果実を取り出した。
「ふっふっふ〜。これを見よ!」
「ッ⁉︎ 蒼、それって……」
「ん? なんなのこれ?」
湊はなんとなく想像がついているみたいだけど、朱音達は知らないみたいで首を傾げている。
まぁ金色の果実を取り出したから、朱音達も薄々予想はしてそうだけど、俺はそんな朱音達にドヤ顔で叫んだ。
「何を隠そう世界樹の果実だ。幻界にしか生えてない果実だけど、アーニャがたくさんくれたから余ってたんだよね!」
「「「「「はぁ……」」」」」
みんな俺を見て呆れたようにため息をついた。
もっと「すごい!」とか「流石蒼だね!」って褒められると思ってたのに、思ってた反応と違う……
あれ? もしかして、これまずいやつ?
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