第61話 決闘システムとクラン3
決闘システムの公表がされたその昼休みには、一年生だけでなく上級生たちもざわざわと一年生の校舎に群がっていた。
理由は明白で、上級生たちも少しでもいい生徒を自分のクランに加入させたいからである。
流石に、上級生の十傑は姿を現すことはなかったが、それ以外の有名クランはほとんど一年生の校舎に足を運んでいた。
もちろんそれ以外の上級生も、改めて下見とばかりに校舎へと入っていき、現在一年生の校舎やその周辺はまさに混沌を極めていた。
特に十傑やAクラスの生徒は多くの生徒の格好の的である。
もし、姿を見かけられでもしたらすぐに囲まれることは火を見るよりも明らかなのだが、その常識を崩すものが2名いた。
「あ、あれって一条と北小路だよな」
「多分……めっちゃかっこいい」
一年生の校舎を堂々と歩くのは一年生のトップに君臨している2人である。
こんなチャンスは早々ないとわかっている上級生たちは、蒼たちの元へ向かおうと足を動かそうとしたが……何故だか動かなかった。
いや、「正確には動かせなかった」の方が正しいのかもしれない。
「蒼、あんまり周りうろちょろしないでね」
「わかってるよ。ただ久しぶりにかっこいい自分に浸っているだけだっ!」
「そういうところがあるから朱音たちに呆れられるんだよなぁ……」
何気ない会話をしながら、歩いている2人ではあるが、雰囲気はまさに王や神といった選ばれしものが纏うものだった。
軽い気持ちで2人に近づこうとしても、足が震えるだけで無様な姿を晒してしまうだけだった。
圧倒的な、生物としての格の違い。
それを2人から感じさせられて、一年生はもとより上級生たちですら及び腰になってしまっている。
「毎回思うんだけど、蒼の魔力も不思議な匂いがするよね」
「絶対にお前には言われたくないけどな。神聖の魔力って、歴代でも何人いたんだよって話だ」
「あんまり人前では出したくないんだけどね。まぁ、仕方ない」
魔力にも特性があり、例えば火属性の魔法を使いやすくなったり、水属性の魔法が使いやすくなったりとあるのだが、それでも普通の範囲内である。
その中で、北小路宗一郎が持つ魔力は非常に希少性の高いもので、先程蒼が言った通り神聖の魔力を持っていた。
この神聖の魔力を持っていたとされている人間は、この世界では歴代で見ても両手で数えるほどしかいない。
普段は、今現在のような混乱が起こるのが目に見えてわかっていたので封じていた宗一郎ではあるが、今日は特別な事情というわけで仕方なく制限を解いてあえて魔力を全面に出している。
神聖の魔力は魔法の効率を上げるだけでなく、ただそれだけで相手を圧倒できるため、戦争などでは非常に有用なものである。
それだけでなく、アウラにも非常に好かれやすいのだ。
なので、宗一郎は非常に妖精や聖霊に好かれるし、アーサーとも一発で契約することができたのだ。
蒼が言う「主人公オーラ」と言うのは、ただの比喩ではなかったのである。
「きっと、柊木先生たちもびっくりするだろうね。異質の魔力ってそれだけで脅威だし」
「確かにね。俺もそうだけど、蒼もかなり問い詰められると思うよ。俺のは特定できてるけど、蒼の魔力の特性に関してはそもそもの文献がないし、多分検証もできないでしょ」
「まぁ、俺ですらきちんとわかっていないものをその辺の研究者がわかるはずないもんな。ティアたちがわからないっていった時には冗談かと思ったよ」
宗一郎ばかりが注目されがちな魔力特性ではあるが、一応蒼も普通とは異なる魔力の性質をしている。
しかしながら、こちらは神聖特性ではないようで、原初の神であるティアですらわからないもののようだ。
そんなものを、普通の人間である蒼がどうこうできるはずもなく、結局はこうして威圧をする程度にしか使うことはできなかった。
「そういえば、蒼はクランを作るの?」
「うーん……俺と言うよりお前に作って欲しいんだけどな。一応俺たち8人でクラン作ったら面白そうじゃない? クラン戦とかも楽しそうだし」
「確かに。でも俺のところはお金がなぁ……みんなと違って実家がそこまでお金持ちじゃないから、難しいかも」
北小路家は、確かに名門と言われているが、朱音たちに比べるとそこまで豪遊できるほどの資産を持っているわけではない。
まぁ、一般家庭以上の資産を持っているのは確かではあるが、それでも茜たちに比べると足元にも及ばないのである。
最近は、宗一郎のおかげでどんどんと成長している北小路家ではあるが、まだポンと10億もお金を出せるほどではなかった。
「となると、俺が作るしかないよなぁ」
蒼の家は今もなお日本のトップクラスの名家であり、祖父や蒼の妹が頑張っているため資金は豊富である。
妹の方も義妹ながらに、両親が亡くなってからは率先して兄である蒼の代わりに社交界で実績をあげている。
兄である蒼からすれば、妹にも頭が上がらないのだが、一応は資金10億円ほどであれば用意は可能だ。
「頼んだ。そのうちお金は返すよ」
「別にいらないって。10億くらい普通に稼げるし。多分、俺のオリジナル魔法を数個ばら撒けば稼げるよ」
「それは悪いよ。オリジナルって普通貴重なもんだよ?」
「威力が弱くてバレても全然問題ないのがたくさんあるからいいさ」
蒼はそのまま鼻歌を歌いながら、周囲の生徒を圧倒していく。
その姿に、宗一郎は苦笑しているが、こちらもこちらで周囲に対して魔力を放っていく。
「さて、早く買いに行かないと、朱音たちに怒られるからさっさといくか」
「だね。何食べようかな……」
「俺は焼きそばパン一択!」
「蒼、好きだよね〜。俺はメロンパンだな。あと、クリームパン」
「また可愛いものを……」
宗一郎は意外にも甘い食べ物が好きなのだが、学食ではあまり甘いものがないため、今日は心なしか機嫌がいい。
ちなみに、宗一郎は休み時間や実技の時間の休憩によく菓子パンを食べて幸せそうにしているので、Aクラス内では割と宗一郎の甘党は有名である。
食べている時の幸せな顔は普段のかっこいい顔とのギャップで女子に大人気である。
2人はそんな雑談をしつつ、学内に併設されているコンビニで大量にパンとおにぎりを買い込んで、屋上へと転移していった。
ちなみに、総額1万円を超えている。
お菓子や飲み物も買ったらそのくらいになったのだが、いくらなんでも買いすぎである。
「うへぇ……重い」
「蒼が調子に乗って買いすぎるからだよ……」
2人の見た目が先程のイケメンから両手にスーパーの袋を持った主婦になってしまい、一気に残念度が増した。
幸い、誰にも見られることなく転移魔法を使ったので、2人の尊厳は守られたけど、転移先の朱音たちには結構白い目で見られた。
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