第56話 混合戦1
「ねぇ、少しいいかしら?」
「僕ですか?」
俺が体を動かしていると、ウリエルが声をかけてきた。
何か気になることがあるようで、ウリエル他の人に話の内容が聞こえないように防音魔法までかけていた。
「あなた、ミカエルのこと知ってる?」
「……どうしてそう思ったんですか?」
「なんとなく、あなたからミカエルの匂いを感じたからよ。さっきの体の動かし方とか、技とかを見ているとどことなくミカエルを思い出してね」
「なるほど……」
「あぁ大丈夫。もし、ミカエルとの関係がどうであれ、萌には何も言わないわ。あと、敬語も取っていいわよ。話しにくそうだし」
「それなら助かるよ。確かに、ミカエルと契約を結んでいる。今彼女は俺の部屋で生活しているんだ」
「やっぱり、彼女とはもう100年以上会っていないから、どこで何をしているのかさっぱりだったんだけど、それを聞けてよかったわ」
ウリエルは嬉しそうな笑みを浮かべてそう言った。
お互い大天使ということもあって、ウリエルはミカエルのことを気にしてくれていたらしい。
ミカエルは自分のことは何も話してくれないから、こうして他の大天使から彼女の話を聞けるのは何気に貴重な機会かもしれないね。
「一応内緒にしといてね。俺の立場的にもミカエルと契約してるのがバレたらめんどくさいんだ」
「わかったわ。彼女と戦えないのは残念だけど、そのうち戦う機会もありそうだしね」
ウリエルはそれ以上何もいうことなく、倉木先輩の方に戻っていった。
倉木先輩が何か聞いている感じだったけど、約束通りうまく誤魔化してくれていたので、助かった。
今度機会があればミカエルを連れてウリエルの元まで挨拶に行くのもいいかもしれない。
さっきの話ぶりだともう何年も天界に戻ってないみたいだしね。
「萌、そっちの準備はもう済んだのか?」
「えぇ、私たちはもういけるわよ。そっちは?」
「問題ない。では、改めてルールを確認する。3体3の混合戦で、アウラ、贈り物は使用可能。魔法や魔術、その他諸々全て使ってよし。三人全員が戦闘不能になった時点で相手チームの勝利とする。ここは他の訓練場よりも強力な結界装置が設置されているため、全力で戦っても外に影響は出ないため安心して戦ってほしい」
加藤先輩の言葉に俺たち全員が頷くと、それぞれが戦闘配置についた。
秘境の地の訓練場は特別仕様のようで、障害物や建物まで用意できるようで、より実戦に近い戦闘ができるようになっていた。
しかも、厄災級の攻撃すら外に影響を及ぼさない強力な結界装置まで用意されている。
……一体いくらお金が注ぎ込まれているんだろうね?
ただいくら結界が強固だと言っても、何発もアウラの攻撃を防げる代物ではないらしいので、両者ともにある程度の自重はするようにと注意された。
まぁ、多分ここでは加藤先輩と倉木先輩が自重をすれば何も問題ないと思うので、その辺りの心配は必要ないだろう。
姫宮さんのアウラはすでに前の試験で見ているし、村井先輩は心配するまでもない。
「それでは、この魔法が発動した瞬間から始めようか。3分後に発動するから、それまでに萌も戦闘配置についてくれ」
「了解。一条くん、長谷部さん。行こう」
「はい!」
「了解っす」
俺は倉木先輩の指示に従うように後をついていく。
今回の戦いの司令塔は倉木先輩なので、俺はそれに従うだけで済むためかなり楽だ。
倉木先輩も流石に一年生にそこまで無茶はさせないと思うし、この混合戦思っている以上に楽に終わる……
「一条くんは姫宮さんと村井くんの相手をお願いね?」
「……え?」
「長谷部さんは後方から私たちの支援。そして私は伊織の相手をしなきゃだし、頼りにしてるわよ」
「一条くん。頑張ってください!」
「ちょっと荷が重いなぁ……なんて……」
「じゃあ伊織の相手でもやってみる?」
「姫宮さんと村井先輩を担当しますね。いやー頑張らなきゃ」
「……それが普通のリアクションなのはわかるけど、男の子なんだから『加藤先輩を倒して見せます!』くらいの気概を見せてもバチは当たらないわよ?」
倉木先輩は若干呆れてるけど、冗談じゃない。
少なくともウリエル以上のアウラと契約している相手にリンと俺だけで相手をしろなんて罰ゲームにも程がある。
それに、俺の仕事はあくまでも耐えることだ。
倒すのは俺じゃなくて倉木先輩が……
「あぁ、やっぱり僕が加藤先輩の相手をしますよ」
「ふふっ、ごめんね。無理しなくていいわよ。流石に一条くんでは伊織の相手は厳しいでしょ?」
「確かに倒せって言われるとしんどいですけど、長谷部先輩もいるので耐えるだけならなんとかなりますよ。なので、その間に倉木先輩が2人を倒して、僕を助けにきてください」
そう、初めから倒すのが目的でないのであれば2人を相手にするよりも、加藤先輩一人と戦っている方がマシである。
一対一なら格上と何度も戦っているおかげで慣れているしね。
変に姫宮さん達を倒すよりも、加藤先輩との勝負で逃げ回っている方が注目されなさそうだ。
「確かに、それができたら理想だけど、大丈夫なの?」
「任せてくださいよ。なので、できれば早めに助けに来てくださいね」
「ふふっ、いいわ。任せなさい」
「一条くん、意外と根性あるんですね!」
ふっ、普段宗一郎という悪魔から逃げ回っている俺からすれば加藤先輩から逃げるのなんて造作もないことである。
あの手この手を使ってリンと一緒に逃げ回ってやる。
多分自慢げに話すことではないと思うけど、とりあえず時間を稼げれば俺の勝ちである。
武器、魔法なんでも使用可能なのであれば俺にも勝機はあるはずだ。
「なら、頼むわね。絶対に油断しちゃダメよ? 彼、戦い始めると人が変わるから」
「わかりました。倉木先輩も頑張ってくださいね」
「えぇ、じゃあ。いきましょうか」
その後すぐに戦闘開始の魔法が発動し、俺たちの混合戦が始まるのであった。
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