第57話 混合戦2
試合の開始の合図があってから早3分。
俺は真っ先に加藤先輩を見つけると、自分からそちらに向かいヘイトを稼ぐことに成功した。
加藤先輩も、倉木先輩を相手にすることを想定していたようで、まさかの俺が出てきて意外そうな顔をしていた。
ここで俺がいかに時間を稼げるかが勝負の鍵となっている。
やっぱり、親睦会とはいえあの2人とチームになれたんだから勝ちたい。
「……驚いた。まさか君が俺の前に出てくるとは思わなかった」
「後方で長谷部先輩が支援してくれるらしいですからね。何とか倉木先輩がやってくるまでの時間を稼いでみせますよ」
「確かに、作戦としては悪くない。が、よく萌が許したな」
まぁ、この作戦はそもそも俺が加藤先輩相手に時間を稼げなければ成り立たないものだ。
今の加藤先輩には俺が時間を稼げるとは思っていないらしい。
直接そう言っては来なかったけど、言外に愚策だと言っているのは俺にも理解できる。
「悪いことは言わないからさっさと萌と代わった方がいい。いくら、長谷部が後ろで支援をしてくれると言っても、俺の攻撃をまともに食らえば死ぬかもしれない」
「せっかくなんで少しは遊んでくださいよ。先輩なら手加減できますよね?」
「……挑発する元気があるのは褒めてやろう。わかった。少しだけお前の手のひらの上で踊ってやる」
「ありがとうございます。せいぜい楽しみましょう」
俺がそう言った瞬間、加藤先輩から尋常じゃないほどのプレッシャーを感じる。
確かに、加藤先輩なら軍に行っても確実に出世できると思う。日本の未来は安泰だなーと呑気なことを考えていると、早速加藤先輩が攻撃を仕掛けてきた。
手には槍を持ってこちらにやってくる加藤先輩はまるで鬼のような威圧感があるが、その程度であれば普段朱音たちから嫌というほど感じているので全く怖くない。
俺は何も武器を持たずに加藤先輩の突きをかわすと、逆に槍の上に乗って加藤先輩の顔に向かって蹴りを放った。
「ほう……チャラチャラした格好とは裏腹に、面白い戦い方をするんだな」
「僕の役割は『道化師』です。せっかく戦うんです。ぜひ加藤先輩には楽しんでもらおうと思いましてね。リン、遊撃を頼むよ」
「任せてください! 私の裁量でいいんですよね?」
「うん。信用しているよ」
「はい!」
リンはそういうと、自身に透明化の魔法をかけて気配を消した。
「早速アウラも出してくるか。一条と言ったな? 君は俺にどこまで望む?」
「できればそのまま手を抜いたままでいてほしいですね。俺はあくまでの倉木先輩が来るまでの時間稼ぎですから」
「萌では俺には勝てない。君がなんとかしないと君のチームに勝機はないぞ」
加藤先輩と言葉を交わしながらも、お互い攻撃の手が止まることはない。
終始、槍での戦いを仕掛けてきている加藤先輩は、まだまだ余裕そうだ。特に型を使った攻撃をしてこないあたり、まだ俺の実力を見ていると言ったところだろうか。
俺は俺でまだ武器という武器を使っていないので、激しさには乏しいかもしれないが、俺と加藤先輩の間には見かけ以上の読み合い合戦が行われている。
「ここだ」
「残念、それは残像です。クナイをプレゼントしましょう」
「っ! 厄介極まりないな」
「背中が空いてますよー!」
「チッ! 流石に二体一じゃ部が悪いか……」
俺とリンのコンビネーションに、攻撃こそ受けていないが、先ほどから何度か危ない場面が出てきている。
加藤先輩はアウラや贈り物を使っていないのは間違いないが、それでも結構やれている方だと思う。
加藤先輩もそれをわかっているからか、少しだけ悔しそうに顔を歪ませると、一度下がって俺たちから距離をとった。
「認めよう。君は強い。これからは、アウラを交えた戦いをしようか」
「「っ!」」
その瞬間、空気が変わった。
倉木先輩からウリエルが出てきた時も感じたけど、今はそれ以上の力……それも邪悪な力を感じる。
「堕天使ルシファー……厄災級クラスか……」
堕天使ルシファーには正式な階級が設定されていない。
こう言ったアウラは結構いるんだけど、その中でも代表格なのが堕天使ルシファーだ。
秩序を嫌い、破壊を好むルシファーは間違いなく厄災級の中でも上位に値するアウラだ。
流石にミカエルやリオンが負けることはないと思うけど、それ以外のアウラだと絶対に勝てるとは言えないと思う。
つまり、リンでは完全に役不足だ。
このまま普通に戦えば一瞬で負けるのが目に見えている。
「さて、どうしたものか……」
「ご主人様、どうしてもあいつに勝ちたいですか?」
「リン? 急にどうしたんだ?」
「いえ、ご主人様がリンにどこまでの力を望むのか、聞いているんです」
「そうだな……流石にアレに勝つと色々まずいから、さっきみたいに上手くかわせる程度には力が欲しいかな」
まぁ、現実的に考えて無理なんだけどね。
どう考えても、第四級のアウラが立ち向かっていい相手ではない。
むしろ、これだけ殺気を浴びておいてまだ闘志があるリンのことを褒めてあげたいくらいだ。
と、俺が考えていると急にリンが俺の近くまでやってきた。
今までのほわほわした雰囲気ではなく、少し真面目なリンにびっくりしたけど、この後もっと驚かされることとなる。
「仕方ないので、封印を第一段階開けてあげます。それできっと、ご主人様のご要望に応えられるはずです!」
「封印ってどういう……リン⁉︎」
俺が最後まで言葉を発する前に、リンの周りに虹色の魔法陣が出現し、一瞬にして今までの妖精から一人の少女へと姿が変わった。
身長150センチくらいだろうか。
ちょうど長谷部先輩と同じくらいの身長だが、その姿は全く異なるもので、忍者のような格好をしている。
今までの妖精の姿はどこにいったと思わず突っ込みそうになったけど、その前にリンが応えてくれる。
「これはご主人様の戦闘データから擬似的に再現しているものにすぎません。忍術が一番使い勝手が良さそうだったので、再現してみました」
「……なるほど? えっと、リンの本当の姿っていうのは……」
「それはまだ内緒です。それより、あの堕天使をなんとかするんですよね?」
「そうだね。これならなんとかなるかも。ありがとう」
雰囲気がガラッと変わったリンに少し戸惑ったけど、これなら相手の攻撃を捌くだけならなんとかなりそうだ。
最悪、後方には長谷部先輩もいるから多少の傷なら直してくれるだろうしね。
「それじゃあ、第二ラウンドと行こうか」
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