第55話 十傑会議4

 十傑の全員が、性格が良くて後輩に優しいとはもちろん思っていない。

 でも、倉木先輩や長谷部先輩を筆頭に今まで関わってきた人たちはみんな優しかったから、もしかしたらと思っていた。


「お前、俺の引き立て役よろしくな」


 俺が更衣室で着替えていると、急にそんな声をかけられた。

 その人は、確か村井先輩だっただろうか?

 2年生の十傑第十席の人で、加藤先輩と同じチームの人だ。


 つまり、俺と戦う人の一人だ。


 そんな人から声をかけられた内容が「引き立て役によろしくな」である。初っ端から嫌な予感しかしない。


「えーっと、引き立て役というのは?」


「お前が俺にやられてくれれば、加藤さんからの評価が上がるだろ? そうじゃなくても、お前と同じ学年の姫宮ちゃんにアピールできるってわけだ」


 村井先輩は自信満々にそう言い切った。

 まるで、俺に断られるなんて一ミリも思っていないようだったけど、なんで男相手に忖度をしなくちゃいけないんだ。

 女の先輩に言われたら少し考えるけど、十傑にいる以外取り柄のないようなやつの言うことを聞いたところで俺にメリットなんて何もない。


「まさか先輩俺相手に負けると思ってます?」


「……そんなわけないだろ。一応釘を刺そうと思って声をかけただけだ」


「じゃあせっかくなんで全力でやりましょうよ。期待してるっす!」


「お、おい! ちょっと待て……」


 俺は村井先輩に止められる前に、急いで外に出る。

 あぁいうのは無理に付き合うとめんどくさいのは分かりきっているので、適当に挑発して逃げるに限る。


 村井先輩もまさか後輩に「勝てないかもしれないので手加減してください」とは口が裂けても言えないだろうし、作戦は成功である。


 チーム戦になっても、倉木先輩に任せておけばなんとかなるはずだ。

 俺は端っこの方で目立たないようにチクチク攻撃しておけば、そこまで目をつけられずに楽できると思う。


「あら、早かったのね」


「更衣室の居心地があんまり良くなかったんで、早めに出てきました」


「……村井くんね」


「正解です」


「はぁ……彼ももう少し落ち着けば人気が出たんでしょうけど、あの性格だから敵が多いのよ」


 倉木先輩は頭を押さえながらそう言った。

 今期の十傑はなかなか問題児が多いようで、倉木先輩も苦労しているらしい。


 倉木先輩曰く、「長谷部さんとチームになれたのは幸運だったわね」だそうだ。

 他の2年生は十傑2位と3位を除いて問題児だらけらしい。

 となると俺は3年生に倉木先輩、2年生に長谷部先輩と当たれてかなりラッキーだったと言うことだ。


 やっぱり神様にはありがとうと言っておこう。


 そんなくだらないことをしているうちに、俺たちのチームは全員揃ったので、早速お互いのアウラと贈り物の説明をすることになった。

 ただ言いたくない場合は秘密にしていてもいいらしい。

 そもそも、俺たちにはアウラや贈り物、その他の能力については黙秘する権利があるため、この場で言わなくても怒られるようなことはないようだ。


「厄災級のアウラと契約していたり、贈り物だって切り札になるものが多いでしょうしね。無理はしなくていいわよ」


「ありがとうございます。では……言える範囲で公開させていただきますね」


「うん。そうしてくれると助かるわ」


「俺のアウラは見ての通り、リンになります。階級は第一級です。贈り物は……ごめんなさい。内緒です」


 ここで適当に贈り物を公開してもいいのだが、そうすると他に何を隠しているのか? と詮索される可能性もあったため、念の為贈り物は秘密にしておいた。

 リンの階級も少し盛っているが、それを確認する術を今誰も持ち合わせていないため、問題ない。


 きっと、リンならそれくらいの仕事はしてくれるはずだしね。


「次は私ですね。私のアウラは見ての通り、ユニコーンです。贈り物もそれに関係したものです!」


「長谷部さんは味方の回復が主な仕事よ。いつも頼りにさせてもらってるわ」


 ユニコーンは第一級のアウラであり、そこにいるだけで常に周囲に回復の力をもたらす生物である。

 伝説の生き物というだけあって、かなり神々しいオーラを放っている。

 長谷部先輩にかなり懐いているようで、ずっとそばで甘えている。


「頼もしいですね」


「頑張って回復します! 腕の欠損くらいなら一瞬で元に戻せるので、目一杯戦ってきてください!」


「あ、ありがとうございます……」


 つくづく思うけど、長谷部先輩の能力が見かけ以上に強力そうだ。

 俺たちの中にも後衛を得意とする湊や佳奈がいるけど、二人とも回復に関して言えばそこまで得意じゃないため、かなり珍しい能力だと思う。


 さっきも思ったけど、長谷部先輩がいれば簡単にゾンビ部隊が出来上がりそうだ。

 どのくらい範囲が広いとか同時に回復できるかとかは知らないけど、戦争になった時にはあまり相手にしたくないかもしれない。


「最後に私ね。私のアウラは……彼女よ」


 倉木先輩はそういって、召喚魔法を唱えると、そこから一人の天使が出てきた。

 翼の数やオーラから見ても普通の天使ではない。

 少なくとも上級天使以上、もしかするとミカエルと同じ大天使クラスかもしれない。


「私の名前は大天使ウリエルよ。よろしくね」


「だ、大天使……」


 大天使ウリエルといえば、厄災級第72位のアウラだったはずだ。

 ミカエルの同僚であり、神の炎と象徴されている天使である。

 その異名に違わない真っ赤な髪は、それだけで周囲を魅惑するものになっており、改めてこの獅子王学園のレベルの高さに気付かされることとなった。


「そして私の贈り物は『炎炎回帰』というものよ。私が触れたものは全部火に変えることができるの」


「すごいですね……」


 倉木先輩が嘘をついている様子はないし、長谷部先輩のリアクションを見るに本当のことなんだろう。

 アウラもすごいけど、それに付随している贈り物もかなり強力そうだ。

 

「まぁある程度制限もあるんだけどね。第一にこの能力を使おうとすると大量の魔力を消費するし、あと相手が私の能力以上の結界を張ってしまえば全く意味のないものになってしまうのよね」


「それでもかなり強力だと思うんですけど……そもそも、そこまで詳しく教えていただいてもいいんですか?」


「一条くんは無闇矢鱈に広める人じゃないでしょ?」


「まぁ、それはそうですが……」


「なら問題ないわね」


 そういう問題なのだろうか?

 倉木先輩はニコッと笑うと、そのまま一人で体を動かしに行った。


 ……ちょっとかっこいいなと思ったのは心の中で留めておこう。


 かくいう俺もそろそろ準備をしないと、間に合わなさそうだったので、長谷部先輩と別れると軽く体を動かして、混合戦に備えることとなった。

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