第14話 アウラ召喚
軽い準備体操の後、俺と宗一郎は正座を強いられていたわけだがそれは3人の先生たちが訓練場へ来たことによって終えることができた。
いよいよ最初の実技ということと、それとは別のもう一つの理由で周囲の空気は張り詰め、訓練場では緊張が漂い始めた。
本来、こんな学園には絶対にいるはずのない人が当たり前のようにニコニコしながらこちらを見渡していた。
「全員集合。これから実技の時間になるわけだけど、ここでスペシャルゲストを用意しました」
「こんにちは。僕の名前は柊木叶っていうねん。みんなよろしゅうな」
「「「「「⁉︎」」」」」
柊木叶は現S級魔法師であり、日本の最前線を行く超有名人だ。
まだ二十代前半だというのにもかかわらず、確か厄災級のアウラと契約していて、軍の中でも非常に序列の高い人だったはずである。
そんな人がこの学園で指導するなど、誰も考えないだろうしまずあり得ていい話ではない。
こんなところで指導をする前に仕事をしろと突っ込みたくなる案件である。
ただ、この人が実技の指導役として名乗り出てくれるのであればこれ以上喜ばしいことはないだろう。
「なんやみんな硬いな。僕のことは柊木先生と呼んでくれてええからな」
「君たち1年生は非常に幸運だよ。柊木くんはAクラスとBクラスの担当をしてもらうんだけど、毎年なんだかんだ顔を出さないからね」
どうやら、実技の授業は毎年軍から人員を派遣されるらしく、柊木先生にもその依頼が来ていたみたいだが、毎年それを突っぱねてたみたいだ。
まぁ、普通に柊木先生くらいのレベルであればこんな学園に来て指導をするなんていう依頼は突っぱねて当然である。
それを責められるほど地位や実績が高い人間が果たして軍の中にどれほどの数いるだろうか。
「今年は興味のそそる生徒さんが多いからね。安心して欲しい。君たちがBクラス以上を維持できているのであれば、僕は責任を持って三年間君たちを指導させてもらうからね」
柊木先生はそういうと、「早速今日はアウラの召喚からやね」と言って一度実演してくれるみたいだった。
さすがS級魔法師なだけあって、魔法陣も魔道具を用いずに自分の魔力と技術だけで描き、召喚を成功させた。
いうのは簡単だけど、実践するには魔力に対する深い知識と繊細な調整が必要なため、俺たちを除いた生徒はみんな息を呑んで召喚の様子を見ていた。
「さすがS級魔法師。簡単にやってくれるね」
隣で宗一郎も面白そうに柊木先生の実演を見ていた。
一瞬柊木先生は俺たちを見て笑みを浮かべた気がしたが、それを確認する前に下級精霊を召喚して契約まで済ませていた。
その瞬間、生徒側からは歓声が上がり、生の召喚を見れてみんな興奮気味のようだった。
「まぁ、こんなもんやな。大事なのは親和性。あまり強く願いすぎてもダメやからね。精霊に対して、お友達になりましょうくらいのノリでいくと契約も結びやすいよ。ほな、各々別れて挑戦してみよか。僕たち3人が見回るから、何かあったら聞いてな」
柊木先生がそういうと、俺たちは一定の間隔を空けてアウラの召喚に挑戦ことになった。
と言っても、俺はすでにアウラとの契約は済ませてあるため契約までは行わず、精霊を呼び出すところまでである。
下級精霊くらいなら別に契約をしなくても手を貸してくれるため、今回は授業が終わるまで一緒に遊ぶために召喚をしてしまう。
俺たちも魔道具を使わず召喚できるので、7人ともパパッと各々の召喚を済ませて本日の課題はクリアとなった。
周りを見ると、十傑の他の3人も余裕の表情で召喚を済ませていたので、十傑は全員早々に合格となった。
「君たちが今年の十傑か。なるほど、あの学園長が面白がるわけやわ」
「初めまして。お会いできて光栄です」
「北小路宗一郎くんやね。初めまして。君たちにはもっと難易度の高い課題を用意しといたほうがよかったな」
「いえ。私たちはまだまだ若輩者。これからご指導の方よろしくお願い致します」
「そんなに硬くならんでええよ。君たち7人の話はよう聞いとるから。軍に入ってきたら多分最初は僕のところで面倒見ることになると思うけど、その時はよろしくな」
「「「「「⁉︎」」」」」
柊木先生の何気ない一言に、早速頑張って召喚してみようと意気込んでいた生徒たちがみんなすごい顔をしながらこちらの方を向いてきた。
柊木先生は今までずっと一人で戦ってきた魔法師で任務でもよく遊撃部隊を担当していた魔法師だ。
まずS級魔法師の下で働けるというだけでも光栄なことだが、それが柊木叶ということに一同驚愕しているようだった。
気持ちはわかるけどね。
だって、遠回しにお前たちはすでにエリートコース確定しているよと言っているようなものである。
まぁ、言われた俺たちは全くもって嬉しくないんだけどさ。
こんな見るからに道化っぽい雰囲気を醸し出している人について行ったら絶対に任務先で苦労するだろうしね。
それがわかっているからか、俺だけでなく宗一郎や朱音たちも微妙な顔をしていた。
柊木先生はそれに気づいているのか気づいていないのかはわからないが面白そうに笑いながら先ほど契約した精霊を肩に止めてにっこりとウインクして他の生徒の指導に向かっていった。
「まぁ、俺は軍に入るつもりはないからいっか」
「だねー。私も関係ないや」
柊木先生には悪いが、俺たちはこの学園を卒業した後に軍に入るつもりはないので、せっかくの申し出だけど辞退することになるだろう。
7人とも家を継いだりどこかに嫁ぐことになったりしないといけないため、軍に入って国のためにというのは不可能なのである。
現状、軍の総帥の息子である龍之介以外は縁のない話である。
まぁ、柊木先生もその辺りはわかっていて尚あの話を出してきたのだから、何か裏はあると思うが高校一年生の今の時期から考えても仕方のないことだ。
少なくとも三年間は平穏に過ごせるのだから、将来のことはその時にでも考えればいい。
「毎回思うけど、宗一郎は本当によく精霊に懐かれるよね」
「だよなー。俺、精霊にめっちゃ怖がられるし、宗一郎が羨ましいぜ」
「俺なんて未だに下級精霊は怖がられるんだけど……可愛いから戯れたいのに」
よくよく見ると、俺たちの召喚した精霊はみんな宗一郎の方によっていき、髪を引っ張ったり肩に乗ったりして遊んでいるようだった。
俺たちが契約を交わすと勝手に他の人に触れることはできなくなるのだが、今はみんな召喚しただけで契約をしていないため、自由に飛び回っていた。
それが全て宗一郎の方へといき、結果的に宗一郎の周りには10体の精霊が飛んでいる状態になっている。
俺なんて近づいただけでも逃げられるのに、宗一郎のやつはなにもしなくても向こうから勝手に来てくれるのだ。
正直言ってずるい。
俺だってあの小動物的な存在と戯れたい。
でも、俺が触れようとすると精霊が逃げるんだよな。
朱音たちが触れても全くそんな素振りを見せないくせに、俺にだけは絶対に近づきたくないようだ。
「北小路くんは精霊に好かれやすい体質だね。君は世界に愛されているようだ」
俺が嫉妬の視線を宗一郎に送っていると、隣で葛木先生が丁寧に解説してくれた。
ちょっと忘れかけてたけど、そういえばこいつ存在が主人公なんだった。そりゃ精霊からもモテモテですわ。
「一条くんは……逆になんでそこまで精霊に嫌われるのか、僕も気になるくらいだよ」
葛木先生にまで同情の目で見られてしまった。
俺、そんなにひどいですかね?
結局その後も、精霊たちはみんなのところに飛び回って遊んでいたのに、俺のところには一度も来てくれず、一時間まるまる寂しい思いをさせられるのであった。
本当に泣きそう……
ちなみに、この一時間ですでにAクラスの半分くらいは契約に成功したようで、葛木先生曰く「過去最高」だったらしい。
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