第13話 食後の運動

 昼食を食べ終えて俺たちはすぐに集合場所である第一訓練場へと足を運ぶことにした。

 今日はA、Bクラス合同で授業を行うようで、すでに見慣れない生徒がチラホラと準備運動をしていた。


 この訓練場は結構大きいので80人くらいであれば窮屈さを感じずに体を動かすことができそうだった。


「宗一郎、組み手しようぜ」


「いいよ。せっかくだし4人でしようよ。最後に立ってた人が勝ちね」


「僕を巻き込まないでくれるかな?」


「いいじゃん湊。せっかくだし軽く運動しとこうよ。魔法とか無しな」


 と、言うことで俺たちも準備運動の一環として組み手という名の模擬戦をすることにした。

 魔法やアウラの力を借りずに戦うので、純粋な身体能力でのみの戦いになるのだが、湊の戦闘スタイルが魔法攻撃ありきのものなのであまり乗り気ではなさそうだった。


 まぁ、無理やり参加させるんだけどね。


 食後のいい運動である。これで俺も健康人間だ。


 朱音たちは近くで見ているとのことで、俺たちは少し朱音たちから距離をとって早速始めることにした。

 

「いくぜ!」


「ほらよっと」


 やっぱり、龍之介が一番最初に動き出したのだが、それを宗一郎がうまく交わして逆にカウンターを叩き込んでいた。

 普通ならそれだけで膝くらいつきそう何だけど、龍之介は「痛った」と呟くだけで顔は笑っていた。


 素の力は龍之介が一番だけど、こういった戦闘になると宗一郎の方に軍配が上がる。

 

「油断してると僕が殺るよ。蒼」


「おー怖い怖い。っと、お前自分で言ってる以上に普通に動けるよな」


「君たち3人に比べたら全然だけどね。僕はやっぱり魔法を使わないと弱いよ」


「それ、他の人たちが聞いたら発狂するぞ?」


「事実だからね」


 俺と湊は軽口を交わしながら徐々に攻撃のスピードやキレを早めていく。

 最初から飛ばすと湊がやる気を無くすのは長年の経験からもわかっているので、こいつは段々と熱くさせてやるのが一番面白いんだ。


 実際、湊の頬は自然と上がっており、すでにさっきの嫌そうな空気が消し飛んでいた。

 今は純粋にどうやったら俺を倒せるかを考えているところだろう。

 全く、こいつら全員なんだかんだ言って戦闘狂なのである。


 チラッと隣を見ると、宗一郎が余裕そうに龍之介の攻撃をいなしているが、まだまだ決着が着くには長そうだった。


「よそ見なんて、随分余裕そうじゃん」


「実際余裕だからな。こんなもんか?」


「言ってくれるね!」


 湊はさらにもう一段階攻撃のスピードを上げ、俺のお腹に一発いい蹴りを入れてきやがった。

 油断してるとさっき食べたランチがお腹から出てきそうになるけど、俺はそれをグッと堪える。


 まじで痛いけど、楽しいのは否定しない。


 こうやって油断してるとすぐに一撃いい攻撃を入れてくるのが港の特徴だ。さっきまでの攻撃の緩急もこのための布石だったんだろう。

 力が龍之介だとするなら、知で戦うのが湊だ。

 どっちと戦っても面白くて笑みを浮かべちゃうね。


「チッ、今ので倒せると思ったのに。蒼の体も意外と頑丈だよね」


「あいつらには負けるけどな。よく食後にあそこまで動こうと思うよ」


 隣ではもう準備運動の域を超えた2人が獰猛な笑みを浮かべながら戦っているのが見えた。

 よくお腹のものが出てこないなーって2人でぼやいていると2人同時に顔にいいパンチが入った。


 流石にこれで終わりかと思った次の瞬間、ものすごい速さで宗一郎がまわし飛び蹴りを龍之介の顔にもう一発入れ込み、それによって龍之介が完全にお尻を地面についてしまった。

 

 よくあそこまで本気で戦えるよ……


 周りも自分たちの準備運動より宗一郎たちの方に注目してるし……


「あれだけやられてまだ龍之介元気ってやばいよな」


「体が頑丈の域を超えてるんだよね。さっきのもダメージが聞いたというよりも押し込まれて倒れちゃったって表現した方が適切だし」


 刃物も通さない頑丈な体を持っているっていうのは誇張でも何でもない事実だと、改めて実感させられる。

 魔法を使わなかったら多分俺や湊では全く太刀打ちすることができないと思う。


 味方である今は非常に頼もしい限りだが、敵にまわった瞬間脅威の塊以外の何者でもないだろう。

 龍之介は歩く重戦車と言っても過言ではないのだ。


「俺たちどうする? 俺、あの状態の宗一郎と戦いたくないんだけど」


「僕は降参。蒼、あとは頼んだよ」


「おい! ちょ、それはないだろ⁉︎ そ、宗一郎。俺も降参だ」


「蒼。今度はお前か……楽しませろよ!」


「やばい。あいつ興奮して俺の話聞いてくれない!」


 クッソ。ここは覚悟を決めて応戦するしか……


 なんて考えていると、横から助け舟がやってきた。


「宗一郎、落ち着きなさい。あんたのせいで周りが集中できないって」


「あいたっ⁉︎ 朱音、なんで止めるんだよ」


「もう十分体を動かせたでしょ。これ以上は周りの人に迷惑なの。まだ動き足りないっていうのであれば、私たちも好き勝手暴れるけど、それでも大丈夫?」


「あー……大変申し訳ございませんでした」


 さすが朱音さん!


 さっきまであんなに獰猛だった宗一郎が一瞬で借りてきた猫のように静かになった。

 まぁ、あれは俺でも萎縮しちゃうね。

 だって朱音たちの後ろから修羅が見えるもん。


 逆らえば俺たちがボコボコにされかねない。

 

 その後、何故か俺と宗一郎はその場で正座させられてしまった。


 俺までとばっちりを食らってたまったもんじゃないけど……うん。今何か発言しようものならその瞬間琴葉に燃やされかねないので黙っておこう。

 俺はバカな男ではないからな。

 なにが地雷かくらいは余裕で見極められるって話よ。


 ……朱音さん。そんな目で見ないでください。


 結局俺たちは先生がやってくるまでそのままずっとそのまま反省させられるのであった。


 周りの女子生徒からは俺たち2人が正座させられてるのが「可愛い」らしく、結局準備運動どころじゃなかったみたいだった。

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