第10話 好きな人?

「蒼、さっきあの先輩に何してたの?」


 俺たちはイタリアンのお店で各々好きなものを食べていると、先ほど起こった出来事についての話が出てきた。

 朱音たちがJクラスの子のフォローに入っている中で、俺は一人で先輩の方に向かっていたので気になったのだろう。


「いや? ちょっと話してただけだよ」


「俺見てたけどお前、お金渡してたでしょ。わざわざそこまでしなくてもいいのに」


 バレてた……


 実は朱音たちがフォローに入っているところを、Cクラスの先輩があまり面白くなさそうにしていたので、こっちでもケリをつけておいたのである。

 お金を渡すと聞くと印象はあまり良くないかもしれないが、俺たちからしたらお金はそこまで重要なものではない。

 こうしてお金で人を助けられるときはどんどん使っていかないとね。


 そこまで大した額でもなかったし。


 おかげで、先輩も嬉しそうな顔をしながら「これ以上彼にちょっかいをかけない」と言わせたのでこれでよかったのだ。


「でも、10万円は渡しすぎじゃない? 逆に舐められると思うんだけど」


「相手も十傑を相手にしたくないだろうし、逆にこれ以上俺たちに絡んでくるようだったら俺が潰しとくから安心してよ」


 俺がかっこよくそういうと、宗一郎がジト目で突っ込んできた。


「蒼の場合、女の子を紹介するからとか言われたらホイホイついていきそうだけどね」


「ま、任せてくれ。俺がそんな誘惑には……」


「ガッツリ負けそうね。ほんと最低」


「蒼、一回燃やしとこうか?」


「蒼くん。最低」


「3人の視線が冷たいっ!」


 いつものことだけど、本当にこの人たちひどい。


 いいじゃん俺だって高校生だよ? 彼女の一人くらい作ってもいいじゃん。


 今までは名家だからとか将来がとかでろくに普通の恋愛なんてできなかったんだし、せっかく家とか周囲の圧力がないんだからもっとみんなも楽しめばいいのに。

 宗一郎たちは変にその辺りが真面目なので、まだそう言うのには興味がないみたい。

 あの龍之介ですらそっちの気配はないんだから、本当にこのグループは大丈夫なのか俺は心配になってきたよ。


「でも、龍之介と湊は意外と早く彼女作れそうよね」


「あーわかる。2人はちゃっかり作ってそう」


「逆に蒼くんと宗一郎くんは彼女作るの困りそう」


「「こいつと一緒にするな」」


 ひどい。なんで俺が龍之介と湊に負けるんだ。


 ってか、宗一郎と一緒にするな。流石に勝てんわ。

 琴葉は含むような言い方で宗一郎に「宗一郎はちゃんと自分の気持ちを整理してからだねー」とか言ってるけど、俺の場合全然気持ちの整理なんてできてるんですけど?


 ……彼女ほしい。


「逆にお前ら3人はどうなんだよ。俺にとやかく言ってるけど、お前らに彼氏なんて絶対にできないからな」


 こんな危険な女の子たちをうまく捌ける男なんて世の中にいるんだろうか。

 俺がちょっとふざけるだけで燃やしたり凍らせたり、なんなら遠慮なく吹っ飛ばしてくるような女たちだ。


 ゴリ……なんでもありません。


「別に私たちはあんたと違って作ろうと思えば作れるって」


「ねー。蒼は作ろうとしても無理かもしれないけど、私たちって意外とモテるわよ?」


 俺にはわかる。

 確かに顔はめちゃくちゃいいし、確か3人とも家事はできるし、スポーツできるし、成績も優秀で……あれ、こいつらもしかして本気出せば彼女できるんじゃね?


「スペックのゴリ押しだ……世の中なんて理不尽なんだ」


「蒼くんも顔はかっこいいしスペックも高いんだから、もう少し宗一郎くん落ち着いたらいいんじゃない?」


「その前にまずお前は好きな子を作るところからだろ。気になってる子とかいないのか?」


「んー。難しい質問だな」


 龍之介がニヤニヤしながら聞いてくるけど……気になってる子か。

 何故かみんな食べる手を止めて俺の言葉に注目してくるけど、何この空気めっちゃ緊張するんだけど。


 湊と宗一郎は純粋に気になると言った感じだけど、女性陣の空気がすごい。俺の返答次第では殺されそうなんですけど?

 ここでドヤッと「エッチな子です」なんて言ってみろ。俺多分今日が命日になるぞ。

 仕方がないので真剣にタイプの子を考えてみるけど、多分理想が朱音たちのせいで上がりすぎてるから難しんだよな……


「強いて言うなら俺のこと全部知っても、それでも尚隣にいてくれる人かな。俺と付き合うと迷惑いっぱいかけちゃうさ」


 顔とか性格とか、家事がどうとか関係ないのかもしれない。

 俺の場合、ただ隣にいてくれるだけですっごいありがたいことなんだと思う。


 残念ながら今のところそんな子には会えてないけどね。


 っていうか、多分学生の軽い恋愛をしているうちは出会えないと思う。


 って待てよ。それじゃあ俺彼女できないじゃん。


「……なるほどね。あんた、意外と真面目じゃん」


「ね。誤魔化してくるかと思ったのに」


「てっきりエッチな子がいい!とか言うのかと思っちゃった」


 3人は納得したように頷きながらサラッと俺のことを貶してくる。

 

 だけど、これは俺に限った話じゃない。きっと、宗一郎たちも多かれ少なかれ自分の秘密を背負ってくれる相手じゃないとまず恋愛対象として見れないと思う。

 ちょっと真面目な話になったけど、結局俺たちは俺たちのペースで自分の好きな人を見つけていけばいいんだ。


「じゃあさ、蒼は私たち3人の中だったら誰を恋人に選ぶ? あ、みんなも教えてよ」


「俺は……朱音かな」


「僕は佳奈かなぁ」


「俺は琴葉で。一番マシって前置きがつくけどな」


 順に宗一郎、湊、龍之介の回答である。

 綺麗に3人とも別れたけど、なんとなくわかる。

 きっとみんな角が立たないように選んだな。宗一郎が2人に目くばせしてたし。


 さて、ここで問題なのが俺はどう答えればいいのか。である。


 ここで一人を選んでしまうと、確実に残りの2人が拗ねるのが目に見えている。かといって曖昧に誤魔化すと今度は3人から攻撃を喰らってしまう。


 ちなみに、宗一郎たちに目線でヘルプを要請してみると、3人揃ってニヤニヤしながらこっちを見ているだけで助けてくれそうにもない。

 俺たちの友情は今日でおしまいだよ!


 考えろ俺。この危機的状況を丸く収める最善の一手をっ!


「さ……」


「「「さ?」」」


「3人とも大好きっ!」


「「「死ね!」」」


「がはっ……」


「こいつ、本物のバカだ」


 龍之介に笑われてるけど、助けてくれなかったお前のせいだ。

 これが一番いい手だと思ったのに、まさかの最悪の結果となってしまった。


 でも実際、3人の中から一人を選ぶなんてできないよ。みんないい所があるし、きっと許されるなら全世界の男も同じ結論を出すと思う。


「まぁでも不可能ではないんじゃない? 今の日本、別に一夫多妻を認めてるし。あとは男側に甲斐性があるかどうかだよね」


「俺はきっと不器用だから、結婚するにしても一人の女だけだな」


「僕もそうなりそうだなー。奥さん同士で喧嘩されたらたまったもんじゃないしね」


「尻に敷かれる覚悟がないとまず無理だよね。その点、蒼は適任かもしれない」


 宗一郎の言葉にみんなは「あーわかるー」となんとも適当なことを言ってるけど、その前にまず助けて欲しい。


 朱音様、琴葉様、佳奈様、いい加減俺を踏むのはやめてくれませんかね? 

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