第7話 十傑の力
「相手、あれ絶対に俺たち殺す気だよね?」
「まさか刃物持ってる相手だなんてね。この学園もよくやるよ」
「これデモンストレーションじゃなくて本当に危ない相手じゃん。……なるほど、あえて警備を緩めてこの校舎に誘導したのか」
「獅子王学園に敵が多いのは本当みたいだな。まぁ、俺はスリリングで全然いいけどよ」
校舎の外に出てみると、刃物を持った男たちがざっと見て50人以上。普通に考えて、高校生が相手をしていいレベルじゃない。
こんなもの外に漏れたら炎上どころではないはずだが、そこは獅子王学園の外部との接触不可という最強の情報隠蔽方法があるため、死人が出なければ問題ないのである。
だからこそ実力が確かである十傑を派遣しているのかもしれない。今頃、一年生全員が窓からこちらの様子を眺めている頃だろう。
後方から多数の視線を感じるし、それと同時に相手が刃物を持っているのを見て動揺しているのが、後ろを見なくても伝わってきた。
一歩ミスればタダでは済まないこの状況。
しかしながら、宗一郎たちは至って冷静であり、軽く体を動かしながら相手を牽制していた。
「へぇ、随分となめられたものだな。俺たち相手に学生がたった4人とはな。随分と楽に侵入できたし、意外とこの学園を落とすのは簡単だったな」
「お前たちには同情するが、これも仕事なんでな。抵抗しなければ一瞬で殺してやる。だが抵抗するなら……」
「ぷっ、ちょっと数が多いからって大の大人が粋がってますよお兄さん」
相手は俺たちのことを見て何やら調子のいいことを言っているので、俺は思わず相手を挑発してしまった。
まぁ、これで怒ってくれるのであればその程度の敵なのだ。
魔法と贈り物、その他諸々を制限されたとしても苦労する相手ではない。
「……そこのガキは一番最後に殺す。てめぇ、覚えとけよ?」
案の定、俺の安い挑発に乗ってくれたおかげで、相手の力量もわかったので、俺たちは目で合図をして一気にたたみかけることにした。
ちなみに、みんな身体強化の魔法を使っていない。
単純なフィジカルや体捌き、あとは戦いの勘で相手を圧倒していく。
いくら相手が刃物を持っていようが、まともに戦いのいろはも知らないような奴には負けたりしない。
これでも俺たち四人は武の名門である。
この程度で引けを取るほど柔い鍛え方をしていないのである。
「うん。あんまり大したことないな」
「んだとっ!」
俺が煽ると、刃物を一直線に突き刺そうとしてきたので、ジャンプしてそれを避けるとそのまま蹴りを入れて気絶させる。
「ふぅ、僕あんまり近接格闘は得意じゃないんだけど」
「これくらいの敵なら湊でも怪我しないから大丈夫でしょ」
「怪我するしないの話じゃないって。僕は龍之介みたいに刃物を刺されても無傷ではいれないの」
俺と湊、宗一郎が戦いながら話をしていると、少し離れたところで龍之介が一人で暴れていた。
会話の通り、龍之介は身体強化なしでも刃物の方が身体の硬さに負けて折れてしまうため、相当鋭い、それこそ俺たちが戦闘で使うくらいのしっかりした武器じゃないと龍之介に傷を負わせることは不可能である。
毎回思うけど、龍之介の体は化け物だと思う。
「オラァ! お前らその程度か! もっと考えて攻撃してこい!」
「ついに相手を煽っちゃってるよ。やっぱり四人もいらなかったな」
「そうだね。まぁ、僕は久しぶりに体を動かせてよかったよ。最近運動不足気味だったし」
「俺も、久しぶりに気持ちよく戦えてるよ」
「蒼の場合、いつも誰かに吹っ飛ばされてるしね。たまにはこういう機会があってもいいかもね」
「お前たちがいつも俺に容赦しなさすぎるんだよ……」
会話だけ見ればいつも通り平常運転だが、その間にも一人、また一人と相手の数を減らしていく。
一度でも刃物が身体に刺さってしまえば、龍之介と違って俺たちは大怪我だが、そもそも刃物を持っている相手の動きがトロ過ぎて話にならない。
そんなこんなで5分もしないうちに、相手50人全員地面に突っ伏す結果となっており、俺たち四人は息も乱すことなくお掃除完了することができた。
気がついたら俺たちの前には人の山ができていた。
50人が山になっていると思ってる以上に圧巻である。
「意外と楽しかった」
「俺も大満足だぜ。あー。もっと骨のある奴がいればよかったのに」
「まぁ身体を動かすのにはいい機会だったよ。しばらくはいいけど」
「三人とも、やること終わったし帰るよ。後処理は学園側がやってくれるだろうし」
流石に後片付けまで俺たちにさせることはないと思うし、宗一郎の言う通り一旦教室に戻ろうと思う。
はぁ〜久しぶりに身体動かせて楽しかった♪
ー水無瀬朱音視点ー
「おいおい、なんだよあれ……」
「相手刃物持ってるんだぞ⁉︎ なのに全員素手で圧倒的だったぞ……」
「さっき一条のやつ二メートルくらい跳躍してなかったか⁉︎」
「まさか身体強化も使わずに圧倒するなんてね。ちょっと北小路たちの実力を甘くみ過ぎたみたいだ……」
蒼たちが外で暴れている中、教室の中ではさっきまで蒼を馬鹿にしてた人も合わせて4人の圧倒っぷりに驚愕しているみたいだった。
葛木先生まで宗一郎たちの戦いに驚いているみたいだったし、私のことじゃないけど少しだけ嬉しくなった。
ただ十傑の力を見せるなら、どうせなら私たちも参加できる何かが良かった。
こうしてただぼーっと蒼たちを見てるのも楽しいけど、私たちも身体を動かしたかった。
後で蒼に相手してもらお。
「あなたたち、本当にすごいのね」
「やったのは蒼たちだけどね。そういうあなたも面白い贈り物を持ってそうね。さっき蒼にちょっかいかけようとしてたでしょ?」
「あら、バレちゃった」
私の隣の席の確か……姫宮桜さんだったよね。この人、入学式で蒼の隣に座ってた時に蒼に対して『魅了』を使ってたはず。
きっと、隣に佳奈がいなかったらあいつのことだからわざと引っかかって後々大変なことになってたと思う。そういうわけで、私もあまり姫宮さんにいい印象を抱いていない。
「一条くん。彼、面白いわね。顔もかっこいいし」
姫宮さんは入学式の一件とさっきの戦いを見て蒼に興味を抱いているみたい。
そこで宗一郎に行かないあたり、他の女とは違うなーって思う。確かに顔は蒼も宗一郎も同じ系統でどっちもかっこいいと思う
蒼の前では絶対に言わないけどね。あいつすぐ調子に乗るし。
「……ほどほどにしときなさいよ。あいつすぐに調子に乗るから」
結局、私は姫宮さんにそれ以上何もいうことができず、なぜかすっごいモヤモヤした。
蒼のことが好きってわけじゃないんだけどなぁ……蒼はなぜかずっと見てないとすぐにどこかにいっちゃいそうな気がして……
うん。私たちの中で一番手がかかるから、そう思うのかもしれない。
あいつはいつも自分一人でなんでも背負おうとするから、危なっかしいんだ。
まぁ、それに私たちは全員助けられてきたんだけどね。
みんな特殊な環境で育ってきたけど、その中でも蒼は特に大変な幼少時代を過ごしてきたはずだから、きっとその辺りのケアの仕方はよくわかってるんだと思う。
いつもヘラヘラしてるのはあいつのいいところでもあり、悪いところでもある。
決して本当の感情を外に出さないあいつを庇ってやらないと……そうだ、あいつに対する感情って庇護欲に近いのかもね。
だから隣でニコニコしている姫宮さんをあまり近づけたくないのかもしれない。
「チッ! 何で俺はハブかれてんだよ。俺もあれくらいできるっつーの。ねぇそこの彼女……水無瀬朱音さんだっけ? 今日暇だったら2人で遊びに行かない?」
それよりも、今は姫宮さんより私の前の席にいる彼をどうにかしたほうがいいかもしれない。
確かギリギリ十傑に入ることができなかった人みたいなんだけど、どうにもさっきから視線がうざい。
蒼に胸を見られるのは百歩譲って私が機嫌のいい時は許してやらないこともないけど、目の前にいる男子から見られてるだけで吐き気がする。
しかも、実力も中途半端なくせに大口叩き。私の一番嫌いなタイプだ。
「ごめんね。放課後は蒼たちと一緒にいることが多いから無理かも」
「えーそんなこと言わずに、ね? 一回くらい2人で遊ぼ?」
さらっと私との距離を縮めながら、甘えるように誘ってくる感じ……女慣れはしてるみたいだけど、下心が見え見えで無理。
隣で佳奈と琴葉が面白そうに見てるけど助けてくれる様子はない。
まぁ、こっちに絡むと自分も標的にされかねないので、もし琴葉たちが同じ状況だったら、私も傍観者を選ぶけど……ちょっとは助けてくれてもいいんじゃないかな?
いつの間にか姫宮さんも興味を失ったみたいにこっちを見向きもしないし、こいつら薄情にもほどがある。
確かに私は見た目はギャルっぽいけど、そんなに軽くないからね。
きっと、目の前にいる男子は私が一番ワンチャンありそうだからって理由で声をかけてきてると思うんだけど、正直これ以上相手にしたくないなぁ。
「ねぇー? いいでしょ? 遊びに行きた……」
「朱音ー! 疲れたぁぁぁぁぁ!」
「うわっ! びっくりした。蒼か。お疲れー」
私が目の前の男子の対応に困っていると、急に後ろから蒼に抱きつかれた。
普段は結構遠慮して全く触ってこないくせに、今はやけに積極的に触れてくる。……ちょっとドキッとしたのは内緒!
「四葉学園長ひどいんだけど。急に俺たちの前に転移してきて、後片付けまでしっかりしろとか言い出して、結局みんなで50人を持って外まで行く羽目になっちゃったんだよ」
蒼はそうやってわざとらしく私と目の前にいる男子との距離をさりげなくあけて行ってくれた。
急に話を切られた男子はすっごい形相で蒼のことを睨んでるけど、蒼は全く気にした様子なく私に泣きついていた。
「お疲れ。でも蒼たちならそこまで大変なことでもなかったでしょ?」
「まぁねー。暑苦しい男に触れないといけないところ以外は全くしんどくなかった。ぶっちゃけ転移魔法で全員門の外まで送ったからね」
「なんじゃそりゃ」
蒼の話に私が笑っていると、さっき声をかけてきた男子は一旦諦めてくれたのか違う女の子に声をかけていた。
やっぱり私はまだ名前も知らない彼を好きになることはできなさそうだ。
「……ありがとね。蒼」
「おう。俺も朱音の柔らかさを堪能できたし大満足だ」
「あんたってば本当に……」
そう。こいつはいっつも困ってると助けてくれる。
自分が嫌われるとかそういうのは二の次で、いつも私たちのことを気にしてくれている。
さっきは庇護欲って形で誤魔化してたけど……
今のはちょっとかっこよかったよ。
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