第6話 ホームルーム2

「よーし、全員いるなー。これからホームルームを始める」


 俺たちが教室に着いてしばらくゆっくりしていると、若い男性の先生が1ーAにやってきた。

 見た目は若く、柔らかい印象を受けるかっこいい先生だけど、どこか鋭い雰囲気もあってそのミスマッチな空気がその先生の良さをまた醸し出していた。


 ……ただ、イケメンは俺の敵である。俺に似たイケメンは禿げろ。


「僕の名前は葛木渚。葛木先生でも渚先生でもどっちで呼んでもらっても構わない。一年間、この1ーA組を担当する。これからよろしくな」


 葛木先生が爽やかな笑みを浮かべると、すでに葛木先生にハートを撃ち抜かれた様子の女子生徒がチラホラと発見できた。

 イケメン耐性がないと葛木先生はかなり危険だと思う。同性である俺でも葛木先生はかっこいいなーって思うし。


 まぁ、俺たちも負けてないけどねっ!


「さて、このクラスには十傑がいるからみんなのハードルも上がると思うけど、あまり気負いすぎずに頑張っていこう」


 葛木先生は俺たち全員に目を向けながら、緊張をほぐすように優しく声をかけてくれている。

 さすが、獅子王学園のAクラスを担当するだけあって、生徒の心のケアも完璧にこなし、すでにほとんどの生徒の心を掴んでいた。


 確かに悪い先生ではなさそうだけど、ただ優しい先生ってだけでカテゴリーをするのには怖い先生でもありそうだ。


「とりあえず君たちは一年間は平和な学校生活を過ごせるわけだが、ここで慢心して下のクラスに落ちれば堕ちるほど大変なことになるから、日々の努力を怠らないように。来年も僕が君たちを担当できるように、僕も全力でサポートするから、頑張ってね」


 葛木先生の言葉に、クラスメイトたちはみんなやる気に満ちた表情で頷いている。


 さっき俺が少し横を通っただけでもちょっかいをかけられたのにも関わらず、葛木先生はもうみんなと打ち解けていた。


 ……ちょっと僕の扱い酷すぎませんかね?


 ただ、俺だけじゃなくて宗一郎や朱音たちにもまだどこかよそよそしかったから、きっと十傑っていう名前が俺たちの邪魔をしているんだと思う。


「俺たちより空気を掴むのがうまいな。俺たちより馴染んでるじゃん」


「まぁ、仕方ないっちゃ仕方ないよね。俺たちの格好、みんなチャラいしね。一般の生徒にはこの学園校則がすごい厳しいから、ちょっとだけ浮いてるんだと思うよ」


「かといって、髪色とかは俺たち直せないしなー。時間をかけて仲良くなっていくしかないか」


「そうだね。蒼なら余裕でしょ」


 葛木先生が軽くこれからの予定を話している最中に、俺と宗一郎は席が隣ということもあって小声で話しをしているけど、やっぱりこの見た目は結構なハンデなのかもしれない。

 そのうち、Aクラスのみんなも徐々に校則は緩くなっていくと思うけど、最初の段階でここまで優遇されているのは十傑だけなので、羨望とか嫉妬とか色々あるんだと思う。


 Aクラスに入れただけでこの学園ではかなり優秀な方だと思うけど、確かにクラスでここまで自由にされてたら、俺が逆側でも少しイラッとしてしまうかもしれない。

 ただ、俺たちの格好は直そうには直せないため、悪いけど我慢してもらうしかない。

 

「……とまぁ、今日はホームルームだけで、明日から本格的に学園のカリキュラムが始まるわけだから、今日くらいはクラスのみんなで親睦を深めるために、軽く自己紹介をしようか」


 どうやら、これから自己紹介のようで、当然十第一席である宗一郎から順番ということになった。


「北小路宗一郎です。十傑という光栄な地位をいただけて少し緊張していますが、みなさん気軽に話しかけてくださいね」


 宗一郎は締めに自然なイケメンスマイルを残して、自己紹介を締めくくった。

 総一郎の自己紹介が終わると、クラス中から拍手が巻き起こり、少しだけ一般のクラスメイトとの距離が縮まった気がしたが、ただ一人、葛木先生だけが少し不満そうにしていた。


「ありがとう北小路くん。でも、それだけじゃ足りないな。君たちは十傑に選ばれるほどの何かがあるはずだ。もしよかったら、僕たちに『贈り物』や『契約』についても紹介してくれないかな?」


「えーっと……ごめんなさい。それは秘密にしておきます」


 一瞬鋭くなった葛木先生の目線に、宗一郎は臆することなくそれは無理だとはっきりと拒否をした。

 確かに俺たち七人は少なくともいくつかの贈り物である異能と、この世ならざるものとの契約をしているが、自分から自らの手札を晒すほど俺たちは馬鹿ではない。


 それに加えて俺たちの場合、学園の課題の中で使うならまだしも、何もないところで贈り物を使ったり、契約しているものの力を借りたりすると大変なことになるため、あまり秩序を乱さないためにも、今の段階でしっかりと拒否しておいた方がいいのである。

 まぁ、そのうちバレることだから別に話してもいいんだけどね。


 ちなみに、俺たち七人はそれぞれどんな贈り物を持っていて、どんな存在と契約しているのかは一応みんな知っている。

 それ故に、朱音たちに喧嘩を売ると大変なことになるのがわかってるから、いつも俺は彼女たちの命令に逆らわないのである。


 ……ビビってるわけじゃないよ? 周りの被害を考えてるのである。


 うん。僕偉い。


「へー。君たちは自分の手札がバレたくらいで他の生徒に負けちゃうんだ。入学式であれだけ言っていきながら、今年の十傑は大したことがないみたいだね」


 葛木先生も俺たちが何も話さないのは百も承知のようで、その上でまだ俺たちに挑発をふっかけてきているようだった。

 ただ、別に特別俺たちに嫌がらせをしてきてる感じではなかった。


 どちらかというと通過儀礼か何かかもしれない。


 そう考えると、外で待機してる人たちの存在も頷けるからね。


「ん? 何の音?」


 そんなことを考えていると、めちゃくちゃいいタイミングで外から複数のバイク音が聞こえてきて、明らかに暴走族っぽい格好の男たちが五十人くらいこの一年生校舎目掛けて向かってきていた。


「あぁ、たまにくるんだよ。この学園も敵が多いからね。っと、今回は……そうだね。北小路、一条、伊達、武田の四人に対処してもらおうかな。もちろん大丈夫だよな?」


「……わかりました。行ってきますね」


「ありがとう。ちなみに魔法も贈り物も使っちゃダメだからね。身体強化くらいは許すけど、それ以外はダメ」


「わかってますよ。流石に相手を殺そうとは思いません」


 流石にこうもわざとらしいタイミングだと、宗一郎も学園の意図に気づいたのか呆れた様子でため息を吐いていた。

 朱音たちも「こりゃダメだ……」と呆れている。

 まぁ、他の生徒たちは全くその意図に気付いた様子はなく、「4対50で大丈夫なのか?」と心配しているので、結果的には十傑の力を示せるいい八百長かもしれない。


 なんで十傑第十席の男子が指名されなかったのはちょっと疑問だけど、きっと実力的な問題で不安なのかもしれない。


「蒼、湊、龍之介。いこうか」


「ほーい」


 うん、見せしめは必要かもしれないけど、今から体を動かすのはちょっとめんどくさいわ。


 ここはうまく相手に紛れてサボって……


「蒼、サボっちゃダメだかんね」


「蒼、手抜いたらわかってるよね?」


「蒼くん、たまにはかっこいいところ見せてくださいね?」


「……はーい」


 俺の返事だけで何考えてるかわかる彼女たちすごくない? 


 いや、俺がわかりやすすぎるのか。まぁ、流石にここまで釘を刺されてしまったからには人並み程度には働こうと思う。

 最近運動不足だったからちょうどいいのかもしれない。


「朱音たちにはお前の思考がバレバレみたいだな」


「おっかないね。僕も怒られないようにちょっとは頑張ろ」


「久しぶりの喧嘩だっ! 沸るねー!」


 龍之介は久しぶりに戦えるということでかなり嬉しそうだ。

 こいつは俺たちの中でも体格は一番頑丈なので、今回もきっと一番活躍するだろう。


 さて、俺も頑張りますか。

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