第4話 入学式2
ー宗一郎視点ー
入学式が始まり、序盤は退屈なお偉い方の挨拶や話で時間が進んでいって、正直退屈でしかなかった。
しかし、仮にも俺たちは十傑で、獅子王学園第84期生の代表として、式典中に寝たり気を散らしたりするなんて言語道断である。
……隣の方から約2名のいびきが聞こえてくるのは本当にごめんなさいとしか言いようがない。
まぁ、龍之介は朝から色々と忙しそうだったから情状酌量の余地はあるんだけど、蒼に関しては後で本当に一発ぶっ飛ばさないと気が済まない。
俺がどれだけ隣で超不機嫌な朱音の機嫌を取らないといけないのか、あいつは知らないと思う。……龍之介はそれから逃げるように寝ているのかもしれない。
もし、俺や龍之介が少しでも朱音の機嫌を損ねるようなことをしたら、式典どころじゃなくなっていただろう。
朱音も朱音で良くも悪くも蒼の影響を受けているんだと思う。
……いや、朱音だけじゃない。多かれ少なかれ、俺たち全員蒼の影響を受けているのかもしれない。
こいつは、基本ずっとふざけているんだけど、しっかりとした軸みたいなのがあって、変なところで真面目だから俺たちも気楽に絡むことができる最高の親友である。
俺たちの馴れ初めを話すと結構長くなるから省略するけど、最初から仲が良かったわけじゃないしね。
そういう点では、隣でイライラしてる朱音もそうだと思う。最初なんて、蒼のこと本当に殺す勢いで攻撃してたっけ。
あの頃からちょっと怒りっぽかったけど、今は蒼が絡むと俺たちですら手をつけられないことが多い。
……ちょっと悔しいけどね。
蒼はよく俺のことを主人公だと言ってくれるけど、俺からしたらあいつの方が主人公してると思う。
俺も、色んな人と話ができるようにアニメとか小説も少し読むんだけど、蒼のそれは物語に出てくる主人公とよく似ている。
確かに、蒼は物語の勇者みたいに正義感が強かったり、真面目だったりはしない。普段は女の子しか見てないしね。
でも、俺たちが何か困ってると一番早く手を差し伸べてくれるのはいつも蒼なんだ。俺たちのグループは一回以上は絶対に蒼に助けられてると思う。
っと、あんまり蒼のことを褒ると調子に乗るからこの辺にしとこっかな。そろそろ俺の出番だしな。
「朱音、ちょっと横で寝てる龍之介を起こしといて」
「……いいけど、あんたまで蒼に影響されてないよね? 入学初日から全校生徒を相手にするのは私嫌だよ?」
「人生に一度の高校生活、少し刺激的でもいいと思わない? まぁ安心して、巻き込むのは蒼だけだよ」
「それなら行ってよし」
朱音と話し終えると同時に、司会の人に名前を呼ばれる。
新入生代表として、ある程度は話す内容を決めてきたけど、どうせだったらもう少し他の生徒たちを煽ってもいいかもしれない。
それに刺激されて僕たちの元まで駆け上がってきてくれる子がいる可能性があるんだったら、やらないわけないからね。この学校、色々と普通じゃないみたいだし。
「それでは、北小路宗一郎さん。よろしくお願いします」
「初めまして。この度、十傑第一席の座を賜りました、北小路宗一郎です。早速ですが、そろそろ退屈に感じている人も多いので、僕から一つだけ言わせてもらいます」
俺はそこで一度区切って、あいつが決め台詞を言う時の大胆不敵な顔を思い浮かべる。
うん。今はあれくらい自信満々の方が映えそうだ。
「僕たちはいつでもみなさんからの決闘を受け付けます。今の位置に不満を感じている生徒はいつでも、僕たちにかかってきてください。……そうですね、手始めにそこで寝ている第七席の奴に挑戦してみるのがいいかもしれませんね」
俺がそう言った瞬間、この入学式に参加している人全員の視線が、気持ちよさそうに寝ている蒼のほうに集まった。
朱音や琴葉、佳奈は頭を抱えて、龍之介と湊は面白そうに拍手をしていた。うん、ナイスでしょ俺。
みんな、一様に「なんでこんな奴が十傑に?」と不思議そうな顔をしているし、人によっては今すぐにでも殴り飛ばさんとしている人もいる。
そんなこととは露とも知らず、気持ちよさそうに寝ている蒼だったけど、流石に視線が集まりすぎて不快だったのか渋々起きたみたいだ。
寝起き一番、自分のことは全く気にかけず俺に笑顔で手を振るあいつをみると、本当に肝が据わってるなーって思うけど、きっとそのうち寝てたことを後悔しそう。
その後、俺は軽く挨拶を済まして新入生代表の言葉を終えると、今度は学園長の言葉らしくさっき俺が前に立った以上の緊張感がその場を走った。
確か、女性の方で歴代最強の魔法士らしい。
「獅子王学園、学園長の四葉毬乃だ。新入生代表、北小路宗一郎くん。実に面白いお言葉をありがとう。確かに、この学校は弱肉強食だ。いくら素行が悪かろうが、実力さえあれば全てに勝る。そこで寝ている彼も含めてね」
毬乃校長がそう言って、蒼がにっこりと笑っていた。
そのやりとりを見て、やっと察することができた。蒼は自ら悪役を演じていたんだと。
きっと、俺たちがここにくる前に、毬乃学園長は先に蒼に接触してたんだと思う。小さい頃から何かと俺たちは有名だったからね。
それで、一番悪役というか道化を演じるのが得意な蒼に話が行ったんだろう。今日はやけにふざけてるなと思ったらそういうことだったのか。全く、蒼も毬乃学園長も是が非でも俺を主人公というか、この学年の星にしたいようだ。
確かに、学年に目標がいると他の生徒の士気も高まるだろうけどね。
「今日、400人の新しい金の卵たちがこの獅子王学園に入学してくれたわけだが、この学校、ひいてはこの世界は弱者には優しくない。もし、自分の夢や野望を持ってこの学園に来たのなら、強者になれ。以上で私からの言葉を終える。宗一郎くんの言葉を借りれば、皆もこんな退屈な式典よりも、早くカリキュラムなどの説明を聞きたいだろう?」
毬乃学園長は最後に俺の方を見てそう笑うと、これで入学式を終えると自ら式の締めの言葉を言い、俺たちは一度解散となった。
思っていた人よりも、毬乃学園長は面白そうな人で良かった。
中には苦手と感じる人もいるかもしれないけど、俺はこう物事をはっきり話してくれる人は割と好きである。
隣で朱音も笑ってるし、彼女からの評価も悪くなさそうだ。
「さて、この後は1ーA のクラスに行けばいいんだっけ?」
「うん。僕たち全員一緒のクラスだよね? 確か成績の良い順にクラス編成がされているはずだから」
そう、この学園は成績がいい順にAからJクラスに分けられて、定期的にある試験や魔力測定、などで半年ごとにクラスが変わるシステムだったはずだ。
「えーっと、確か30分後にホームルームが始まるって。ってかそれより蒼、あんたまさかあの学園長とグルっだった?」
みんなで1ーAクラスに行こうと、今度はみんなで歩いて校舎に向かっている最中に朱音が眠そうにあくびをしている蒼を問い詰めていた。
きっと、俺だけじゃなくてみんなも薄々気づいてたようで、みんな興味深そうに蒼の話に聞き耳を立てていた。
「あーうん。ちょっと素行悪めでお願いされてた」
「だから俺がお前に注目を集めても動じてなかったのか」
「まーね。それに、お前ならやると思ってたしな。覚悟してた」
「本当によくやるよ……」
俺は呆れを通り越して逆に感心してしまう。
どこまでこいつのシナリオ通りだったのか、考えても無駄なのはわかってるんだけど黙って考えてしまう。
朱音たちも同じでいつものことだけど、どこか不満に感じているみたいだけど、結局何もいえずにもどかしさだけ残ってるみたいだった。
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