第3話 入学式1

 琴葉のマッサージも無事終わり、俺と琴葉は集合時間までソファーに座り十階からの景色を楽しんでいた。


 きっと、この景色もあと3日もすれば飽きるのだろうが、今はまだこうしてゆっくりと景色を楽しめているためいいのである。

 このまま一時間以上ぼーっと太陽の日を浴びながらまったりしていたいのだが、そろそろ集合時間なため、俺と琴葉は支度して寮の前へと行くことにした。


 琴葉はここにくる前に事前に全て準備していたようで、ここにくる時も制服を着てきていたし、手荷物の類も全部持ってきていた為、わざわざ自分のフロアに戻る必要はなさそうだった。

 一方、俺はというと部屋のカスタムを終えてすぐに琴葉が来たため、まだ制服も来てなかったし、準備もまともにしていなかった。


 まぁ、制服を着替えるだけで、男子高校生なんて特に準備する必要もないためそこまで時間はかからないので問題ない。


 そんなわけで、俺と琴葉は集合5分前に寮の前に着いたわけなのだが、そこにはすでに全員揃っており、俺と琴葉が最後であった。


「悪い。待たせた」


「いや、俺たちもさっき来たばっかだ。一番早かったのは佳奈の10分前だしな」


「蒼くん。なんで琴葉と一緒なの?」


「こいつが俺の部屋に遊びに来てたんだよ。断じて俺のせいではない」


「マッサージするときお尻触ろうとしてたくせに」


「……蒼くん?」


「大変申し訳ございませんでした」


 俺は佳奈の視線に耐えられず、その場で土下座をした。

 橘佳奈。俺の髪の毛が純白だとするなら、佳奈の髪の毛はそれに少し水色を足したような髪色で、セミロングである。


 朱音と琴葉の身長が165センチくらいだとすると、佳奈の身長はそれより少し小さい158センチくらいだと思う。

 ただ、佳奈は小柄で天使みたいなくせして、女子の中だと一番俺に容赦がなく、今も笑顔なのに目だけ笑っておらず、ずっと俺のことを見ている。


 ……佳奈さんのこれ、本当に怖いんです。


 しかも魔法で正座が解けないようにされてるし、この人容赦ない。


「佳奈、その辺にしてあげてよ」


「宗一郎……!」


 俺が公衆の面前でずっと正座をさせられているところに、宗一郎が苦笑しながらも俺のことを助けてくれた。

 さっすが十傑第一席。やっぱり器が俺たちとは違うね。


 こいつにファンクラブができた暁には俺が直々に会長をしてあげようと思う。


「後で僕がこいつのことをボコボコにしてあげるから、それで許してあげて?」


「宗一郎……」


 前言撤回。

 やっぱりこいつは悪魔である。


 このグループ、やっぱり俺に優しくないやつばっかだわ本当に。まぁ、八割くらいは俺が悪いんだけどね。


「ほら、立ちなさい。さっさと行かないと遅刻するよ?」


 俺がいつまでも地面で正座させられてるのは流石に色々と良くないため、朱音が手を貸してくれてようやく立ち上がることができた。

 足がジンジンするけど、まぁそのうち治るでしょう。


「朱音、随分と優しいんだね。いつもなら私と一緒なのに」


「ま、今日は特別ってことで」


「今朝抜け駆けしたくせに……」


「なんのことだか、私にはわからないね〜。それより、私たち十傑は入学式が始まる30分前には席についておかないとダメなんだから、さっさと行くよ」


 朱音はそういってみんなを扇動して、今回入学式が行われる第一体育館へと向かうことにした。

 どうやら、先に朱音がバスを手配してくれていたらしく、わざわざ徒歩で行かなくてもいいようになっていた。と、いうか歩いて向かうのでは第一体育館まで30分で行くことは無理だったと思う。


 ほんと、朱音って一番ギャルっぽい見た目をしてるくせに湊と同じで真面目でこういったところでは頼りになるんだよなー。


 ギャルっぽいけど。


「蒼、あんただけ歩いて行く?」


「いえ、ありがたく朱音様のご好意に甘えさせていただきたいと思います。毎度のことながらありがとうございます」


「ほんと、こいつも学習しねぇよなぁ」


 俺の考えてることなんて、こいつらにはお見通しなようで、朱音にジト目でそう言われるが、俺も朝から汗をかきたくないので素直に謝る。

 そんな俺の姿を見て、龍之介が呆れているがわかってても言ってしまうのが俺の病気なんだよなぁ。


 結局、バスで15分くらいで目的地である第一体育館へと到着したのだが、そこではすでに多くの生徒たちでごった返していた。


 俺たち十傑は席がそもそも違うため、入り口が違うのだが、俺たちがバスから降りた瞬間色んな人から一気に注目を集めてしまっていた。


「さすが入学式。人が多いねー」


「ここまで注目されるのも久しぶりだよね。蒼、女の子にちょっかいかけに行こうとしない」


「うぅ〜わん!」


「これ以上ふざけるとここで燃やすよ?」


「大変申し訳ございません」


 あまりふざけ過ぎると、琴葉様にまた燃やされかねないので大人しく指定された場所へと向かうことにする。

 ここまで注目されるとは思っていなかったけど、まぁ仕方ないといえば仕方ない。


 確か入学の案内所には原則頭髪加工や服装の乱れなどは注意してくださいとしっかりと忠告されていたので、ざっと見た感じでもまだヤンチャそうな見た目の人はいない。

 その点、俺たちは髪の毛がカラフルだったりピアスをしたり、すでに制服を着崩したりとやりたい放題なため、それは視線を集めても仕方のないことである。


 俺たち十傑にはあえてそのようにしてくれると助かると事前に学園側から支持されていたので、俺たちはこのまま体育館に入っても問題ない。

 きっと、自由に楽しく学園生活を送りたければ十傑を目指せという意図なのだろうが、注目される側からしたらあまり気持ちの良いものではない。まぁ、あんまり気にしてないんだけどね。

 ただここで敵を作ってもあまりメリットはないので、愛想良く手を振りながら宗一郎の隣を歩くことにした。


 それが敵を作ってるんだよとか言わないでほしい。注目されてるんだから、これくらいは許して欲しい。


「えーっと、俺たちの席は……あそこだな」


「みたいだね。確か宗一郎が新入生代表で何か話すんでしょ? 緊張してない?」


「慣れてるし大丈夫だよ。先に学園長からある程度話す内容を決めてもらってるから、俺はあとはそれを話すだけだよ」


「それができない人が多いんだけどね。蒼とか話す内容決めても途中で脱線すると思う。絶対いらないこと話すっしょ」


「失敬な。やれと言われたことくらいは俺もできるぞ」


「じゃあ今すぐキョロキョロしないで大人しくして。あんたのせいで目立って仕方ないんだから」


「いいじゃん。これから三年間は親とか家とか気にしなくていいんだし。テンション上がるって」


 そう、中学まではみんな家の用事とかでほとんど遊ぶことなんてなかったけど、これからの三年間は放課後みんなで遊び放題なのである。

 この獅子王学園は原則有事の際以外は外と連絡を取ることを禁止しているため、宗一郎たちの親が干渉してくることはほとんどないと思う。俺は家にいた時もそこまで縛られてないけど、他の6人は結構厳しかったみたいだし、これからが楽しみである。


「それはわかるけど、なんで蒼くんが一番喜んでるの?」


「お前らがこの幸せに気付いてないから、代わりに俺が喜んであげてるんだ。感謝してもいいぞ?」


「……結構良いこと言ってくれてるはずなんだけど、偉そうだからめっ!」


 佳奈はそう言って俺に軽くデコピンしてくる。

 俺たちの席は第一席から右に並んでいるため、必然的に十傑第六席である佳奈が俺の隣になるので、一番話しやすいのである。


 ちなみに、第一席は宗一郎で第二席は朱音、第三席が龍之介で第四席が湊、第五席が琴葉で第六席がさっきも言った通り佳奈、そして最後第七席が俺である。第八席以降は俺たちもまだ知らない。

 隣には本当に高校生か疑わしいほど色っぽい女の人が座ってるけど、俺は断じて見てないです。


「むぅ……蒼くんの視線がいやらしぃ〜」


「こら、隣にも人がいるんだから静かにしなさい。今お兄さんは仏像と化して我慢してるんだから」


 佳奈が俺のほっぺを摘んで何か言ってるが、俺は絶対に反対側を見ない。

 見た瞬間、目が胸に行くことがわかりきっているのに、地雷を踏みに行くバカはいないだろう。


 俺だって学習するのだ。

 もう今日だけで何度もエッチなことで痛い目を見てるんだから、これ以上欲望に負けるわけには……


「ふふっ、私は別に良いから気にしないで。男の子だもん。仕方ないわよ」


「何っ⁉︎ なら遠慮なく……」


「凍らすよ?」


「ごめんなさい」


 うん。やっぱり隣の人色気やばかった。

 佳奈たちも女子高生らしい体つきで結構見慣れてるはずなんだけど、それでもなお大人の色気を出す隣の人には抗えない何かがあった。


 まぁ、系統の違いで佳奈たちもトップクラスで可愛いんだけどね。


「……許します」


「? ありがとうございます」


 許されました。

 もしかして、佳奈も俺の心を読めるの? みんな読心術極めすぎじゃない?


 そんなこんなで、お隣の2人としばらく話していると、急に会場が暗くなり、いよいよ入学式が始まりそうな雰囲気だった。

 今朝から今まで割と忙しかったため、入学式中くらいはゆっくりできそうなので、非常に助かる。


 さて……おやすみなさい。

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