最終話 鮮血のハロウィン
「今だ! やれ! 殺せ!」
八島が発したその叫びを合図にして、蓮江の大鎌が鴨井に向かってぶるんと振り下ろされた。白銀の光を放つ鎌の切っ先が、鴨井の胸にぐさりと刺さった。
「あああああっ!」
痛いのか、それとも熱いのか、鴨井は自らを襲う苦痛の区別さえつかなくなっていた。体の中で何かがぶちぶち引き裂かれる感覚、骨に冷たく鋭いものが当たって軋む感覚……それらが、鴨井に地獄の苦しみを与えている。
かつて犯した罪が過去から追いかけてきて、とうとう捕まってしまった。これは、忘れていた過去の取り立てなのだ。
死は、もうその両腕で鴨井を抱きかかえていた。しかし、すぐに連れ去ってくれるわけではない。まるで体の中に焼きごてを入れられたかのような耐えがたい感覚が、鴨井を苦しめ続けていた。
大鎌の刃はずぶずぶと沈み込み、とうとうその切っ先が背を貫いて飛び出た。赤い血肉と黄色い皮下脂肪、それらが冷たい刃をつたって、アスファルトの上をべちゃべちゃと汚した。
蓮江はなおも手を緩めなかった。大鎌を鴨井の胸に突き刺したまま、銀色の左手で頭頂部を掴み、右手で首を鷲掴みにした。もう、鴨井に抵抗の力は残されておらず、叫び声をあげる気力も失われていた。
ごきり、という嫌な音が響き渡る。蓮江は鴨井の首をひねり、時計の針のように回転させたのだ。真後ろを向いた鴨井の顔に、すでに生気は灯っていなかった。
「ひっ……人殺し!」
「逃げろ! 殺されるぞ!」
まるでスプラッター映画のワンシーンのような凄惨な光景が、その場に集まった野次馬をどれほど恐怖させたかは言うに及ばない。野次馬たちは危険を悟って、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。
ハロウィン会場となった鮫津市中央公園は、たちまち狂騒の
「やった……」
鴨井の死を見届けた八島は、勝ち誇った顔をしながら、か細く呟いた。それが、従弟の復讐のために命を投げ打ったこの男の、最期の言葉となった。八島は仰向けのまま四肢五体を投げ出し、そのまま動かなくなった。
蓮江は首が真後ろに回った鴨井の死体を抱きかかえながら、がっくりと膝を折り、そのままうつ伏せに倒れ込んだ。蓮江の体は、この時すでに限界を迎えていたのだろう。蓮江は立ち上がることなく、鴨井を下敷きにして地面に突っ伏したままであった。
冷たい秋風が、虚しく吹き寄せる。風にあおられて何処からかやってきた赤茶色の落ち葉が、蓮江の銀色の頭にぱさっと降りかかった。
マーダー・オブ・ハロウィン 恐怖の殺戮カボチャ 武州人也 @hagachi-hm
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