第4話 赤色の惨劇
澄み渡る空の下、ハロウィンイベントは始まった。会場となった公園内は、様々な仮装に身を包んだ人々で
地元の青年である鴨井と工藤の二人は、イベント本部付近で談笑していた。
「そういや鴨井んとこ子ども生まれるんだっけ」
「三か月だからまだ先の話だけどな」
「いいよなぁ鴨井は。俺なんかこの間彼女と別れたばっかりだ」
「はは、また別れたのかよ。工藤いつもそうだよな。そういや小野田は例の彼女と上手くやれてんのかな?」
「今んとこ上手くやってるみたいだぜ。ってか小野田おっせぇな。連絡も寄越してこねぇし」
話題の中心にあったのは、青いスーツに黄色いマントで有名なヒーローの姿をした大柄な男――鴨井の身の上であった。一年前に結婚した彼は、現在妻が第一子を妊娠中なのである。まさに幸せの絶頂とも言える男であった。
「そういや佐藤はどうした?」
「本部にいるんかなぁ?」
ホッケーマスクを被り、有名なスラッシャー映画の殺人鬼の恰好をした工藤は、本部の天幕を覗き込んだ。けれども彼らの旧友であり、商工会議所の職員としてイベント運営に携わっている佐藤の姿はどこにもない。
何を隠そう、鴨井たちをハロウィンイベントに誘った張本人が佐藤であった。だから仮装姿で一声かけようと思ったのだが、どうやら本部にはいないようだ。
「しゃあねぇ、電話かけるか」
鴨井はベルトにストラップで括り付けていたスマホを取り外し、佐藤に電話をかけた。しかし、いくら待っても相手は出てこなかった。
「佐藤も忙しんだろ。後にしようぜ」
「そうだな」
「それよりスタンプラリー行かね? すぐそこにスタンプ台あるし」
工藤はスタンプ台の方を指さして鴨井を誘った。鴨井は誘われるまま、工藤の後ろについてスタンプ台へと歩いて行った。
『池田町からお越しの鴨井
スタンプ台へと向かう途中、会場内に設置されているスピーカーから、二人を呼び出す旨のアナウンスが聞こえてきた。田定ビルはイベント会場となっている公園に隣接するビルで、ハロウィンイベントを主催している商工会議所が入っている。その一階はこの日、スタンプカードの景品交換所が設置されていた。
「どうしたんだろ。落とし物でもしたんかなぁ」
工藤が首をひねったものの、二人は特段疑問を抱かず、真っすぐビルへと向かった。名前を呼ばれたことに関しても、先ほど受付の仮装参加者名簿に名前を書いたばかりだから特に不思議なことはない。
田定ビル一階の受付に着いた二人を待っていたのは、若い男であった。周りのスタッフが魔法使いやら吸血鬼やらの仮装をしている中、この男だけはしかつめらしいスーツ姿で、どう見ても周囲から浮いている。
「あっ、もしかして佐藤の先輩の方ですか?」
若い男に声をかけたのは、工藤であった。前に佐藤が送ってきた写真にこのような人物が移っていたのを、工藤は思い出したのである。
「ああ、貴方たちが佐藤くんの友達でしょうか? その通り、商工会議所の
爽やかな笑みには、後輩を心から慈しむ気持ちが滲み出ているかのようであった。鴨井も工藤も、一目でこの男に好感を持った。
「実は……佐藤くんから預かっているものがあります。さぁ、こちらに」
八島に誘われて、鴨井と工藤は奥に通された。突き当たりの右には、上と下に通じる階段がある。
八島が階段を下りていったので、鴨井と工藤もそれに続いた。どうやらこのビルには地下があるようだ。白い壁を、電灯の無機質な光がぼうっと照らしている。
「何かもらえるのかな」
「さぁ? てか何で地下なんだろ」
わくわくしている工藤に対して、鴨井はどこか不安げであった。何だか、何かがおかしいような……鴨井はあからさまにそわそわし出した。
「ええ、お二方にはたいへんお世話になったので」
振り返った八島の顔は、にやりと薄気味悪い笑みが浮かんでいた。その右手には……スタンガンが握られている!
逃げようとした二人だったが、時すでに遅しであった。工藤、続いて鴨井の順にスタンガンを食らい、電流によって昏倒させられたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます