第15話 召喚剣
「さて、と…」
ネロは辺りを見渡す。今日は絵に書いたような晴天で、宿舎を出た後に広がる商店街の光景もいつものように賑やかだ。
「まずはここを出て東のイサエラまで6時間程…」
「ネロ様ネロ様っ、アリスさんが居ないのですよ?」
「え?あらっ、本当だ」
地図を確認していたネロにアリスがそう声をかける。
「はぁ、はぁ.......や、やっと追いついた」
皆が立ち止まっていた隙に、俺は息を切らしつつようやく追いつけた。疲労からハルバードを地面に投げ出すように置く…。
「うーん、可笑しいですね…この武器そこまで重くは無い筈なのですけど…」
そんな俺を見たレイチェルは不思議そうに言った。そう言われてもこのハルバード「重い」の一言なんだけど…。
「まだここの重力に慣れていないのかもな」
「重力…?」
レジェルの言葉に思わず首を傾げる。女子になった事で確かに身体能力は落ちたと思うが、重力の感じ方は以前と変わってない筈。
「時が経つにつれ、余計な重力を感じる事は無くなるだろう。貸せ」
そう言ってレジェルは俺に右手を差し出す。
「あ、うんっ」
俺は慌ててハルバードを持ち、レジェルに渡した。
「重力に慣れるまでは俺が持ってやる」
それだけ言い、レジェルは背を向けて歩き出した。
❪ふふ♪レジェル様優しいのです…っ♪❫
レイチェルの囁く声が聞こえ、俺は振り返る。見事にレイチェルと目が合った。
❪はわわ.......もしかして聞いてましたのですか?❫
何故か慌てているレイチェルに俺はうん、と言う代わりに首を縦に振る。
❪べ.......別に普通に優しいと思っただけで!そういった感情は無いのですよ!?❫
❪ふーん…そっか❫
❪ふぇっ?アリスさん!?もしかして私のことなにか勘違いしてませんかっ!?❫
あまり深く問いただすのも悪いだろう。俺はレイチェルを困らせないようにそう思い、ネロ達についていく足を速める。そのまま暫く歩いていると、不意に先頭を行くレジェルの足が止まった。目前に見えるのは鬱蒼とした深い森。
「そういえばアリスさんを召喚した場所は今ここに立っている辺りですかね?」
レイチェルはそう言い、俺は辺りを見回す。確かに召喚されて最初に居た場所はこの辺りだったような…。
「ところでアリス」
「レイヴ様、ご質問ですかっ?」
「召喚剣は回収しただろうな?」
「.......あ」
その一言でレイチェルの表情が一瞬にして凍りつく。
「召喚剣?」
「あぁ、人間や魔物を召喚する魔法を唱えた時、その世界に剣が送られる。アリスもこの世界に来るま…」
「うわぁぁぁぁぁ!!今回収してくるのですうぅっ!!」
そう叫んだかと思うとレイチェルは何処かへ走り去ってしまった…。
「…アリスもこの世界に来る前に剣を見なかったか?」
あの剣…俺の唯一はっきりと覚えている記憶だ。
「うん、覚えてる」
「俺も詳しい事ははっきりと言えないが、あの剣はその世界での物質等を、奪われたカルダの蒼剣に似せて具現化させた物らしいぜ。まぁ俺自身本物の蒼剣を見た事は無いけどな、その蒼剣を抜いた者はこの世界へ召喚されるって仕組みだ」
「そうなんだ…」
「ま、そういう俺もレイチェルから召喚されて来たんだけどな」
「…えっ!?」
俺は驚いて顔を上げた。レイヴもレイチェルに…?
「とは言っても俺の場合はお前と違って名前と、召喚前の記憶が残ってるけどな、何だって俺は今から行くイサエラ出身だ」
レイヴはそう言って笑った。
「そうなの.......?で、でも召喚剣は異次元の物質を剣に具現化させてって…」
「あぁ、通常は異次元へ剣を作る。だけどその当時レイチェルは召喚魔法を覚えたばっかりで失敗が多くてな。異次元に作るつもりが隣国に作ったんだ、で、警備中に偶然剣が刺さってるのを発見した俺が抜いて…つー訳」
「成程…」
つまりレイヴはレイチェルの失敗で召喚され たのか…。
「ねぇ…なんでレイチェル、どこかへ行ったの…?」
リィナは不安そうに目を潤ませながらレイヴに質問した。
「ん?レイチェルが心配か?」
リィナは黙って首を縦に振る。
「レイチェルなら心配するな、あいつは今召喚剣を回収しに行っている。あれは一度誰かを召喚しても消滅しない…いや、そもそも資格のある奴にしか召喚剣は見えないんだが、とにかくだ。召喚剣を異次元から消すには召喚魔法使いであるレイチェルが召喚した時の場所へ赴いた後に専用の詠唱で解除しないと消えない。したとしても何故か3日程異次元で残り続けるんだがな…。」
「良く、…分から…ない」
「そんなに残り続けたらどんどん人が召喚されてくんじゃ…?」
俺は不安になって質問する。あんな小さな公園の砂場に突き刺さった剣なんて沢山の人に容易に発見されるだろう。
「それなら心配要らない、さっきも言ったように選ばれた人間や魔物にしか召喚剣は見えない仕組みになっている。だから資格も無い奴が大量に召喚されたりはしねえよ」
❪何故俺が資格持ってたんだろう…❫
そう考えれば考える程良く分からなくなってくる…。とにかく俺には異世界へ召喚される「何か」があるんだ。
「しっかし…アリスは大変だな」
レイヴは腕組をし、俺に同情するように言った。
「俺は覚えてるから良いが、アリスの場合は女子である事くらいしか以前の自分を知る資料が残ってねぇよな?大変だよな」
「………うん」
そうだった、実は俺は男子って事を知っているのはレジェルとレイチェルの2人しか居ない。だけど頷いてしまった以上恥ずかしくて実は男なんて言えない…。いや言うべきか…言わないべきか…。
「皆さんお待たせしましたのですっ!」
俺が変な葛藤と戦ってる最中、レイチェルの声が遠くに聞こえるのを感じた。
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