第13話 レイチェルの秘技
小鳥のさえずる音、窓から差し込む暖かい陽の光。ここにくる前と同じ音で目が覚めた。
「朝か…」
ここに来て2度目の目覚めだ。
俺はゆっくりと半身を起こし、左手で寝癖を確かめる。
…よし、寝癖はついていない。ただ、腰ほどの長さに達している髪の毛を寝てる間ずっと下敷きにしたからだろうか、起き上がる時に下敷きにされた髪が背中に引っ張られて痛みを感じた。
「いてて.......気を付けないと」
こんな体験は女の子になって初めてだ。朝イチから女である事を自覚させられた俺は複雑な気分で部屋を出た。
「あっ、アリスさんおはようございます♪」
廊下に出るや否や、俺に気付いたレイチェルが元気に声をかけてきた。その左手にはホウキが握られている。
「おはよ、朝から偉いなぁ」
低体温故に寝起きは決まってやる気が出ない。
「えへへ、そうなのですか?まぁ私は皆さんのメイドみたいな者ですからねっ。皆さんもうあっちの部屋に集まってるのでアリスさんも行った方が良いと思うのですよ?私も掃除を終え次第行きますので♪」
レイチェルは玄関前の居間.......この宿舎に入って最初に通る部屋を指す。
「おう、ありがとレイチェル」
俺はレイチェルの言う通りにその部屋へと向かった。
「皆、おはよう」
部屋に着くとそこに居た3人が何か話し合っているようだ。
「おう、やっと起きたか」
「あ…アリスおはよぉ」
レイヴとリィナがそう俺の挨拶を返す。
「あれ、ネロは?」
今この部屋に居るのはリィナとレイヴ、それにレジェル。レイチェルはさっきの部屋で掃除をしているから.......ネロだけ居ない?
「ネロならまだ寝てるな。全く、リーダーたる者が.......」
レジェルは呆れたように言う。
「皆様、お掃除完了しましたのです!」
丁度その時、レイチェルが加わった。
「皆さん、おはようなのです!」
「あぁおはよう、折角戻ってきた所悪いがネロを起こしてくれないか?」
「はい、了解なのですっ」
レイヴに頼まれたレイチェルはまた寝室の方へ戻っていった。
「レイチェルも大変だね」
「まぁな、だけどあの寝坊助のリーダーを起こせるのはレイチェルしかいないからなぁ」
ーーーーーーーー
こんこん、静かな寝室にノックの音が響く。
「ネロ様、入りますのですよーっと」
レイチェルはベッドの方へ視線を移す。
「あはは......幸せそうに寝てますね。起こすのが何だか可哀想に思えてきました.......」
とは言え、リーダーであるネロが起きないと蒼剣を取り戻す旅を再開出来ない。
「これが最後の警告なのですよっ、ネロさーん!起きてください!」
レイチェルは耳元で叫び、ネロの体を激しく揺さぶる。が.......全く起きる気配が感じられない。
「もー.......また「あれ」を使わないとですか.......あんまり使いたくは無いんですけどね、ネロ様.......ごめんなさいのですっ」
レイチェルは一歩下がり、両手を手首の辺りでクロスさせて手を合わせ、人差し指をネロの方へ向けた。
「レイチェルバズーカ.......セット、ファイア!」
そう呟いた刹那、レイチェルの人差し指から光を帯びた球体が2つ発射される。その球体はぶつかり合うと、耳を劈くような凄まじい音と光になった。
「うわぁぁぁっ!!?」
それを至近距離で受けたネロは驚いて飛び起きる。それから暫くして、光が元に.......部屋がはっきり見える迄に戻った。
「お、おはようございますなのです.......」
レイチェルは申し訳なさそうに笑みを浮かべつつネロにお辞儀をする。
「おはようレイチェル…起こしてくれるのは有難い、有難いんだが、他の方法にしてくれよぉ.......それだけは慣れねぇよ」
「す、すいません…ですが今覚えている魔法で貴女を起こせるような物はこれくらいしか無いので.......そ、それよりあっちで皆さんが待ってるのですよっ、行きましょう!」
レイチェルはそう言って誤魔化し、部屋のドアを開ける。
「そうだな、さてっ気を取り直して今日から旅の再開だ!」
ネロはそう言い、意気揚々と皆の待機している部屋へと向かった。
「ふふっ、ネロ様は相変わらずなのですね。.......っと、私も行かないと…」
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