第9話 逃避行
「リィナ…大丈夫か?」
「う、うん…大丈、夫…いつもの…事だか、ら……」
リィナは小さな声で一生懸命に自分の無事を伝える。
「で、でも……そんなに、見ないで……緊張する……」
リィナは限界だったのか、布団を使って全身を隠してしまった。
「リィナ様、そんなに恥ずかしがらなくても良いのですよっ?」
心配していたレイチェルがそう声をかける。すると、リィナは少しづつもそもそと布団から這い出てきた。
「チェー…ソー……探さない、と…皆に……惑、かかるから…」
「チェーンソーなら隣の部屋に置いている」
レジェルはさっき俺と話をしていた隣の部屋を指さす。
「ありがとぅ…!」
リィナはレジェルが指し示した場所へと急いで駆けていく。
「あんな運命を背負って生きていく…あの子には何の罪も無いのに」
誰が放ったのか分からないが、俺の耳には微かにそう呟く声が聞こえた。誰だろう…さっきの声…このメンバーの声とは明らかに違った…気のせいか?
「取り敢えずリィナが復帰して良かったよ、今から僕晩御飯作ろうと思うから、レイチェルも手伝って?」
「はいなのですっ!」
レイチェルは笑顔で頷くと、ネロと一緒に台所へと向かった。
「んー…あれだけは聞いておきたいな…」
2人が台所へと姿を消した後、俺はそう呟く。リィナからチェーンソーを引き離す…もしくはチェーンソーの呪いを消す方法。その為にも俺にはリィナに聞いておきたい事があった。リィナはぬいぐるみを抱くように、チェーンソーを大事そうに握っていた。
「リィナ、少し話せる?」
「ア…アリスさん…何でしょう?」
そう言ったリィナはチェーンソーに付いていた血を濡らした雑巾で丁寧に拭き取っている。
「そのチェーンソーってさ…捨てれないのかな…?」
幾ら何でも捨てれない事ぐらい分かっている。だけど俺はそれが本当なのか聞いてみたかった。
「チェーンソー……親の……だ、から…捨てるとね、怒られるの……私が、私じゃないみたいに…なっちゃうの……」
「そっか…」
レジェルの説明の通りだ。だが、聞かずにはいられなかった。
「じゃあ…リィナの親って…」
俺がそう質問すると…リィナの顔突然曇っていく。
「いやっ!!やめて……答えたく、ない……また、迷惑……嫌だよ……」
必死に答えるのを拒否するリィナの目には、恐怖と悲しみで涙が溢れていた。
「そっか……ごめんな、嫌な事聞いて」
俺はチェーンソーには触れないように気を遣いながら、リィナを優しく抱き締めた。
「アリス……優しい、ありがとう……」
「大丈夫、きっと呪いは解けるから」
「う、うん…っ…わ、私頑張る…」
あのチェーンソーのせいで今までリィナがどれ程辛い思いをしてたのか俺には想像もつかないだろう。リィナはしばらく俺に抱きしめられながら、静かに泣いていた。
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