第8話 リィナと呪いのチェーンソー

数分後.......。

「あんな事…言って…ごめん、なさいっ……」

先程と打って変わって、リィナは俺に深々と頭を下げる。その体は怯えているかのように震えていた。良かった、きっとこっちが本来の彼女だろう。

「いや、ちょっと驚いたけど大丈夫」

鳥肌が立った…なんて無駄な事は言わないでおこう。

「でも、さっきのは一体……?まるで取り憑かれていたかのようだったけど…」

さっきの恐ろしい表情と今の表情…まるで同一人物とは思えない程だった。

「…そ、そ……それはぁ…」

「過去の影響によって「呪い」が発動していた…あの状態は危険だ」

レジェルが言葉を繋ぐ。

「わぁ!?レジェル様帰ってたのですか!?」

「先程戻った。話に夢中になるのは分からない事でも無いが、メイドなら俺が戻ってすぐ気づくのが当然の筈だが」

レジェルはそう言ったがその口調は落ち着いていて、どうやら怒っている訳では無いようだ。

「す、すいませんなのです…っ」

「まぁ良い、……安心しろリィナ、その呪力…俺が必ず鎮めてやる」

「は…は、はい…(皆から注目が…怖いし、恥ずかしい…)」

そう小さく頷いたリィナはもう泣きそうな顔だ。

「過去に起きた呪い?…リィナの過去って…」

「駄目ですっ!」

「!?」

突如、俺の口がレイチェルの手で塞がれる。

部屋に沈黙が走る。

「…アリス、リィナの過去それだけは聞いたらいけない、やべーことになるからな…分かったな」

ネロの小さいが強い口調で、その沈黙が破られる。

「…うん」

俺は頷いた。リィナの過去…そこには決して触れてはいけない……か。余程大変な過去を送ってきたんだろうな…。

「…ねぇ、リィナ」

俯いているリィナに出来る限り優しい声で話しかけた。もう過去を聞き出すつもりは無い。俺は仲間として信頼しても安心な事を、精神が正常なうちのリィナに伝えないと。

が…リィナは反応を示さない。

「リィナ…?」

もう一度話しかけるが、やはり応答が無い。

これはーーまた「呪い」が発動したんじゃ…

「リーダー!リィナの奴立ったまま気絶してんぞ!」

「え?リィナ…本当だ…!取り敢えずベッドまで運ぶか!」

レイヴとネロは2人がかりでベッドへとリィナを運んでいった。

「…呪いじゃなくて良かった…ん」

俺はほっと胸を撫で下ろす。と、ふとリィナの居た場所を見ると、地面にリィナの武器である綺麗な装飾がされたチェーンソーが残っていた。


「このチェーンソー…」

そう言いチェーンソーに手を触れそうとするその腕を、不意に伸びてきた手で止められた。

「不用意に触るな、何の影響が現れるか分からない」

「レジェル、このチェーンソーに何が……」

俺は触れようとする手を戻しチェーンソーへ目を落とす。上半分が赤黒い血に染まっているが、これは恐らく昼にレイチェルが言っていた「食料調達」の件で使用したのだろう。

「リィナは呪われている。そして……その呪いの根源はこのチェーンソーだ」

「え…っ!?」

さっきのリィナの変貌振りもこのチェーンソーの呪いによって…?もしそうなら…。

「何で……それならチェーンソーを捨ててしまえば済むんじゃ…」

「そう出来ればとうの前にしている。それが出来ないからこうして苦悩している」

レジェルは少し困ったような表情で右手で顎に触れる。

「捨てる事が出来ない?」

一体どういう事なんだ?

「あのチェーンソーは俺がリィナに最初に出会った頃から目にしていた。その時から既にリィナのチェーンソーからは激しい殺意を帯びた強い呪いの波動が感じ取れた」

「激しい…殺意…?」

そもそも、何でリィナがそんな危ない物を…。

「調べた結果、特定の1人を殺したいという恨みからでは無く、無差別、大量に殺したいという残忍な悪魔的な殺意がな。俺は何度もリィナとチェーンソーを引き離そうとした。が、全て無駄な努力だったようだ」

「どうして……?」

俺がそう聞くと、レジェルは自嘲するかのように小さな溜息を1つついた。

「あのチェーンソー、所持者から一定距離離れると精神を狂わせる…いわば依存させる能力も存在している。その能力の前に俺は全くの無力だった訳だ。下手に引き剥がして狂わせてしまえば俺の体も保障出来ない…。」

ぎり…歯軋りの音でレジェルの感情が伝わってくる。

「チェーンソーの呪気を鎮めようとしても触れたら呪いが拡散する可能性がな……俺がもう少し強ければよかったんだが、な」

「レジェル…」

その時、隣の部屋から足音が聞こえた。

「レジェル様、アリスさん、リィナ様の意識が戻りましたのですよっ!」

「あぁ…すぐ向かう」

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