第6話 レイチェルの過去と世界の現状

「えっと……」

俺は前の世界について覚えている事全てを記憶から引き出そうとする。…だが、頭の中に穴でも空いているかのように、全く思い出す事が出来なかった。

「ごめん、そうかもしれないし、そうじゃ無いかもしれない…俺が覚えているのは、自分が男だった事と、この世界に来る直前の風景だけなんだ」

「そうなのですか……残念です…」

レイチェルは俯いた。

「……俺、知りたくなった。聴いても良いかな…レイチェルの過去を」

レイチェルの過去…これを知れば、今このカルダで何が起きているのか分かるかも知れない。

レイチェルは暫く黙って俯いていたが、やがてゆっくりと頭を上げた。

「…分かりました……では、話すのですよ?」


ーーーーーーーー

「私の本当の名前はコレット・シェアリー…私はまだ生まれて間もない頃に、両親がサルヴァという国の兵に捕まってしまって…殺されてしまったらしいので、この名前は孤児となった私を引き取って両親の代わりに育ててくれた叔父さんに付けてもらった名前なのです」

「コレット・・・?じゃあ、レイチェルと言う名は偽名?」

「いえ!決して偽名という訳ではないです。その話は順を追って説明させて頂きますので…取り敢えず続きを話しますのです」

レイチェルは一呼吸置き、話を続けた。

「スレイヴ叔父さんは私に魔法の勉強を熱心に教えてくれて、そのお陰で少し大きくなった頃…今から4年前でしょうか?では回復を中心とした沢山の魔法を使いこなせるようになったのです、そんなある日スレイヴ叔父さんは言ったんです。「お前なら2年前に起こった隣国との…サルヴァとの激しい乱争の際に盗まれたカルダの守護剣を取り戻せる…これは親の敵を討てるチャンスだぞ」と。そうして私はレジェル様やネロ様に出逢ったのです。私は人見知りが激しい方なので最初は…特にレジェル様と話す時はとても緊張しましたのです…。そして、レジェル様にスレイヴ叔父さん同意の元、パーティに参加するに辺り新しく…レイチェルという名を頂いたのです。可愛い名前なのでかなり気に入ってますのです…と、長くなってしまってすいませんのです、取り敢えず私の過去については一通りお話致しました」

「…そっか…成程ね…」

まさかレイチェルにそんな過去があったなんて…。そういえば良く考えればレジェル、とレイチェルって名前が似てなくもないな…

「なぁ、レイチェル」

俺はもう1つだけ、どうしても聞きたい事が残っていた。

「まだ何か…?」

「うん、一体このカルダで……何が起こってるんだ?と言うより…俺は何の目的で召喚されたんだ?」

「うーん…」

レイチェルは困ったような顔をする。

「また長くなりますけど…宜しいでしょうか?」

「おう、知ってる限りの事だけで良いから、聞かせてくれ」

その、目的さえ達成出来れば元の世界に戻れるかもしれない。そう期待しながら、俺は話を聞くことにした。

「わかりました、では、お話致しますのです」

レイチェルはゆっくりと話し始めた。

「先程の話の中でも少し触れたように…ここカルダより二つ国を挟んだ所にあるサルヴァという国……その国と対立してしまっているのです……。元は仲の良い国同士だったらしいのですが……、4年前に起きた大きな抗争によって、サルヴァの皇帝にカルダ城の頂上に刺さっていた蒼剣を奪われてしまったのです。あの蒼剣には国のシンボルである他に不思議な力があって、神聖な力で魔物を寄せ付けない能力、そして所有者のほぼ全ての戦闘力を限界まで引き出す能力があったのです……。このまま蒼剣が戻らないままだとこの国はいずれ……。もう抜かれてから4年経過していますので、年々魔物の出没量が増えていってしまってて……。私はその奪われた蒼剣を取り戻す旅に共に出撃する仲間を集める為にあなたを召喚したのですっ……」

「………」

まさか一国の運命を左右するような重要な旅に俺はこの世界へ送られたのか…。だとすると俺が元の世界に帰る条件は、その蒼剣を取り戻す事?

「ハハ…これはまた随分と大変な事に巻き込まれた、な……」

俺は小さく呟いた。

「っと……、以上なのです。ご理解…いただけました?」

レイチェルは心配そうに俺の顔を覗き込む。

「…あぁ、理解したよ……」

諦めに近い声でそう返答した。

兎に角、やれる所までやるしか無い…か。

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