第4話 拠点に到着

「頑張ってなのです!もう直ぐで着きますよ…きゃっ!」

さっきからずっと俺の方ばかり気にかけて歩いてたせいか、レイチェルは前を歩いていた大柄な男に気づかず、勢い良くぶつかった。

「おっと、嬢ちゃん気をつけな…ってあんた…レイチェルじゃねえか」

その男はレイチェルを優しく抱き抱え、親しげな笑みを浮かべた。

「えっ……わぁっ叔父さん!久しぶりなのです!ぶつかってしまってすみません…っ」

レイチェルはその男に挨拶と謝罪の2つの意味を込めて頭を下げた。その頭に男の大きな手が乗せられる。

「おうおう、確かに久しいな。確か最後に会ったのは三年前だったか?お前さんも随分大きくなったなぁ」

その男はとても懐かしみながらレイチェルを優しくなでた。

「はい!お陰様で昔より魔法の腕も随分上がりましたのですよっ!えへへ……私ももう1人前なのですっ」

元気よくそう言ったレイチェルはとても嬉しそうだ。

「そうかぁ、それは頼もしいなぁ!だがな、くれぐれもさっきのは気をつけろよ?お前も知ってる通り最近は魔物共の影響でここも荒みつつあるからなぁ……。これも、あの奪われた蒼剣の影響ってことかねぇ。まぁ、もしぶつかったのが俺じゃなかったら今頃死んでたかもな、わははっ!」

その男は豪快に笑う。

「わ、笑えませんよ~…うぅ、今後気をつけますのです……」

「おう、そうしな……ん?そっちの連れは新入りかい?」

スレイヴと名乗ったその男は、ここで初めて俺に視線を向けた。先程のレジェルとは正反対のとても穏やかで親しみ易そうな表情だ。これなら俺も緊張しなくて済む。

「はい、ついさっきレイチェルから召喚?されてきました」

取り敢えず自己紹介をしたが、こんな変な自己紹介で良いのだろうか……。だがスレイヴは笑顔が崩さぬまま俺に近づいた。

「そうか、それなら今後はレイチェルを守ってやれる位には頑張れよ!そんな良い得物を持っているならな!」

スレイヴは笑顔で豪快に俺の右の肩をバンバンと叩く。

「は、はい……ってちょっと痛いです…」

スレイヴにとっては只のエールのつもりなんだろうが、叩かれた肩がとても痛い…。性別が変わった影響で、感覚も変わったのだろうか。

「叔父さんっ彼女が痛がってるのですよ!やめてあげてくださいっ」

レイチェルの言葉により、荒々しいエールから救出される。

「あぁ……わりぃわりぃ。んじゃ、俺は今から狩りの予定が入ってんでな、またな、お前さん達」

そう言うとスレイヴは自分たちの反対方向である森の方へと歩いていった。

「あの人と知り合い?」

さっきのでひりひりする肩を左手で抑える。

「私の叔父さんなのです!今のパーティに入る前、私は叔父さんに育ててもらっていたのです」

「叔父さん…?なぁ、じゃあレイチェルの親って……」

俺がそう言うと、今までずっと笑顔だったレイチェルの表情が急に曇る。

「…あぁ、えと…すみません、その話はまた後で……取り敢えず今は宿舎へ行きましょう?」

ぎこちない笑みを浮かべながら、レイチェルは宿舎へと足を進める。その歩みは明らかに先程までより早い。

❪俺は何か触れてはいけない質問をしたんだろうか…?❫

気にはなるが、これ以上質問するのはレイチェルに悪い。俺は黙って宿屋へと急ぐ。

「さてと…っ、着きましたよ、ここが宿舎なのです」

徒歩数分、レイチェルはそう言い、レンガのような物で作られた建物の前で足を止めた。レイチェルの言う話では、どうやらここには色んな職業の人間や善良な魔物が住んでいるが、最近魔物の入居者が減りつつあるそうだ。 レイチェルはその建物の中に入ると、沢山の扉を横を通って一番奥まで進み、220と書かれたその扉を開いた。

「よいしょ…っと…今戻りましたのですよ~」

扉はやけに頑丈な造りになっており、簡単な力では開かない仕様になっている。少なくとも今の……いや、前までの俺でも1人じゃ絶対に開けられないだろう…。

レイチェルは部屋の中へと入っていく。俺もそれに続いた。

「随分と遅かったな」

その部屋に居たのは先程の男。

レジェルは椅子に腰掛けながら真黒な剣を手入れする手を止め、顔を上げた。木製のテーブルに置かれたカップから湯気が立っている。

「え、えっと…」

会ったのは良いが何て話しかければ良いか……というか何を言うべきか分からない…。何も言えずにただ固まっていると、彼の口が先に動いた。

「貴様、名はなんだ」

いつの間にか近づいていたレジェルは氷のように冷たい手で俺の俯いた顔を上げた。

「う……っ」

何だこれ、物凄く怖い…。レジェルの表情と目はまるで親の仇を見るような目だ。早く答えてしまわないと最悪の場合命は無いかもしれない。そう直感した俺は半泣きで呟くように答える。

「え…えっと、俺の、名前は……名前……は……」

………ここで俺は肝心な事に気づいた。名前…あれ?俺の名前ってなんだっけ?今まで1度たりとも忘れたこともない自分の名前が一体何だったのかどうしても思い出せない。

「ど…どうしよう…」

俺は遂に何を言えば良いか分からなくなってしまい半分パニック状態に陥る。もし取って付けたような下手な偽名を使ったとしてバレたりなんてしたら……。だからといって分からないと答えれば怒りを買ってしまうかもしれない。もしそうなったら……。

「レ、レジェル様…そんなに怖がらせたらこの子が可哀想なのです……」

レイチェルはこの緊迫した雰囲気に居たたまられなくなったのか、そう言って俺を庇ってくれた。

「静かにしてろ……にしても、自分の名を答えられないか。と言う事はお前もレイチェルと同じ…」

❪同じ…?❫

俺はレジェルの言ったレイチェルと同じ、という言葉の意味を理解出来なかったが、反射的に頷いた。

「そうか。ならお前の名は今ここで召喚主に付けてもらえ」

レジェルはレイチェルを指差しながら言った。

「はわぁ!?私が……なのですか!?」

唐突な指名にレイチェルは驚く。

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