魔族が救世主を召喚したらアイドルがやってきたのでテッペン目指します。

@sabahage

第1話

『四面楚歌と言うことか。』


城壁を取り囲む松明の明かり。

鎧の音、馬の嘶き。

しかし、不思議な静けさが広がっていた。


それはそうだ、例え難攻不落の魔王城とてこの軍勢の一斉攻撃に耐え凌ぐ事は出来ない。

それは、立て篭もる魔王軍のみならず、取り囲む人間の軍勢にも分かっていた。

だからこそ、互いにその時を待っていた。

戦の終わりの始まりを。


異世界から伝わった言葉で、城壁より己の置かれた状況を嘆く男もまた、その始まりを待つ者の一人であった。


『魔の時代は終わりを告げ、人の世が始まる………などと、そんな事、認められるか!』

否。始まりを拒否する者であった。


『どうする!?どうする!考えるんだ、魔王四天王1の知将の意地を見せる時だ!』

親指の爪を噛みながら神経質そうな顔を顰め、ウロウロと歩むこの男は魔王軍の幹部、アラーメン。

本人は四天王と嘯いているが、早い話末期の組織にありがちな話、上の者がどんどんいなくなり、もはやこの男程度しか管理職がいない……という意味状況であり、所詮その程度の知であるので、正攻法でこの状況を巻き返す事など不可能であるように見えた。


『そう!四天王…ついに四天王にまで出世したんだ!ここで、ここで終わってなるものか……!』

ギリ、と歯噛みし。ガリガリと爪がどんどん削れていく。ガブっと指までかじったとき。


『いだっ、は!そうだ……!』


踵を返して走り出した男は思い出した。

逆転の一手を。

嬉々とした顔で城壁から地下室に走る男には未来が待っていた


『ふはははは!人間より奪ったアレを使う時が来たのだな!』


その未来が彼を苦しめるという事は勿論彼はこの時知らぬ訳である。



------


『異世界より救世主を召喚し使役する……くく、力なき虫どもが思いつきそうな事だ。

己の力ではなく、そんな物を頼るのだからな!』


魔法陣を描き終え、中央に置かれた女神像を見ながらそう嘲る。例え、その存在に己もまた頼るのだとしても、魔族的に嘲るのは魔族的矜持であるので、決して彼が小物的精神の持ち主だからでは無いとしておこう。


『先代の四天王が人より奪い取ったまま、忘れられていたのを覚えていた吾輩の記憶力の勝利としか言えぬな。

くくく……まさに魔神の見えぬ手というやつよ。』


元は人間達が魔族に対抗する手段である。

奪いこそすれ使おうと言う発想は普通の魔族にはないだろう。

しかし、アラーメンは手段を選ばない男である。そういうと残虐非道の鏡であるが、単純に能力も人脈も財力もないだけである。

だからこそ、縋れるものには例え異教の、敵の救世主にだって頼るのだ。


『さぁ!いでよ!異世界の救世主よ!

我が呼びかけに応えたまえ!



……応えてくれ!?マジでヤバいんだ!早く早く早く!』

しかし、魔法陣はうんともすんとも言わず、ただ男の声だけが木霊する。


そして、ドシーン!!という衝撃と埃が天井から落ちてくる。

そう、終わりの始まりの音だ。


『く!?ついに攻め込んできたか!?

ぇえい!早くしろ!誰でも良い!

この場を乗り越えれる者をよこせ!

いや、来てください!?

本当、死にたく無いんだ!?

助けてくれ!!!』

魔法陣にかける声はどんどん涙まじりとなる。


『なんでだ……くそ……何年も何年もこき使われ、パワハラにも耐えて、やっと役職を貰えたと思ったらこれだよ……

何が四天王だ!何が魔王軍幹部だ!

ただの捨て石じゃないか!?』


そう。この戦いは魔王軍の貴族達を逃すための戦い。少しでも位の高い貴族達を逃がし、ここで即席の幹部の首を差し出して手打ちにしようと言う魂胆なのだ。


『吾輩は……吾輩は……

認められたかっただけなのに……』

鬼の目……ならぬ、魔族の目からこぼれ落ちた涙が魔法陣に触れた瞬間、


ピカーーンッ!!


七色の光が渦を巻いて、室内を満たしてゆく。

『なななな……!?』


七色の光の中から桃色の声が響き渡る

『聞こえた!』


『何がー!?』

そして何故かもう一つ男の声が


『助けを呼ぶ声が!

 だから来たわ!』


『何しにー!?』


『みんなに笑顔を届けるために!

 みんなー!私の名前はー!?』


『ミキちゃーーーん!』


『はーい!!』

バァァァアン!

七色の光が弾け飛び、魔法陣の上に若い……十四、五ほどの歳の桃色の髪をした少女が決めポーズをしながら立っていた。


『チェーンジッッ!』

『え!?』



アラーメンが腕でバツマークを作り

『吾輩が呼んだのは救世主だ!?

 貴様みたいな恥ずかしい格好をしたガキではないぞ!?』

ミキが身につけていたのは、俗に魔法少女と呼ばれるような服装であった。

アラーメンだってわかる。

コレは求めていた者ではない。


『ふふ……お待ちください。ミキちゃんは地方営業のプロ。こんな辺境の地でもオーディエンスを盛り上げますとも。私が保証します。』

メガネをクイッと中指で持ち上げたチェックシャツの男はアラーメンの横でそう指摘した。

『誰!?』

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