第5話 努力だけで


今日からは冒険者にあるための、実践的な授業も始まるらしい。

僕もアスナも、緊張していた。


「私、冒険者なんかになれるのかな……? そういうゲームとか詳しくないんだけど……」


「そのげえむってのは、本当によくわからないんだけど……。アスナなら大丈夫だよ。すごいスキルに恵まれているからね。剣術だって、僕が教えるさ」


「ありがとう、レイン」


Fクラスにやってきた教師は、こわもての中年男性だった。

剣術担当らしく、背中には5本の剣を背負っている。

5剣のラギータの名で有名な先生らしい……僕は聞いたことなかったけど……。


「なんだか昔ながらの体育教師のような感じの先生ね……」


「そうなの? アスナの世界にも、ああいう先生いるんだね」


なんだか妙な親近感を覚えるなぁ。

いつか僕も、アスナの世界を見てみたい。


ラギータ先生は、背中の剣を1本抜き、地面に突き刺し、僕たちFクラスの生徒を威嚇した。


「ようFクラスのザコども。今日はこの5剣のラギータさまが、直々に、貴重な時間を使って指導してやる。本当はAクラスの育成に時間を使いたいところだが……これも仕事なのでな。せいぜい俺の剣術の授業で、冒険者として最低限使えるようにしてやる。まあ、お前らみたいなろくなスキルも持たないザコが、いくら剣を鍛えたところでエリートには到底かなわないだろうがな!」


Fクラスのみんなは、それだけで萎縮して、自信をなくしたように顔色が曇ってしまう。

でも僕だけはそんな言葉に惑わされない。

僕は自分の努力を、信じているから。


「なんだか軍隊みたいね……」


「アスナの世界にもこういうの、あるんだね」


「そこ! 私語をするな!」


「「す、すみません……」」


「まったく……Fクラスのくせに生意気だな。おいそこのお前、俺が指導してやる」


「え? 僕ですか……?」


困ったな、先生に目をつけられてしまった。

でも、僕の実力を見せるいい機会だ。

僕は自信満々に、袖を捲る。


「ようし、やる気だな。クズにしてはいいタマしてるじゃねえか。来い! 剣を抜け!」


僕は自分の剣を抜き、先生に向ける。

先生も、5本あるうちの一本を構える。


「あれ? ほかの4本は使わないんですか?」


「はぁ? てめえなんて1本で十分だよ。俺の固有スキル《五剣乱舞》を披露するまでもねえ。このスキルなしがよ!」


スキルなしか……一応僕にも《範囲自動翻訳》《絆》っていう固有スキルがあるんだけどなぁ。

非戦闘スキルはスキルともみなさない、か……。

それならそれで、実力だけで勝負するまでだ!


「行きます!」


「来い!」


先生が固有スキルを使わないのなら、条件は僕と同じのはずだ。

単純に剣術だけでの勝負!

それなら、僕にも勝ち目がある!


――キン! キン! キン!


あれ……?

おかしいな……。

先生の太刀筋が、まるで止まって見える。

もしかしてこの人、弱い……?


「ふん、なかなかやるな!」


先生はそういうけど、僕はこれでもかなり手を抜いている。

危うく本気を出して先生を殺してしまうところだった……。

そのくらい、僕たちの剣術の実力はかけ離れていた。


「どうした!? やはりスキルの無いザコは剣も弱いのか??」


先生は僕の手加減にも気づかずに、挑発してくる。

これは、自分の実力すらもわかってないみたいだ。

もしかして、レベル低すぎ……?

でも先生を倒してしまうわけにはいかない。

ここは相打ちで手を打とう。


――ガキン!!


僕が思いっきり剣を打ち付けると、剣と剣は鈍い音を立てて、両方ともポキッと折れた。


「っち……折れちまったか、なまくらめ」


「いやあ、先生がお強いからですよ」


「ふん……もういい。茶番は終わりだ、授業に戻るぞ」


どうやら今ので、先生も僕の剣の実力を見抜いたようだね。

そうとう悔しい顔をしている。

授業は先生のイライラのせいで、なかなかスムーズには進まなかった。

それでも、まあ悪くはない授業だった。

しっかり剣術の基礎を教えているし、これならアスナも剣の達人になれるだろう。


授業が終わると、アスナが僕にこう言った。


「レインって、剣の腕もすごいのね……。びっくりしちゃった」


「まあ、ずっと努力だけはしてきたからね。それだけは、誰にも負けない」


「努力していてかっこいいわ。正直、尊敬しちゃう」


「はは、ありがとう。でも、この国では努力なんて認めてもらえない。才能だけがすべてだと、切り捨てられるんだ」


「私のいた世界では、努力は最大の美徳よ。だから、自信をもって」


「ありがとう、アスナ」


やっと、僕の努力を認めてくれる人に出会えた。

僕はそのことが、何よりもうれしかった。

自分の実力は常に疑わなければならない。

だけど、努力だけは裏切らないから――努力だけを信じなさい。

それが、僕のお爺ちゃんの口癖だった。

だからこそ、アスナの言葉に、救われたんだ――。

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外れスキル《範囲自動翻訳》のせいで、異世界からきたクラスメイトたちが離れてくれない。戦闘スキルのないゴミはFクラスだ!と言われたけれど、長年の努力とクラスメイトとの《絆》でAクラスまで成り上がります。 月ノみんと@世界樹1巻発売中 @MintoTsukino

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