第4話 いきなり脱がないでよ!


その日は結局、簡単なオリエンテーションだけで終わった。

まあ、そうだよね。

いくら冒険者学校といっても、初日から激しい授業とかはないよね。


「アスナ、この後どうするの?」


アスナは異世界からの転移者だ、行く当てもないだろうし……。


「うーん、そうねぇ……正直、どうしようもないわね。せめて寝るところさえ確保できればいいんだけど……」


そうだよね……言葉も通じなくて、お金もない。

そんな状況、僕でも怖いだろう。

アスナはそれを独りで……。

そうだ――!


「アスナ、僕の家においでよ!」


「えぇ!? その……いいの?」


「もちろんだよ! 困ってる友達を独りで放り出したりしないさ!」


「ありがとう……レイン」


アスナはなぜか顔を赤く染め、お礼を言う。

どうしてそんな反応をするんだろう?

僕はただ家に誘っただけなのに……。





学校を出て、僕の家にやってくる。

アスナは僕の家の広さに、口をパクパクさせて驚いた。


「もしかして……レインってお金持ち……?」


「まさか! これくらい、普通だよ。それに、ここはお爺ちゃんが残してくれた家だからね、僕がお金持ちなわけじゃない」


「へえ、おじいさんのお家なんだ……」


まさかそこまで驚くなんて……。

もしかしてアスナのいた世界では、土地が少ないのかもしれない。

でもまあたしかに、この家はただの民家にしてはそこそこ広いといってもいいかもしれない。

それでも、貴族たちのお屋敷にはぜんぜん敵わないけど。


「レインはここに、一人で住んでるの?」


「まあね、だから、部屋はいくらでも余ってるんだ。好きに使ってよ」


「あ、ありがとう……」


もしかして、同じ部屋で寝ると思ってたのかな?

アスナがさっき動揺してたのって……そのせい?

だとしたら、誤解させてしまったかな。


「なんで一人で住んでるのか、聞いても大丈夫だったりする?」


「ああ、それはね……追い出されたんだよ、実家を」


「えぇ!? そうなんだ……」


「まあ実は僕の実家は、結構な名家なんだけど……僕みたいな出来損ないは邪魔らしいんだ。固有の戦闘スキルが発現しなかったせいで、縁を切られたんだ」


「そんな、酷い……!」


「はは、ありがとう。でも、僕は気にしてないんだ。煩わしい貴族の暮らしとおさらばできてね。それに、お爺ちゃんがこの家をこっそり譲ってくれたおかげで、暮らしにも不自由してないしね」


「そうなんだ、よかった……」


僕は実家を追放されたせいで、その姓を名乗ることを許されていない。

ほんとうなら、あのAクラス行きとなった生徒――ガイアール・ジジョーの家よりも、僕の実家のほうが高名な家なんだけどね……。

僕の本当の名は、シュトレンフィードじゃない。

エルドラワース家といって、国の中でも5本の指に入るくらいの名家だ。


僕のお爺ちゃんは、その昔魔王を封印したパーティーの一員だった。

それで、こんなに大きな家を隠し持ってたんだね。

お爺ちゃんは父さんと違って、僕をスキルで判断したりはしなかった。

僕の剣術や体術の基礎も、お爺ちゃんから教わったものだ。

まあ、もう死んじゃったんだけどね……。


「さあ、僕は夕飯をつくるから、アスナはお風呂にでも入ってきてよ!」


「え!? お風呂とかあるの!? うれしい!」


「当然あるよ? アスナの世界には生活魔法や、魔法道具はないの?」


「うーん……似たようなものは、あるかなぁ……? 電気や電化製品っていうやつなんだけど」


「そうなんだ、じゃあ、基本はおなじなんだね」


その後、お風呂上りに夕食を食べた。

この世界の食事が、アスナの舌に合ってよかった。

久しぶりの食事だったみたいで、とてもおいしそうに食べてくれた。





夜もふけてきて、そろそろ寝る時間になった頃――。

急にアスナの顔が紅潮してきた。

お酒を飲んだわけじゃないのに、どうしてだろう。


「そ、その……! レイン……?」


「どうしたの?」


なぜかアスナの声は緊張で震えていた。

そんなに言いにくいことなのかな?

もしかしたら、この家に不満が?

だとしたら大変だ、僕がなんとかしないと!


「わ、私! わかってるから、もう高校生だし……。その……経験ないけど、レインなら、構わないから!」


「え? なに?」


さっきからアスナの言ってることがぜんぜんわからない。

《範囲自動翻訳》の効果は働いているはずだけど……。


「その、私の友達にに慣れてる子がいてね、だから……だってことは、知ってるから。泊めてもらうっていうのは、なんだよね……?」


「え、ちょ……!?」


そういうと、アスナは急に服を脱ぎ始めた。

真っ白な肌――僕たちとは人種が違うのか、さらにきめ細かく、もちもちっとした美しい肌だ。

その肌が、一瞬のうちにして僕の眼前にさらけ出される。

まるで、神話上の女神を見ているようだった。


「ななななななな……なんでいきなり脱いでるのさ!?」


僕はあわてて、目を閉じる。

見とれてしまって、数秒間目に焼き付けてしまったことは、後で謝ろう。

でもこの景色は、たぶん一生忘れない。


「なんで……って、そういうものなんじゃないの? 私には、他になにも差し出せるものがないし……レインもそれを期待して私を誘ったんでしょ?」


「そ、そんなわけないじゃないか! 僕はただ友達を、見捨てられないから誘っただけだよ! それに、は、ほんとに好きになった人とじゃないと!」


「そうなんだ……私のいた世界では、そういうのが当たり前だったから……異世界こっちでも、っていうか……異世界こっちでは余計にそうなのかと思ってたわ……」


アスナのいた世界って、いったいどんな殺伐とした世界なんだろう……。

別にタダで宿を提供するなんて、あたりまえのことだと思うけどな。


「とにかく僕は気にしないから! 服を着て!」


「うん、わかった……ごめんね? 私も、少し暴走しちゃったみたい」


「僕も驚いたけど、大丈夫だよ……。もう、今日は寝ようか……」


僕がその後、なかなか寝付けなかったのは言うまでもない。

だって隣の部屋ではアスナが寝ていて……。

さっき見たものが頭から離れないんだもん。


「うぅ……異世界の女の子と同居するのは、思ったより大変かもしれないぞ……?」


僕はベッドで横になり、そう独り言をこぼすのだった――。

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