第8話 ENDmarker.

 警官が来た。

 あの、検問のときの警官。


「おい。缶コーヒーごと車を放置するんじゃない。せめてどこかに捨てろよ」


 警官から返された缶コーヒーには、発信器がついていた。それを利用して、車をこの公園から遠いところに停めている。


「時間がほしかったんです。彼女との、時間が」


 警官。やる気がなさそうにしているのも、あくびさえも、演技だったのだろう。


「彼女は。わるくないです」


 それしか、言えなかった。

 どれだけころしても。

 わるくない。そう言いたかった。そう思いたかった。


「俺のせいです」


 なんでもいい。自分を傷つけたかった。少しでも、彼女と同じでいたかった。


「何がおまえのせいだよ」


 警官。いや、警官ではない。服装。受ける印象も、官公庁のものではなかった。


「しいていうなら、街のせいだな」


 違和感。警官ではない。やる気がないわけでもない。


「女性、ですか?」


 確信があって言ったわけではなかった。


「お」


 目の前の男、いや、女が、服のボタンをいくつか外した。途端に、胸の主張が大きくなる。


「助かるね。胸が解放できる」


 どうでもいいことだった。この、人の裏を見抜く力でさえも。もう、必要がない。


「その女の身柄は、預かる」


「どうぞ」


 どうしようもなかった。


「好きだったのか。この女のことが」


「ええ。ずっと。でも、鐘が鳴ったら帰らないと」


 もう、朝になった。鐘は鳴らないけど。

 自分と彼女の時間は、終わった。

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