第3話

 あのとき。

 こどものときに、ふたりで遊んだ公園。

 そのまま、目の前にある。

 何も変わっていない。砂場。鉄棒。すべり台。あの日のまま。あの頃のまま。

 彼女だけを残して、自分は街を出た。こどもの頃の話なので、彼女はその後どうなったのかも分からない。

 普通に生きていて、自分のことなど忘れて誰かと付き合って幸せにしていてほしい。そう願うけど、現実は。願った通りにはいかない。

 自分がいなくなった後、彼女に何があったのか。

 夜になった。

 公園のベンチに座ったまま。そういえば、鐘は鳴ったのだろうか。分からなかった。昔のことだから、今はもう鐘どころか協会すらないかもしれない。

 夜。

 遠くに、街のネオンが見える。そして、星空。


「不思議な街だな」


 ネオンが輝いているのに、星もたくさん見える。


「そうだね」


 声。

 ベンチ。

 隣。

 彼女がいた。

 信じたくなかったけど。

 いろんなところに貼り出されていた指名手配の写真と、同じ顔。


「ひさしぶりにこの街に来たら、あなたがいるなんて」


「不思議なこともあるもんだな」


 しばらく、ベンチでふたり、くっついていた。

 お互いに、絶妙な何かを、計っている。


「っぐ」


 彼女の小さな呻きで、その時間も終わった。否応なく、感じてしまう。血の、匂い。


「見せて」


「やだ」


 彼女に必要になると思って、一応の救命ぐらいはできるようにしてきた。これも結局、彼女のため。役に立ってほしくはない知識が、役に立っていく。わるい方向に進んでいく自覚があった。


「共犯に」


 言いかけた彼女が、歯をくいしばる。

 服を脱がせた。

 ひどい状態だった。銃弾が弾けて、木の枝が散らばったのだろうか。いくつも刺さっている。筋肉で止まっているから、面倒なことはない。ただ、血がかなりの量出ている。


「1本ずついくよ」


 刺さっている枝を、抜いていく。その都度止血。


「血を失ってるから、動かないで」


「やだ」


 服を着せると、彼女は動き出した。

 知っている。この動き。こどものときと同じ。

 砂場に走っていって、うずくまる。


「そっか」


 止めようがなかった。身体の血は抜けているので、きっと身軽に動けるだろう。気分も軽くて、動いていて楽しいはず。そして。血が限界量を越えれば。動かなくなる。彼女の、最後の挙動。

 彼女自身が動きたいのなら、動けばいい。その結果しぬのも、彼女の自由だった。見届けるぐらいしか、自分には、できない。

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