第2話
「へえ。ここの生まれなんですか」
いかにも平和ぼけしたような、警官。あくびしている。
「はい。こどもの頃に少しだけ」
何年振りになるだろうか。この街の景色を見ることができるのは。
「はい。じゃあ、ちょっと待ってくださいね」
やる気のない警官が、車に引っ込んでいった。いくらやる気がなくても、検問はちゃんと行うらしい。
「はい。大丈夫です。お通りください」
「失礼ですが」
「あ、はい」
この警官なら、もしかしたら色々教えてくれるかもしれない。
「なんの検問なんですか?」
ついでに差し入れ。車に常備してた缶コーヒー。
「あ、ああ。これね」
警官がコーヒーを受け取る。やはり、だらしのない警官。普通なら市民の供出物に手をつけたりはしない。
「大量殺人犯がこの街に来るかもしれないって話らしいんですよ。まあ、ありえないことだと思ってるんですけどねえ」
警官が缶コーヒーのふたを開ける。
「まあなんともこちらも信憑性の判らんタレコミとかがありましてね。動かざるをえないってわけです。はいコーヒー」
「あ、はい」
いちおう警官の端くれではあるらしい。コーヒーは飲まなかった。それにしても、ふただけ開けて返すって。
「なんか話によると、もう虫の息らしいんですよね。山のなかで熊と間違われて猟銃で撃たれたとか」
それは知らない情報だった。
「ありがとうございます。検問がんばってください」
「はいはい。どうもお」
流れ作業のなかでも。情報は得られた。
ただ。
良い情報ではない。
「虫の息、か」
缶コーヒーを、飲みほして。
街に入った。
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