Numbers on a remote island

らいお

Numbers on a remote island

「今日は1だろ」


 俺は今日も数字を唱える。

 俺が数字を唱えるようになってから、どれくらい経っただろうか。

 正確な時間を知る術を持たない俺は、登る太陽をフィルター越しに見上げては、明日が来たのか、今日のままなのか曖昧な思考をただただ巡らせていた。

 空腹も限界を迎え、今日飲む水すらままならない。体力の限界以上に、そんな状況が俺の精神を限界まで追いつめていた。

 俺は少し木陰で身体を横たえ、休息を取ることにした。



 俺がこの戦争に参加する事になったのは生まれた時代が悪かったからだ。

 2019年後半、世界的に大流行したウィルスを基に、大国は裏で強力な細菌兵器を完成させた。そうして、世界の経済、及び覇権を狙った第三次世界大戦が始まるまでにはそう時間はかからなかった。

 進みすぎた科学――細菌兵器は、世界の相互牽制を意味のないものとし、100年の沈黙を経て、世界戦争の火蓋はいとも簡単に切られるのだった。


 このウィルス――もとい、細菌兵器は中国が独自で開発していたものが杜撰な管理体制であったが故に必然的に施設から流出し、それは動物に運ばれて人里へともたらされた。

 最初のうちは症状が風邪や肺炎に似ていることからあまり注目されていない流行り病とみられ、開発施設は流出の事実を隠蔽しようと工作を始めた。だが、爆発的な感染力は猛威を振るい、短期間の間で中国全土、そして全世界へと広がっていった。

 中国が独自で開発していたという事実は流出経路から逆引き的に推測することで、世界各国の重要機関に知れ渡るまでに時間はそうかからなかった。

 知れ渡ってしまえば後の祭り。各国は細菌兵器の脅威を畏れ、対抗手段として新たな細菌兵器を創り出す。第一次世界大戦時の毒ガス兵器(化学兵器)を各国が取り入れて戦っていた頃と、まったくもって同じ事を繰り返しているのだ。

 この世界の重要機関は化学兵器の恐ろしさ、そして戦争に於ける実用性、軍事的価値を過去の戦争から十分に理解している。それは、核と渡り合うほど強力なのだと。


 そして、最初に細菌兵器が猛威を振るいだしてから40年の月日が流れる。

 それまで各国は互いに細菌兵器を作り牽制しあっていたが、ある出来事がきっかけで戦争へと発展してしまう。

 その出来事とは、2060年オリンピックだ。

 全世界から1国に選手や関係者が集まる。それは、戦争にもなりかねない程互いに睨み合った状態でも変わらない。それは言ってしまえば、そのタイミングであれば世界各国に対して喧嘩を吹っ掛けるのに絶好の舞台だった、という事だ。

 どこの国から仕掛けたのかは分からない。2種類3種類と、複数の種類の細菌兵器が使われていたことから複数の国が仕掛けた事だけが分かっていたが、これが開戦の合図となった事だけは誰もが知る事実だろう。



 俺の所属していた小隊は、中でも戦いの激しかったとある孤島に派遣された。肉体も精神も蝕まれ、誰もしゃべる事が無くなったある日、皆で1つのルールを決めた。


「毎日1回、数字を唱えよう。それはどんな数字でもいい。例えばそうだな……翌日の昼食の品目数なんかを。こうだったらいいなぁ、って」


 それから俺達は毎日、寝る前に数字を唱える事にした。

 毎日の激しい戦火によって、小隊のメンバーは日に日に減っていった。



 俺は今日、ついに1人で数字を唱える事になった。

 もう思うように体は動かず、もはや戦争の勝利も、無事に帰る事も望めないような精神状態だった。


(あぁ、今日は何の数字を唱えようか。なぁ皆、何が良いと思う?)


 そんな事を思っても周りに仲間はもういない。

 薄れゆく意識の中、複数の銃声が響いた。

 どうやら敵は近い。もう無理だろう。逃げられないだろう。それでも、不思議と心は落ち着いていた。これで、ようやく小隊の仲間の所に行けそうだ。


「今日は1だろ。俺が、俺だけが死ぬ」

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Numbers on a remote island らいお @Raio0328

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